2016/12/14, Wed.

 前夜降りだした雨が、朝方あたりまでは残っていたのだろうか、道には湿り気が残っているようで、それが冷気となって足もとから立ちあがって来るらしく、身体が纏う空気は冷たい。街道に出ても、南側の歩道はくすんだような家の影に覆い尽くされて、広がったそれは道路の大部分をも侵蝕しているが、北側に渡れば辛うじてこちらの影が伸びるくらいの陽の敷物は用意されていて、後頭部にあるかなしかの温もりが感じられた。裏通りに入ると、もはや陽の掛からない林も、日蔭になって老色の明度を落とし、苦いように沈んでいるのが、その上の空色と対比して、やはり湿っているような質感である。

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 退勤して夜道を行き、途中に挟まった坂を渡りながら視線をちょっと上げると、空が明るく、雲が掛かってはいるもののその乳白色も露わで、民家の裏に黒くわだかまっている森影との境も明らかである。月があるらしいとふたたび裏道に入ってからあたりを見回すと、ちょうどまっすぐ背後に、大きな雲に纏われてそのなかに埋没しながらも、光暈を広げて赤っぽい線をうっすら円状に描いていた。

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 入浴に上がって行って、仏間から下着を持って出てくると、ちょうど父親が帰ってきた音が玄関から聞こえたので、扉をひらいた。何か来てるって、と訊くと、消防、と答えるその背後の扉のガラスを透かして、確かに赤いランプの閃きが繰り返し映る。浴室に行っても、磨りガラスに原色に近い赤さが宿っている。その下に白さも土台のようにしてあるのは、テールライトらしく、それに乗ってどぎついような赤の色が鼓動のようにして収縮するのは、それ自体、窓の外で炎が燃えているかのようでもあった。その紅の光によって磨りガラスの凹凸が露わに浮かびあがり、上端から水滴が流れ落ちると、赤さのなかに一筋、暗い水路がひらかれて一瞬夜の色に沈むのだが、すぐにまた乾いて起伏と色味を取り戻してしまう。