2022/10/14, Fri.

 ぼくは一体どういうわけで愛らしい花の入った箱を頂いたのでしょうか? ぼくは頂く値打ちがあるとは思えませんし、むしろ箱のなかに悪魔が潜んでいて、ぼくの鼻をつねり、もう離さず、いつも連れ歩かなければならなくなった方が、ぼくにはずっと似合っているでしょう。ぼくが元来花にはセンスをもたず、今もつまりは、それがあなたから来たものだからこそ尊重するので、それもあなたの花への愛情を通してのみ尊重するのだということをお分りでしょうか。もう子供のときから、花に対する理解のなさのため、ほとんど不幸だった時がぼくにはいつもありました。この理解のなさが一部は音楽に対するぼくの理解のなさと重なり合っていて、少くともぼくはこの関連をしばしば感じました。花の美しさはぼくにはほとんど見えませんし、一つのバラはぼくにとって冷めたい物にすぎず、二つあればもう区別がつかず、花の組み合わせはいつも恣意的で、効果のないものに思われます。無能力なものがいつもそうするように、ぼくもよく他人に対し自分が特別花に愛情が(end302)あるよう見せかけることに努めました。無能力を意識したすべてのものとおなじく、ぼくは、花に対して鈍感な、他の性質と比べてどうという程でもない愛情を抱いているような人々を欺くことができました。たとえば母はぼくをきっと花好きと考えていますが、それはぼくがよく花を贈り、針金で束ねた花を見るとほとんど慄えるからです。しかしこの針金は本当は花のせいでぼくの心を乱すのではなく、ただ自分のことを考え、生きものにくいこんでいるこの一片の鉄が、だからこそぼくには厭わしいのです。(……)
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、302~303; 一九一三年三月一〇日から一一日)




 一〇時台に覚醒。ちょっと深呼吸。そのまま起き上がらずに、もう枕もとに置いてあるChromebookを手に取って、ウェブを見つつ腰とか脚をほぐしはじめた。ちょっとしてから水だけ飲もうといったん布団を抜けて、冷蔵庫のペットボトルの、のこりすくない水を半分ほどマグカップに。それを腹に入れるとまた寝床にもどって、ごろごろしながら過去の日記を読みかえす。カーテンもあけておいたが、天気はまったくの曇り、あかるさもなくて寒々とした淀みの昼前だ。洗濯物を洗いたいのだが、これではそとに出してもしかたがない。雨が来ても不思議でなさそう。一年前の日記にたいしたことはなく、目にとまったのはニュースくらいか。

(……)新聞は衆院解散および選挙の話題や、子どもの不登校が最多という報など。黒田夏子紫式部文学賞を受賞ともあった。『組曲 わすれこうじ』。黒田夏子は八四歳らしい。きのうだったか、泉鏡花文学賞の報もあって、村田喜代子というひとが取っていたがはじめて知るなまえだった。しかしこのひとももうベテランで、七六歳くらい。泉鏡花文学賞はいま金井美恵子が選考委員をつとめているから多少気になる。

国際面にはミャンマーで拘束中のウィン・ミン(NLD政権で大統領)が首都ネピドーに設置された特別法廷に出廷と。クーデター時のことを証言したといい、いわく、二月一日に国軍の高官二人が家に押し入ってきて、健康上の理由で辞任すると表明しろ、ことわれば多大な損害をこうむることになると脅しをかけてきたが、わたしは健康だ、辞任を承認するくらいなら死んだほうがいいと突っぱねて拘束されたと。

 黒田夏子のこの本も図書館で目にとめておきながらけっきょく読んでいないや。『abさんご』と『感受体のおどり』も読みかえしたい。いつもおもうが、じぶんは同時代で現役で書いている日本人作家の小説を読まなすぎる。
 その後、2014/3/8, Sat.。この日は晴れだといい、あるきに出て、分館と中央をあわせて図書館を三つもめぐっている。道中のことはいろいろとこまかく書いている。たいした文ではないけれど、この時期のじぶんにしてはかなりがんばってひとつひとつのことをひろいあげているようにおもうので、敬意を表してながく引いておく。

 澄みわたった晴天に誘われて歩くことにした。新調したスニーカーの出番が早速来たが、ズボンも柄で靴も柄とあっては接続が悪く、やはり無地のシンプルなものを選ぶべきだったと先日の後悔が蘇った。風はあったものの時が止まったような青空からそそぐ陽射しが冷気を中和した。市街の上空に、上部が盛りあがって下部がまっすぐに伸びた、帽子のような雲が一片浮かんでいて、それを見ているとサン=テグジュペリ星の王子さま』の記憶がかすかに呼び起こされた。先の降雪からひと月は経ち、普通に歩いていれば白砂を踏むことはなくなったけれど、家の奥まった陰にはまだしつこく砂利混じりのかたまりが残り、それを掻きだして道端の日向に落とす人が見られた。建設中の家屋根にひとり座った人足が叩く槌の音が通りにこだました。その家の前面には何に使うのか、ひとりでは運ぶどころか一ミリ動かすことすらまず無理だろう岩塊がごろごろと並べられていた。蕎麦屋の駐車場に猫がいるのを見つけて今朝方見た夢を思い出した。夢というよりはまどろみに紛れて見た幻覚のようなもので、寝ているこちらの両脇から黒猫が二匹寄り添い、顔に当たる毛のくすぐったさが現実の質感を持って感じられたのを覚えていた。児童遊園と名づけることすら大げさとも思えるほど小さな、ブランコと滑り台しかないような公園がこれもまた小さな社に併設されていて、少女二人とその母がバドミントンをして遊んでいた。かたわらには祖母の姿もあった。幼い妹がうまく羽根を飛ばすことができず、見当違いの方向にふわりと落ちると、三人はみな不満の声を洩らしながらもしかたなさそうな笑みを浮かべた。不意に左を向いたのは声が聞こえたからだったのかそれとも視界の端に姿をとらえたからだったのか、通りの反対側で裏道から出てきた自転車の三人のうち、二人が生徒だった。首を向けたまま足は止めず、右手を軽くふると、こちらと認識した一人が無言で頭を下げた。以前は床屋だった店が喫茶店になっていることにその真ん前を過ぎてはじめて気づいた。ガラス窓の向こうに女性四人が寄り合い、声は聞こえなかったけれど身ぶりでそのかしましさが伝わってきた。元の床屋はと言えば、対面に場所を移したらしかった。立ち止まってメモを書いていると、かしゃん、という金属音が聞こえて、ほとんど意識せずに首を左へ向ければ向かいの家の戸口にまたしても生徒がいて、陽光に照り映える赤い自転車をともなってこちらを見つめていた。よう、と声をかけ、お前んちそこなの、と問えば、この春で中学にも上がる歳のわりに幼さの残る少年は無言でうなずいた。それほど大きくはなくとも格調ある木造の二階建てで、過保護に甘やかされ、金もいくらかそそがれて育てられてきたらしいという以前からの少年の印象とあいまって、あるいは旧家なのかもしれないと推測した。照れくささから笑みが出た。彼にこちらの行動の意味などわかるはずもないが、熱中している姿を見られた羞恥からその場で書きつづけるのはためらわれて歩きだした。この時点で通常十五分もかからぬ道のりを三十分はかけて歩いており、何かあるたびにこうして立ち止まってメモをとっていては、いつまで経っても目的地である(……)中央図書館には着かないと思われた。それでもいいかという気もした。波状に押し寄せる尿意が膀胱を刺激し、危機感を覚えたのでひとまず近くの図書館分館に寄ることにした。トイレは電気が消されておりわずかに外光が入りこむのみで、暗いなかでももっとも暗がりにある隅の小便器で用を足した。ついでに書架をのぞいた。中央図書館では六巻までしか棚に出されていない『失われた時を求めて』がこちらでは全巻出ているという、ホームページで検索したときに得た情報を実地で確認した。中央図書館と比べるとはなはだ貧弱な蔵書で、気になったのはアレホ・カルペンティエール春の祭典』、アントニア・ホワイト『五月の霜』くらい、他に完訳クローニン全集というのが二十五巻揃っており目を引いたが知らない名前だった。
 図書館を出ると、線路をはさんで駅の向かいにある小学校のほうに折れた。校庭の隅のほうでゼッケンを着けた子どもたちが赤や黄のゴムバットを持ってボールを叩いたり、サッカーボールを蹴ったりしていた。数は二十から三十のあいだというところで騒がしく叫ぶけれど、甲高い声はグラウンドの広さにまぎれて消えていった。石段の上には母校の校舎が昔と変わらぬ白壁を陽にさらし、その背後からは森の木々が雑多に顔を出していた。校門の脇を細道に入り、線路沿いを歩くと、右手に発着する電車の駆動音やアナウンスの音が静かな昼下がりの大気に響いた。敷地の一番端にある小さな野原には昔花壇があってヒマワリが咲きほこっていたり、あるいはサツマイモなんかを授業で育てていた記憶もあるけれど、今ではほとんど平らにならされており、雑草混じりの土のなかにほんの小さな赤い葉や青の花が見られ、隅には梅の木が一本立って桃色と紅のあいだのような色を灯していた。花を見上げると視線は枝のあいだを抜けて、裏山のグラウンドへと上がっていく人影が木々の隙間にのぞいた。坂を上がって線路の上を渡り、左手に折れてまた細道に入った。前から歩いてきたふさふさとした茶毛の犬は線路脇に生えた草が気になるようで、飼い主が引き離してもまたすぐににおいを嗅ぎに戻ってしまうのだった。二箇所の踏み切りがユニゾンになりきらない不安定な和音を響かせると、ごとごとと音を立てて電車が通りすぎた。人の少ない車内は光をたたえて水槽めいた緑色に包まれて、同時にガラス窓には周囲の家々が鏡像となって浮かびあがった。細道を抜けると街道に出た。赤信号の横断歩道で角に目を向けるとパンジーの花壇が目についたがその黄色や紫の花はいくらかしおれて力なく垂れ下がり、むしろ背後に立つ名も知らぬ植えこみのまだらな赤や桃色の花のほうが鮮やかだった。巨大なトラックがぎりぎりというような音を立てて目の前を曲がっていくと、鈍色の車体が陽を受けて銀の光を宿した。焼き鳥屋の隣りではショベルカーが出張って解体作業が進んでいたが、建物は瓦礫となってもはやそこに何があったのかはわからなかった。
 先の分館と中央図書館のあいだにある別の分館を訪れた。隣接する体育館からは竹刀を打ちあう音や長く伸びる掛け声がざわめきとなってもれ聞こえた。図書館というよりは図書室というくらいの小さな部屋で、無機質な灰色の棚のあいだに立っていると、本を読みとるときの機械音、それにつづいてPCが立てるシステムサウンドが受付から聞こえてなつかしく感じた。中央図書館にはない音だった。ここでも事前の情報通りカフカ全集十二巻の存在を確認した。七巻目の日記をいつか読まなくてはならなかった。他に東山魁夷全集があり、また、手塚治虫名作集二十巻および傑作選集十八巻も目についた。
 寄り道を終えていよいよ一応の目的地として設定した(……)中央図書館に向かいはじめた。消防署に並ぶ消防車は原色の赤を輝かせ、建物の脇で消防員が迅速な動きで訓練に勤しんでいた。中学校の前を通り過ぎながら目をやった遠くの空は晴れ渡り、こんな日に飛行機雲が出来ないわけがなかった。本日三つ目となる図書館を訪れてalamaailman Vasarat『Songs from Vasaraasia』と『The Best of Wilko Johnson Vol.1』と、気まぐれに哲学の棚を見て対談本で軽そうな中沢新一國分功一郎『哲学の自然』を借りた。出ると高度を落として視界の隅に入りこんだ太陽がまばゆくて目を伏せた。帰りの電車内にその光が射しこんで床の上に出来た影は電車が曲がるにつれてゆっくりとかたちを変えていき、その上にまた家や木の影が重なって影絵の交錯が生まれた。一時間ほど前に歩いて電車を眺めたその道を今度は反対に電車内から眺めていた。

 ひとつめの分館は(……)図書館だが、いまだに集英社プルーストの単行本がぜんぶ棚にならんでいるのかはちょっと気になるところだ。中央図書館のほうは一巻だけか、それかもうおもてにはなくなったんだったか。プルーストはやはりぜんぶ出しておかないと。(……)のような文化的僻地でも、一〇年にひとりくらいはぜんぶ読もうというにんげんがあらわれるだろう。とはいえ岩波文庫の訳がたしかもう完結したはずで、中央図書館にはそれがたぶんそろっているはずだからそれでよい。ふたつめの分館は(……)で、ここはほんとうにだいぶ地味な、小規模な分館だったはずだけれど(たぶんこの八年前いらいいちどもおとずれていない)、カフカ全集を置き、東山魁夷も置き、手塚治虫の選集なんて置いているとは(……)のくせになかなかやるではないか。手塚治虫なんていまむしろ読みたいぞ。
 あと、でかい岩塊がそのまえにならべられていた家というのは、街道から曲がって(……)中学校のほうにはいるその角の家で、さいきんになっても岩があったかどうかはおもいだせない。遭遇しているとうじの塾生は、三人のほうはおぼえていないが、「(……)」というあだなだった(……)なんとかか、それか(……)がいたかもしれない。しかし(……)がこの年の生徒だったかも不明。(……)のほうは二月くらいに出てきたやつがそうだったとおもうのだが。そのあとに出てくるお坊ちゃんというのは(……)なんとかいう子で、とうじ小学五年か六年で私立受験をめざしており、どこかしらに受かったはず。ちょっと茶味がかってさらっとした髪の毛の眼鏡をかけた坊っちゃんという感じの少年で、漫画に出てきそうな、ガリ勉くんみたいな風貌だったが、じっさいには勉強はそんなに好きではなかったはず。気弱で、引っ込み思案で、そのくせややわがままだったような気がする。じっさい(……)というこの家は裏通りに(……)というなんの会社かわからないが株式会社があって、そこの家だか事務所だかも数年前からあたらしくなっていたし、たぶんそのへんでむかしからの金持ち、土地持ちだったのではないかとおもう。ついでにいえば、こちらが高校生時代に(……)でバイトしていたとき(じぶんはなんだかんだ、ここまでの三三年弱の人生で、その(……)といまの塾と、このふたつしか労働の場を知らない)、(……)というおなじ名字の先輩がいたが、このひとはたぶんこの子の兄か、親族だったのだろうとおもっている。かれはたしかこちらよりいくつか、二、三歳くらいうえだったとおもう。たぶん。とうじもう高校生ではなかったような気がする。で、いちおうそこそこの歴というか、年上ということでバイトのなかでリーダーまでいかないけれど中核というか、そういう位置づけにあってこちらもかれからいろいろ教わったのだけれど、このひとはじつのところそんなにしごとができるわけではなく、いそがしいときとかはわりとテンパったようすになることがおおくて、あたまのなかで段取りをうまく処理して効率的にうごくことが苦手だったのだとおもう。愛想はあまりないというか、やはり眼鏡で真面目そうな風貌で、じっさい振る舞いも真面目ではあったけれど、生来のものなのかそれとも(……)家の教育方針による宿命なのか、その真面目さが硬さ不器用さとなって裏目に出るような感じだったのではないか。厳しくはなかったし叱られることもなかったとおもうけれど、笑みを見せたり、冗談をいってなごんだりみたいなことはなかった。それでもいっしょにはたらいていればそのうちたしょうは打ち解けてくるわけで、こちらはこのひとのことをそこそこ好いていたような気がするのだけれど、ただしごとの手際はあまりよくないものだから、店長である山梨出身の(……)という中年女性にたびたびちょっと嫌味っぽいことをいわれたり、どやされたりしていた。この店長はそこそこ威勢のよいほうで、威勢がいいといっても声がやたらでかいとかがっはっはとかそういう感じではないが、店員にたいする指導はほどよい厳しさみたいなところで、なになにじゃないとだめだよ~? みたいな、わりとずけずけものを言ってじぶんでもきびきびうごく感じで、まあいかにも年上的な訓戒を垂れることもままあったけれど、こうこうこうするんだみたいなそういう指示とか助言とかは納得の行くものだったし、褒めるところは褒めてくれたし、あと廃棄になる商品をもってきなと言ってたびたびくれることもあったし、こちらとしてはぜんたいてきによくしてもらったという印象がのこっている。余談から記憶がつぎつぎとよみがえってしまうのだけれど、(……)先輩についてもうひとつおぼえているのは、厨房にゴキブリが出たときにみんな腰が引けて始末するのをいやがっていたのだけれど、そこで先輩が素手でだったかペーパーをもっていたか、それかしごとちゅうはうすいビニール手袋をつけていたからそのまま行ったかもしれないが、そのゴキブリを手でバシンとつかまえてすみやかに始末していたことで、それをロボットみたいなクソ真面目な顔でやってみせるものだから、たぶんそのとき女性の同僚もいたとおもうのだけれど、ええ……みたいな、ちょっと引くような空気が生まれていたとおもう。女性の同僚でおぼえているのは(……)さんというなまえだった気がするが、こちらの一個上でたしか(……)のほうに住んでいたひとがひとりいて、ねむたいような目をしている女子であり、おたがい社交性のない臆病な人種だったが休憩中にいくらかはなしたおぼえはある。あと(……)さんという、だいぶ太っている、からだのおおきな、たぶんとうじ二五歳とかそのくらいのひともおり、社員だったのだとおもうが、このひとは店長のつぎみたいな感じのたちばだった。あとあれだ、パートの女性らもなんにんかいて、うわ、あのひとなんていったかな! 顔は出てくるのだけれどなまえがおもいだせない! (……)さんというひとがひとりいた気がするが、それが、いまふたりおもいうかんでいる顔のどちらなのか、あるいはどちらでもないのかがわからない。まちがいなくここ一五年ではじめて想起したふたりだ。おとなしい少年にありがちなことで、パートの婦人らにはけっこうかわいがってもらった。男性のほうでおぼえているのは(……)さんと(……)さん。あとこちらの小中の同級生だった(……)もいたのだ。(……)さんはひとつかふたつうえでとうじ高校二年か三年だったはず。短髪で、細身で、すらっとしたスポーツマンという風情で、じっさいバスケかなにかやっていた気がするが、そのクールな雰囲気に似つかわしくうごきもそつがなく、無駄のないしごとをするひとで、顔と目つきはちょっと鋭かったが若い男子らしい茶目っ気もすこしあった。いまでいうといわゆる陽キャのほうのひとでしょうね。陽キャのなかではクールなほうだったとおもうが、たぶん内心めんどうくさいとおもいながら、しかし半分はじぶんでも楽しみながら、周囲にあわせてノリノリな振る舞いもできるようなタイプじゃないか。(……)さんはたしか大学生だったとおもうが、眉毛が太くて顔立ちがやや濃い目の、言ってみればちょっと銭形警部みたいな顔立ちのひとで、このひとは体格からしても(……)さんと比べると比較的鈍重なほうだったが、ノリはわるくなく、こちらにもけっこう声をかけてはなしてくれたのだけれど、ほんにんがたぶんそんなに社交性の高いほうではなかったのだろう、年下のこちら(たしかはいってきたのはあちらがあとだった気がするので、年上の後輩だったとおもうが)と仲良くなりたいけれどコミュニケーションのしかたはよくわからず、そんなにぐいぐいいく性分でもないし手探りで、みたいな雰囲気がいくらかあった。それでもけっこう仲良くなった。かれの家は店から裏にはいってすぐそこの位置だった。あとひとりだけおぼえているのは、なまえをもうわすれてしまったがマネージャー的立場の、つまり店長のうえでエリアの店舗を統括している立場の男性で、とうじ四〇に行くか行かないかくらいだったのではないかとおもうが、このひともあまり愛想はないというか、痩せていて背の高めなひとで、そんなにあからさまに笑ったりはしなかったのだけれど、たまに手伝いではいってくれたときに横にならんだりすると手際を褒めてくれたりしたおぼえがある。あと、このバイトは高二の夏でやめたはずだから高一のときにあたるが、大晦日におせちを大量につくる臨時集中労働に駆り出されたことがあって、(……)の工場でやったのだけれど、そこでもいっしょになって、休憩中に缶コーヒーをおごってねぎらってくれた記憶がある。この年末の集中労働はまあたいへんなもので、エリア内の店舗から何人かずつあつめておおくのひとがつどっていたのだけれど、それぞれ担当を割り振って料理をつくったり、それを重に詰めたり、その他いろいろ、とやったわけだ。そのなかでこちらが割り当てられたのはできあがってきた商品を箱に詰めるというなんとも地味で地道な反復運動のパートであり、工場の入り口付近でやっていた記憶があるが、そのへんに高く積み上がった段ボール箱があるからそのタワーを適宜はこんできて、送られてくる商品をつぎつぎ箱に入れて閉じていくというただそれだけの作業である。料理を詰めている連中(こちらとおなじ高校生や大学生のバイト)なんかはけっこうにぎやかになんとかはなしながらやっていたのだけれど、そのわりに商品はつぎつぎ送られてきて、二日か三日で何品つくらなければならないという膨大なノルマが課せられていたので、それに間に合うようにとにかく無駄なうごきを排しスピード重視でひたすら箱に詰めていく。その過程でしかし手指がダンボールの縁にこすれることは避けられないから、じきにそれがかさなって指の皮が剝けて血が出て、何本か生まれたその負傷の指がけっこう痛いのだけれど、処置している暇もないから、たびたび血をふきながらともかく休憩時間までつづけたおぼえがある。工場のなかのほうでは社交性のそこそこある男女れんちゅうが箸でもって楽しげに(まあそちらはそちらでたいへんだったろうとはいえ)わいわいしながら食い物を詰めているそのいっぽうで、こちらは端っこでおっさんふたりだかとそういう退屈な機械的反復ですよ。
 

     *


 いまもう日付が変わって一五日土曜日の零時二二分ですわ。うえの記述は六時過ぎくらいから、ストアで買ってきたちゃんこ鍋スープでまた野菜の汁物をこしらえて最弱の火でじっくり煮ているあいだに記したもので、おもわぬ余談にそれてしまった。きょうもほんとうは電車での具合をたしかめておこうとおもったのだけれど、じきにもう今月いっぱい休ませてもらえばいいや、それでゆっくりやればいいやというなまけごころにかたむいたので、図書館に行くのはやめて、四時ごろになって近間のドラッグストアに買い物に出た。ふつうに行けば五分くらいのところを、アパートを出るとわざわざ反対側に折れて、おおきく長方形をえがくようなかたちで余計に歩く時間を取った。ちょうど四時くらいに出て、買い物を終えて帰り着くと四時四〇分くらいだった。帰宅後はさっそく臥位になって休息。ふくらはぎを膝で揉むあれをさいきんなぜかあまりやらなくなっていたそれがおそらくよくなかったのだ。ふくらはぎを刺激してやわらかくすれば血流がうながされるからからだぜんたいが楽になるとおもっていたのだけれど、ことは脚にとどまらず、背中の問題でもあったのだ。緊張とかからだの楽さとかは、どうも背面にあらわれるようだ。背骨とか背中の表面をやさしくさするだけでそれを如実にかんじる。とくに背骨なんて、いちにちの前半、起きてからそれほど時間が経っていない段階でふれると、ほぼそのうえをなぞるだけ程度の弱さなのだけれど、後頭部あたりでカチッというかグキッみたいな、すじか骨かなにかがこまかくうごめく響きが聞こえる。
 休息したあと六時ごろだかの食事はストアで買ってきたランチパックと、五個入りのチョコレートがはいったちいさなパンと、即席の吸い物。そのあと野菜スープをこしらえて文を書き、疲れたところでれいによって布団のうえに逃げたのだけれど、いちにちのなかでたびたび逃げてなにかを読んだり、あるいは布団に逃げずとも椅子のうえでもなにかしら読んではいるから、だんだんと飽きてきて、このときはなにも手に持たず、目を閉じてあおむけで脚をほぐしたりしながら短歌をかんがえた。短歌も詩とおなじで進行中というかおもいついたフレーズ断片をまいにちの記事の下部にいちいち写してあるから、そこを見て、まあこれをかたちにしてみようかなというやつをいくつか成らせた具合。

 あまりにも過ぎ去っていく夕立ちをたたえよ猿と変わらぬ面 [つら] で

 わたしこと永劫無窮の道化にはこの世はいっさい真理の墓穴

 うたたねを覚ます雨こそ愛である誰かが消えたあまりの部屋で

 不意を撃つお天気雨の夏みたくかたちをもたない色になれたら

 起き上がったあとはちゃんこ鍋スープとチョコパンののこりで食事を取り、そのあと一三日の記事をしあげて投稿、そしてきのうとおなじく詩を加筆した。なぜかそれなりにすすんだ感。すくなくとも、あたらしい一連をこしらえることはできた。昨晩のうちにおもいついていたフレーズもあらたにメモしておく。
 その他、Mobeen Azhar, “Is Prince’s Sign O’ The Times the greatest album of all time?”(2020/9/24)(https://www.bbc.com/culture/article/20200923-is-princes-sign-o-the-times-the-greatest-album-of-all-time(https://www.bbc.com/culture/article/20200923-is-princes-sign-o-the-times-the-greatest-album-of-all-time))とKitty Empire, “Bessie Smith by Jackie Kay review – a potent blues brew”(2021/2/15, Mon.)(https://www.theguardian.com/books/2021/feb/15/bessie-smith-by-jackie-kay-review-a-potent-blues-brew(https://www.theguardian.com/books/2021/feb/15/bessie-smith-by-jackie-kay-review-a-potent-blues-brew))のふたつを読むなど。


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 あとわすれていたが、この日の写真。また外出に携帯をもっていくのをわすれてしまったので、マグカップの内側についている水滴でもてきとうに撮ればいいやということでズームしてやった。20221014, Fri., 211014。

20221014, Fri. 211014


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  • 「ことば」: 1 - 5
  • 「読みかえし2」: 185 - 187
  • 日記読み: 2021/10/14, Thu. / 2014/3/8, Sat.


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Samantha Lock and Martin Belam, “Capitol attack panel votes to subpoena Trump – ‘the central cause of January 6’”(2022/10/13, Thu.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-trump-state-of-mind-capitol-attack(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-trump-state-of-mind-capitol-attack))

Russia announced it will evacuate residents from Kherson after an appeal from the Russian-installed head of the region, raising fears the occupied city at the heart of the south Ukrainian region will become a new frontline.

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The city of Mykolaiv, 60 miles north-west of Kherson city, was pummelled by Russian missiles, with one strike on a five-storey apartment block killing a 31-year-old man and an 80-year-old woman. Five further people were said to still be under rubble. Mykolaiv regional governor, Vitaliy Kim, said an 11-year-old boy was pulled from the rubble after six hours and rescue teams were searching for seven more people.

EU foreign policy chief Josep Borrell warned Moscow that its forces would be “annihilated” by the west’s military response if president Vladimir Putin used nuclear weapons against Ukraine.

Vladimir Putin and his Turkish counterpart, Recep Tayyip Erdoğan, did not discuss ways to resolve the conflict in Ukraine at their bilateral meeting on Thursday, the state-run RIA news agency reported, citing the Kremlin. Instead, Putin courted Erdoğan with a plan to pump more Russian gas via Turkey that would turn it into a new supply “hub”, bidding to preserve Russia’s energy leverage over Europe.

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Russia will run out of supplies and armaments before the west does, the UK defence secretary, Ben Wallace, claimed. He said procurement processes were in place among allies in the west that would ensure that the international community could continue arming Ukraine for years ahead.


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Guardian staff and agencies, “‘Do you believe this?’: New video shows how Nancy Pelosi took charge in Capitol riot”(2022/10/14, Fri.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/14/do-you-believe-this-new-video-shows-how-nancy-pelosi-took-charge-in-capitol-riot(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/14/do-you-believe-this-new-video-shows-how-nancy-pelosi-took-charge-in-capitol-riot))

New footage of the January 6 riots at the US Capitol shows House speaker Nancy Pelosi calmly trying to take charge of the situation as she sheltered at Fort McNair, two miles south of the Capitol.

“There has to be some way,” she told colleagues, “we can maintain the sense that people have that there is some security or some confidence that government can function and that you can elect the president of the United States.”

Then an unidentified voice interjected with alarming news: lawmakers on the House floor had begun putting on teargas masks in preparation for a breach. Pelosi asked the woman to repeat what she said.

“Do you believe this?” Pelosi said to another Democratic leader, Jim Clyburn of South Carolina.

The footage was from about 2.45pm, when rioters had already disrupted the planned certification of the 2020 presidential election results. It would be hours before the building was secure.

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In the videos, Pelosi and Senate majority leader Chuck Schumer negotiate with governors and defence officials to try to get the national guard to the Capitol as police were being brutally beaten outside the building.

The deployment of the guard was delayed for hours as Trump stood by and did little to stop the violence of his supporters.

The footage, recorded by Pelosi’s daughter, Alexandra, a documentary film-maker, was shown during the committee’s 10th hearing as an illustration of the president’s inaction in the face of the grave danger posed by the rioters.

“As the president watched the bloody attack unfold on Fox News from his dining room, members of Congress and other government officials stepped into the gigantic leadership void created by the president’s chilling and steady passivity that day,” said Democratic congressman Jamie Raskin, a committee member.

The concerns were not theoretical. At roughly 3pm, as a Trump loyalist outside Pelosi’s office pointed her finger and shouted, “Bring her out now!” and, “We’re coming in if you don’t bring her out!” the speaker was in a room with Schumer, who said: “I’m gonna call up the effin’ secretary of DoD.”

As the violence persisted at the Capitol – “Officer down, get him up,” a voice could be heard bellowing in one clip shown by the committee – the leaders kept making calls from Fort McNair. One went to Virginia governor Ralph Northam about the possibility of help from the Virginia national guard, with Pelosi narrating the events based on what she saw from television news footage.

An angrier call followed with Jeffrey Rosen, the then acting attorney general. Days earlier, and unbeknownst at the time to Congress or to the public, Rosen and colleagues had fended off a slapdash attempt by Trump to replace him with a subordinate eager to challenge the election results.

On that day, though, Schumer and Pelosi sat shoulder-to-shoulder on the couch and laid bare their frustrations with the country’s top law enforcement official.

Throughout the footage, Pelosi maintains her composure, barely raising her voice as she urges Rosen, and later vice-president Mike Pence and others, to send help and tries to work out a way for the House and Senate to reconvene.

“They’re breaking the law in many different ways,” Pelosi said to Rosen. “And quite frankly, much of it at the instigation of the president of the United States.”

Schumer weighed in too: “Yeah, why don’t you get the president to tell them to leave the Capitol, Mr attorney-general, in your law enforcement responsibility? A public statement they should all leave.”


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David Smith in Washington, “Capitol attack panel votes to subpoena Trump – ‘the central cause of January 6’”(2022/10/13, Thu.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-trump-state-of-mind-capitol-attack(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-trump-state-of-mind-capitol-attack))

A congressional panel has voted to compel Donald Trump to testify under oath after naming the former president as the “central cause” of the deadly attack on the US Capitol on January 6.

The House of Representatives select committee investigating last year’s riot voted unanimously on Thursday to subpoena Trump for testimony and documents in what may prove a mostly symbolic gesture, given time constraints and his likely legal resistance.

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Although some members of Trump’s inner circle, including his daughter Ivanka and son-in-law Jared Kushner, have testified to the committee, the House minority leader, Kevin McCarthy, and four fellow Republicans have ignored subpoenas. The panel is set to dissolve soon after next month’s midterm elections if Republicans gain control of the House.

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The select committee has been investigating the attack on the Capitol for more than a year, interviewing more than 1,000 witnesses. It surpassed many observers’ expectations over the summer with a series of hearings that, polls suggest, convinced some Republicans that Trump bears some responsibility for the riot.

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It presented devastating witness testimony that put Trump at the heart of a premeditated coup attempt and violent assault on American democracy.

Liz Cheney, the vice-chair of the committee, said in an opening statement: “The vast weight of evidence presented so far has shown us that the central cause of January 6 was one man, Donald Trump, who many others followed. None of this would have happened without him. He was personally and substantially involved in all of it.

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Unlike past hearings, there was no live witness testimony but, one by one, committee members presented video evidence from witnesses – some of whom had not been seen at its earlier hearings – and information from nearly a million emails, documents and recordings obtained from the Secret Service.

Zoe Lofgren, a Democratic congresswoman and member of the panel, argued that Trump planned well in advance to declare victory even before all the ballots had been counted.

She said: “We now know more about President Trump’s intention for election night. The evidence shows that his false victory speech was planned well in advance before any votes had been counted. It was a premeditated plan by the president to declare victory no matter what the actual result was. He made a plan to stay in office before election day.”

It emerged that on 31 October 2020, the conservative activist Tom Fitton sent an email to Trump aides Molly Michael and Dan Scavino, providing a draft statement for Trump to declare victory before mail-in ballots had been counted. It stated: “We had an election today – and I won.”

At around 2.30am on 4 November 2020, in the east room of the White House, Trump held a celebratory event in which he declared: “Frankly, we did win this election.”

Video evidence showed that Brad Parscale, a former Trump campaign manager, testified to the panel that, as early as July, Trump had planned to declare victory in the 2020 election even if he lost.

The committee recently obtained footage of Roger Stone, a political consultant and self-proclaimed dirty trickster who worked for Richard Nixon, from a Danish film crew that followed Stone before and after the election for a documentary entitled A Storm Foretold.

A clip from 2 November showed Stone commenting: “I said, fuck the voting, let’s get right to the violence.” Although it does not have all relevant records of Stone’s communications, the panel said, even Stone’s own social media posts acknowledge that he spoke with Trump on 27 December – as preparations for January 6 were under way.

Lofgren pointed out that Stone was in close contact with two rightwing groups, the Proud Boys and Oath Keepers, that had numerous members attack Capitol police officers. Secret Service records showed that agents received tips ahead of January 6 that the Proud Boys planned to march armed into Washington.

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The attack on the Capitol injured more than 140 police officers and led to several deaths. More than 880 people have been arrested in connection with the riot, with more than 400 guilty pleas so far.


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Chris Stein, “January 6 hearing takeaways: Trump knew he lost and now faces subpoena”(2022/10/13, Thu.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-key-takeaways(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/13/january-6-hearing-key-takeaways))

3) Roger Stone and violence
Trump ally and notorious dirty tricks operator Roger Stone discussed the need for violence after the 2020 election and before 6 January 2021.

“I really do suspect that [the election result] will still be up in the air. When that happens, the key thing to do is to claim victory. Possession is nine-tenths of law. ‘No we won, fuck you. Sorry, you’re wrong, fuck you,” Stone said, in footage obtained from a Danish documentary film-maker.

In another clip, Stone said: “I say fuck the voting, let’s get right to the violence.”

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5) Trump knew he lost the election

Trump privately admitted to losing the 2020 election even as he worked to undermine and change the results, according to two top aides who testified before the January 6 committee. Alyssa Farah, a former White House aide, who said that a week after the election was called in favor of Biden, Trump was watching Biden on the television in the Oval Office, and said: “‘Can you believe I lost to this effing guy?’”

In another new clip of testimony from Cassidy Hutchinson, a top aide to former Trump chief of staff Mark Meadows, shared that Trump told Meadows: “I don’t want people to know we lost, Mark. This is embarrassing. Figure it out.”