2022/11/3, Thu.

 ぼくへの母の愛情は、ぼくへの彼女の無理解とまったく同じように大きく、この無理解から愛情へと移行する無遠慮さは、あるいはさらに一層大きいものであるかもしれず、ぼくには時々まったく理解しがたいものです。
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、97; 一九一二年一一月二一日)




 いまもう午後九時十八分。書きはじめが遅くなってしまったが、きょうはまったくそとに出ず籠もっているので、記しておくようなこともたいしてない。そもそも起床が一一時とひさしぶりにだいぶおそくなった。夜更かしのためである。覚めたときにそとから園児らの声が聞こえなかったので、まだはやい時間かなとおもったところがさにあらず、しばらく呼吸をしてから携帯を見てみるとすでに一〇時台後半だったわけだ。父親とあどけない男児のふたりづれがなんとかやりとりしているのは聞こえたものの、それは通りすがりだったようで保育園の気配はない。それでおもいあたったが、一一月三日だからきょうは祝日なのだ。寝床で読んだ過去日記にとくだんのことはなし。Guardianもいくらか読んだ。ロシアが黒海から発する穀物輸出の枠組みから離脱していたところ、国連とトルコの仲介で復帰したらしい。どうもエルドアンが存在感や交渉力をしめしたようで、ゼレンスキーもかれに謝意をおくったという。
 寝床を発ったころにはもう正午を越えていたし、そこからその場歩きをしたり体操的にからだをうごかしたり、なんだかんだやっていると一時もちかくなって、瞑想はサボろうかとおもったがべつに用事もないのだからとやはり座った。二〇分行かなかったが。天気はきょうも明快な晴れである。起きたときには一面の水色のなかに粉っぽさがわずかふくまれているようにも見えて、きのうよりはつややかでない、すこし希釈された晴れだとおもっていたのだが、午後になって窓辺に寄ってきたひかりはあかるく、レースのカーテンも色を差されて、窓を開けたままで外気を取りこむことも容易だったし、この午後九時にいたっても寒さを感じず開けっぱなしになっている。うえは上着なしの肌着だけだが、きょうもその場歩きをけっこうやったのでからだがあたたまっている。そのわりにしかしやる気は微妙で書きはじめがここまで遅くなってしまったが、三時か四時くらいには日記を書くよりさきに書抜きをやっていた。ユーディット・シャランスキー『失われたいくつかの物の目録』である。BGMはきのうと同様、Christian McBride Big Band『For Jimmy, Wes and Oliver』。じつにご機嫌なアルバムだ。こういうファンキージャズのたぐいはとにかく聞いていて楽しく、のせられてしまう。六曲目の”Down By The Riverside”とか、こういうブルース進行にのせてあれよあれよやられると弱い。おもわず打鍵をとめて目を閉じ、しばらくあたまを揺らしていた。きのうも書いたけれどMark Whitfieldがやっぱりこんなふうに弾くひとだったんだなあと。けっこうしつこい連打をする場面がある。もっともほかのアルバムでぜんぜん注意して聞いたことがないのだが。もともとこういう感じの音楽性のひとなのだろうか。Jim HallがTown Hallでやったライブ盤にあつまったさまざまなゲストギタリストのなかのひとりとしていたことくらいしか記憶にのこっていない。しかもそのアルバムはべつにそう聞いたわけではないので、内容はぜんぜんおぼえていない。というかいま検索してクレジットをしらべたらそこにMark Whitfieldはおらず、たぶんMick Goodrickとまちがえたのだ。ところで”Down By The Riverside”はトラディショナルだが、Christian McBrideがキャリアの初期に参加していたBenny Green Trioの、『Testifyin!』というVillage Vanguardのライブでもこの曲はとりあげられている。ドラムはCarl Allen。このピアノトリオでのライブ盤もご機嫌なファンキージャズのたぐいで、過去にけっこう聞いており、おもいだしたのでまた聞きたくなっている。
 いちどめの食事はサラダときのうの煮込みうどんののこり。夜には、皮剥きも買ったしジャガイモをつかえるというわけで、スライスして炒めたのをおかずに米を食いたくなった。それでひとまず鍋でいくらか湯がき、ザルに取る。シイタケも合わせようと汁物に入れるときよりほんのすこしだけ大きめに切り、百均で買った皮剥きでジャガイモの皮を除く。やはり百均の品なのでいくらかちゃちい感触ではある。芽は包丁で取った。輪切りにして、フライパンに油を熱し、シイタケから入れて加熱。キノコの風味が油につくかなとかおもって。わからんが。ジャガイモも投入して最大の火力で焼くと炒めるのあいだみたいな感じで熱を通す。そんなにつねにうごかさずに、置いておいてジュージューやる時間をつくる。それでジャガイモの表面がけっこういい感じに焼けて、香ばしくざらついたのでOK。味つけは味の素と塩をすこしだけ振っておき、皿に取ってから醤油をかければいいやとした。それからキャベツと豆腐のサラダもまたこしらえて、米を電子レンジであたため(これでなくなった)、夕食にした。
 あとマジで書くことないな。スクワットをしたというくらいか。その場歩きもかなりよくて脚の筋肉がつかわれるのがわかるのだけれど、スクワットももちろんてきめんに血がながれてからだが熱くなる。スクワットとはいってもこちらはひょろひょろだし、筋トレとしてやるつもりはないので、ぜんぜん軽く、負荷をかけず、ちからを抜いてゆっくり往復するだけ。おもったのだけれど、からだや筋肉をやわらげてあたためるには軽いちからでゆっくり反復運動もしくは往復運動をするのがいちばんなのではないか。ストレッチも、まっすぐ伸ばすは伸ばすで良いのだけれど、それよりも左右とか上下とかにゆっくりうごかすかたちでやったほうが良い気がするときもある。あと回転。にんげんが運動や、のみならずなんらかの行為・行動をおこなうときに、反復もしくは往復というありかたがかなりおおくの領域を占めているような気がされ、肉体にとってその様態の意味はおおきいものだろうが、反復・往復はまたより広範に、にんげんや生物や世界にまつわる哲学的な観点からもなんらかの重要な意味を持っているような気もする。それを理解するにはやはりドゥルーズを読まなければならないのだろう。ただあれは『差異と反復』だから反復であって往復ではない。むろん後者は前者にふくまれるかもしれないが、往復といううごき、もしくはものごとのありかたにはなにか興味深いことがあるような気がする。
 あとパウル・ツェランはちょっと読んだ。きょうは92からはじめて、いま117まで。きのうと同様ともかくも詩句を口に出して読み、書き抜きたいか否かという感じを探るばかり。理解などできようはずもない。というか詩を理解するとはいったいどういうことなのかまったくわからない。よくもわるくも分析がなかなか通用しがたいのが詩ということばのつらなりではないか。もちろん研究者とかはきちんと分析するのだろうが、ただそこで分析されたその「理解」がときにいかにも矮小的だったり、あまりに通有的だったり、もとの詩のまえに置いたときに、ずいぶんつまらない副産物になってしまっていたりというのはじっさいあることだろう。詩にかぎらず文学全般そうかもしれないが。しかしならば分析 - 統合によらない理解や受け止めのしかたとはなんなのか。散文的腑分けを超えた総合的直観という非明晰主義に行かざるをえないのか。さいきんむしろそっちのほうがおもしろいんじゃないかという気にちょっとなってきているというか、あんまり分析や考察のことばがおもしろくなくなってきているような気もするのだが、しかし準神秘主義になってもなあ、と。そんなにたんじゅんなはなしでもないだろうし。とはいえ言語的分節ができるということこそが知であり理解であるという認識は、古代ギリシアいらい西洋世界の文化と歴史に、そしてそこからの影響を受容したわれわれの現代社会にもひたすらつきまとっている偏向的桎梏とも言えるだろうとはおもう。まえに『ソクラテスの弁明』を読んだときにそういうことをちょっとおもったのだけれど、あそこでソクラテスが言っている「知っている」というのは、もっぱらことばでもって他人に説明することができる(そしてあいてを説得したり納得させたりすることができる)ということなのだ。ソクラテスがれいの、じぶんがいちばんの知者であるという神託を受けて、そんなわけはないから知者としての評判高いひとのところに行っていろいろ聞いてみた、その間の経緯を語っている箇所からそうおもったのだが。なにしろかれらは、賢者とか政治家とか、その道の第一人者として評判高いのだけれど、ソクラテスがたずねるかれにとって本質的な質問(たしか「善美のことがら」といわれていた気がするのだが)にかんしては、明晰なこたえを返すことができない。そこでソクラテスは判断する、このひとたちはそれぞれにいっぱしの、ひとかどの人物として尊敬を得ているが、しかしこういったことごとについてはなんらたしかな知を持ってはいない、しかるにかれらはじぶんたちがそのことについて知っているとおもっている、たいしてじぶんは、そのことについて知らないとおもっている、この一点においてじぶんソクラテスはこれらのひとびとよりも賢い、と。ゆうめいな「無知の知」のくだりにあたるものだが、ただ「無知の知」といういいかたは問題含みでもあるらしく、つまりソクラテスは、じぶんがこれを知らないということを知っている、とは言っていないようなのだ(いまちょっと本を確認することができないが)。そうではなくて、じぶんがこれを知らないと「おもっている」とかれは言った。だからソクラテスは、おのれが無知であることを「知っている」わけではない。そもそももとの論点にもどって、「知っている」ということがあることについて言語的に説明できるということ(ならびにそれによって他人を納得させることができること)だとしたら、じぶんが無知であるということ、じぶんがなにかを知らないということを言語的に説明してあいてを説得するというのは、いったいどういう言表になるのか? という疑問が湧く。もちろん、わたしは知らない、わからない、と言えば済むはなしかもしれないが、しかしそれはいやしくも「知」と呼べるような説明や言説ではなくただの同語反復であって、この「知らない」(の内実?)を説明する言語とはどういうものなのか、というのがここでの問いの具体性だろう。こうかんがえてくると「無知の知」などというものは成立しがたいのではないかという気もしてくるが、ただひとはじぶんのことを無知だと「おもう」ことはできるだろうし、「判断する」こともおそらくできるのではないか。はなしがそれてしまったが、ソクラテスの発言を見たかぎりでは、かれにとってなにかを「知っている」というのはそれをことばでもって説明できるということであり、それはじつはおそらく、古代ギリシア的おおいなる偏見、かなり特殊なひとつの知のありかたにすぎないはずであるというはなしだ。西洋世界の文化や観念や世界観や認識様態はいまでこそもろもろの歴史の数奇さによって普遍的スタンダードであるかのような面構えをしめしているけれど、よくよくおもってみるとそれは相当に特殊な、へんな文化なのだろうとおもう。まずもって(ユダヤ・)キリスト教が宗教のなかではおそろしいほどに特殊なものだとおもう。絶対的唯一神だの三位一体だの、あのへんの根幹からしてもうそうだろう。またちょっとそれてしまったけれど、ソクラテスパラダイムにしたがうと、ある種の身体知みたいなものは「知」としてみとめられないということだ。たとえばにんげんの感覚はかなり繊細微妙なところまで開発されることができて、金属加工のベテラン職人なんかはゆびさきの感覚で、小数点以下何位だか知らないがめちゃくちゃ微妙な厚みの差異を判断することができるというはなしがあるとおもう。そういうものは「知」にはならない。もっともこれは「知」というよりも感覚とか能力とか技術の領分なのかもしれないが。というこの留保こそがまさしくソクラテスパラダイムのあらわれであり、「知」の定義の狭隘さと専横性をしめしているのかもしれないが、いずれにしてもそういう西洋的なロゴス偏重の「知」にたいして、東洋における(自然と一体化した?)肉体知なるものが対向させられるのも、これはこれでよくあることだ。禅宗なんかは、よくもわるくもかんぜんにそういうものとしてあってしまっているだろう。それでそういったものにオリエンタリズム的憧憬をいだく西洋人もおおく出てくる。なんのはなしだったんだっけ? パウル・ツェランと詩のことだったのか。しかしもうこれいじょう書くことはない。いま一〇時四八分である。


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 その後、一〇月三〇日のことでも書きたいなとおもっていたが、からだが疲れていたので寝床にうつり、ごろごろしているうちに寝てしまうといういつものパターン。


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  • 「ことば」: 31, 9, 24, 26 - 30
  • 「読みかえし2」: 429 - 430
  • 日記読み: 2021/11/3, Wed. / 2014/3/27, Thu.


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Samantha Lock, Martin Belam and Vivian Ho, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 253 of the invasion”(2022/11/3, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/03/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-253-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/nov/03/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-253-of-the-invasion))

The Russian president, Vladimir Putin, said Moscow would rejoin the grain export deal brokered by the UN and Turkey with Ukraine, but that it reserved the right to withdraw if necessary. “We demanded assurances and guarantees from the Ukrainian side that nothing like this would happen again, that the humanitarian corridors would not be used militarily,” Putin said during a video meeting with his coordination council on Wednesday.

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The United States also welcomed the restoration of the deal and urged Russia to renew it later this month. State department spokesperson Ned Price praised UN and Turkish mediators but said it was important that the deal is “not only set back in motion, but it’s renewed later this month.” Secretary of state Antony Blinken thanked Turkey for its efforts and emphasised reminded Moscow of the “importance of continued adherence to UN-brokered agreements and its commitments to support global food security,” a statement said.

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The Turkish president, Recep Tayyip Erdoğan, said exports of grain from Ukraine would continue with or without Russian approval and appears to have brokered the Russian climbdown. Zelenskiy thanked Erdoğan for his role in restoring the deal.

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The White House has accused North Korea of covertly shipping a “significant number” of artillery shells to Russia in support of its invasion of Ukraine amid mounting evidence of shortages for key weapons systems. US National security council spokesperson John Kirby said the US believed North Korea “is covertly supplying” the ammunition to Russia and “trying to make it appear as though they are being sent to countries in the Middle East or north Africa”.


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Joel Snape, “Can you stand on one leg for 10 seconds? Why balance could be a matter of life and death – and how to improve yours"(2022/11/2, Wed.)(https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2022/nov/02/can-you-stand-on-one-leg-for-10-seconds-why-balance-could-be-a-matter-of-life-and-death-and-how-to-improve-yours(https://www.theguardian.com/lifeandstyle/2022/nov/02/can-you-stand-on-one-leg-for-10-seconds-why-balance-could-be-a-matter-of-life-and-death-and-how-to-improve-yours))