空き地の反対側までやってきた。右手の空を背景に、背の高い木の広葉が枝もまとめて振れながらひらひら踊っていて、白さのなかにくっきり色づく緑のその群れは連なりが濃いとほとんど蛸みたいに、軟体動物めいたうねり方に見える。刈られて短い草の上で遊んでいた鳥はハトだった。踏切り手前、一方通行の細い道路を渡るところで来た車があって、減速して止まるのを確認してから右手をちょっと上げて会釈しつつ通り過ぎ、そうすると踏切りが鳴っている。前の女性が立ち止まる。その後ろに立ち止まる。眺める。茶髪。ちょうど襟がぴったり隠れるくらいの長さ。上は真っ黒と言うに一歩手前くらいの黒さのジャケット、下はそれより薄青さをほのかにはらんだような黒の、膝裏を越えたあたりまでまっすぐすっと落ちているスカートで、なんの模様ともわからないがレース編みのような図柄があしらわれていた。葬儀の印象。靴も真っ黒いパンプス。右肩にはこれも黒だがジャケットよりも幾分あかるくなめらかな色味のバッグをかけていて、底の両側に二本、金色の金具が取りつけられている。左手にはビニール袋。このまま法事に行けそうな格好だなと思った。電車が過ぎて踏切りを越えると左折し、(……)駅前で右にひらいた細道に入る。行きながら、ああやって女性を後ろからじろじろ眺めるのもいい趣味とは言えないな、気づかれないようにひそかに眺めるだけならまだしも、それをいちいち書きつけて不特定少数の目にさらそうというのだから、これもあんまりいい趣味ではないなと心中思った。そうしていると前から来るのはスーパー店員の(……)氏である。たぶん向こうもこちらを認知していると思うが、会釈をするほどの間柄でもない。赤紫っぽい色のシャツに、蛍光マーカーみたいな黄緑色のリュックサックを背負って、なかなか奇抜な配色だった。本人はいつも腰の低そうな、白髪まじりのおじさんである。出口まで来ると角を回ってそのままスーパーへ。なにというほどのこともないので店内は割愛。買い物をして出ると横断歩道のボタンを押す。なかなか青にならないが来るものがないので左右を見ながらのろのろ渡りだしてしまう。その間に青になった。向かいの歩道に着くと左へ。店店の並びの前を過ぎていき、十字の角で美容室のなかを覗きながら右に折れ、ここは(……)通りだ。歩道はない。車が来ると、右手に持ったビニール袋をからだの前に寄せながら電柱の裏の隙間を通ったりする。通りの終わりの角の土地は先般から建設中で、掘られた穴に銀色の棒が立体格子状に配されてケージみたいになっていたところだが、そこにもう白っぽい木の柱で二階かことによると三階建てくらいの家の骨組みができており、頭上で人足たちが三六五日どうとかいって談笑しており、木組みのなかにも同じ色の木材が無数に揃えて積まれているのが目にされた。