おとといの帰路。(……)駅に着く。リュックサックを背負ってホームに降り、自販機の横をぷらぷら歩いて階段をのぼると、フロアにひとが比較的すくない。すくないうちに抜けてしまうかとトイレに寄らず、改札へ。出ると左折。(……)の前で、頭上から音楽がながれてくる。Leroy Andersonをすこしおもわせるような、あかるく軽い映画音楽みたいな調子。閉店の合図か。駅舎を抜けるとそのまま階段を下り、通りを渡って建物の角を回るともう一本、横断歩道を渡る。前には背の幅に合って細長く四角いようなバッグを背負った高校生がいた。男子。ブレザー姿。歩き方がすこし特徴的。内股気味なのだろうか? 神経質そうな顔つきで、あたりをちょっと見回していた。コンビニのある角から対岸に向かい斜めに渡って南北の道に入りつつ、南へながれる。味気ない道端に差しこまれている植込みの、ピンクのあかるいツツジの花が、雨にやられていくつもこぼれ落ちている。このとき降りはほぼなかった。前から若い女性がぱたぱた走ってくると、路駐していた軽自動車の後部に寄って、あいさつしながら乗りこんでいた。(……)通りに来れば折れて東へ。すでに一〇時、この時刻となればさすがにここでもひとのすがたはすくなくて、対向者との距離がおおきい。そのとき車も途切れていれば、まだけっこう先で定かにも見えないひとの足音、こちらのそれと同様にタイル模様の濡れた歩道をじゅくじゅくいわせるその音が、渡って耳に入ってくる。空は煤や灰のひといろのみ。(……)通りとのおおきな交差点に至る。横断歩道に止められる。直立不動で時を待つ。巨大で長たらしいコンテナのトラックが二、三、目の前を横に、騒がしく過ぎていく。向かいの道からバスと軽自動車が来て止まる。二つ目のライト本体よりも、路面に反映しているほうの白さがつよい。溜まりになるほど雨のなごりは厚くない。もう少し駅に近いほうでも、タイヤがこすっていったところだけ黒く塗られてすじとなり、信号の赤青をあいまいに分割しながら斜めに映しながしていた。バスのほうを見ているうちに信号が青に変わっていた。このあたりで雨粒の感触がはじまっていて、けれどまだまだ傘をひらくほどでない、非常にこまかなそれだった。病院敷地の脇にならんだ街路樹は枝葉を重くして、顔に当たりそうな位置まで下がってきているものもままある。葉の先端のかすかな尖りに、しずくともいえないほどの水のはみ出しを、通り過ぎざま目にした気がして、そのあと葉っぱがあたまに近づくたびいちいち探したが、ゆるい風が出ていて、枝ぶりはどれも悠長なように振れていた。病院を越えて工事中の空き地の縁に来たころには、雨が微妙に増していて、いずれ赤子のかそけさだけれど数を増やして詰まったらしい。臙脂の色のセーターの胸に塩の粒がきらめいている。踏切りで止まる。客のすくない電車が右から高速で横切るそのあいだ、昆虫の目に似た上下交代の赤色灯が、車体にうつって溶けながらまもなく消え去りひとつに戻る。南下が続く。傘を差す。お好み焼き屋の前にひと。男性。老人に見えたが、近づけばまだ若いようだった。なかから出てきた女性を待って、こちらの後ろを歩き出す。コンビニまで来るとあちらは店のほうにながれた。駐車場に入らず縁を回っていけば、店舗のきわをまっすぐに来たそのふたりが前方にあらわれて、今度は追うほうとなった。傘はひとつ。雨風がやたらと強かった日のことを話しているようだった。台風じゃなくて、大嵐だったよね、と。離れていくうしろ姿をやや注視する。男性は黄色とオレンジのあいだのような、柑橘じみた色のジャンパー。女性のほうは薄青い、デニム生地かもという感触の薄手の上着。脚はシルエットでしかない。女は細く、あいだに隙間がはさまっているが、男のほうは波打ってほとんど潰されきっている。渡って裏へ。黒傘の裏側を見上げると、街灯が近いあいだは光る砂粒にまみれたような表の面が容易に透けて、にぎにぎしい宇宙空間のおもむきだった。