2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧
ギリシアの彫刻は、エジプト的な重い素朴さからしだいに軽やかな繊細さへと発展してゆくが、少なくとも紀元前四世紀にいたるまでは、個人を表現しようとはいささかも試みていない。つねに運動選手とか英雄とか神々を表現しようとしているのである。なぜだろ…
ギリシアの悲劇作家は、人生のパノラマを写実的に描くことはない。彼らは、彼らが人間の普遍的な真実と見定めた一つの理念を、可能なかぎり明晰かつ強力に表現しようとする。あらゆる贅物を削ぎ落として本質にせまろうとするこの厳格な論理性は、紺碧の空を…
遠征を前にしたクセルクセスと、亡命のスパルタ王デマレトスとの対話が、ヘロドトスによって伝えられている(『歴史』第七巻一〇二~四)。デマレトスは祖国での処遇に不満をいだいてペルシアに亡命した、いわば裏切り者である。そのような者は、クセルクセ…
ダリウス大王がペルシア帝国の支配者となったのは、前五二一年である。この時点で、アジアとヨーロッパを分けているエーゲ海が、ダリウスの世界のへりであった。強大な、世界(end6)の唯一の支配者であるはずのダリウスにとって、海辺に点在するギリシア人…
時代をくだり、前一六〇〇年頃になると、このギリシア語を話す人たちはギリシア本土の諸地方に城塞を築きはじめた。そのうちでもっとも有名なものが、アガメムノンの悲劇で知られるミュケーナイ城である。 ミュケーナイ文明は、一九世紀に、常識に逆らって『…
では、 [ヨーロッパ思想の] 第二の礎石であるヘブライの信仰の本質とはなにか。この信仰はユダヤ教として生まれ、キリスト教として世界的に広まったが、その信仰の基本は、第一に、唯一の超越的な神が天地万物の創造主であるという点にある。この基本の含意…
眠りと糧 夜の息は お前の敷布だ、暗闇がお前のもとに 身を横たえる。 暗闇は お前のくるぶしとこめかみに触れる、それは お前を 生と眠りに呼び覚ます、 それは お前を 言葉のなかで、望みのなかで、想いのなかで嗅ぎつける、 それは そのどれとも眠り、そ…
(こうしてお前は) こうしてお前はそうなってしまった、 ぼくがお前を決して知らなかったふうに―― お前の心は 至る所で鼓動している 泉の国で、 そこでは飲む口もなく 影を縁取る姿もない、 そこでは 水は湧き出て輝きとなり 輝きは水のように泡立つ。 お前…
(こうしてお前は) こうしてお前はそうなってしまった、 ぼくがお前を決して知らなかったふうに―― お前の心は 至る所で鼓動している 泉の国で、 そこでは飲む口もなく 影を縁取る姿もない、 そこでは 水は湧き出て輝きとなり 輝きは水のように泡立つ。 お前…
(さあ 眠れ) さあ 眠れ、そしてぼくの眼は開いたままだろう。 雨が瓶を満たした、ぼくたちはそれを空けた。 夜がひとつの心をその心が一本の茎を 伸ばすだろう― けれどそれを刈りとるには遅すぎる、草刈り女よ。 こんなに雪のように白い、夜風よ、お前の髪…
(ぼくは一人だ) ぼくは一人だ、ぼくは灰の花を挿す 熟した黒さで一杯のグラスに。妹の口よ、 お前はひとつの言葉を語る、それは窓の前に消えずに残り、 そして音もなくよじ登るのだ、ぼくが夢みたものが、ぼくをつたわって上へと。 ぼくは咲き終わった時刻…
結晶 ぼくの唇に お前の口を探すな、 門の前に 異郷者を、 目の中に 涙を。 七つの夜だけもっと高く 赤が赤へとさまよう、 七つの心だけもっと奥深く 手が門を叩く、 七つの薔薇だけもっと遅く 泉がせせらぐ。 (中村朝子訳『パウル・ツェラン全詩集 第一巻…
烙印 ぼくたちはもはや眠っていなかった、なぜならばぼくたちは憂鬱の時計仕掛けの中に横たわっていたのだから そして針を笞のように曲げたのだから、 そして針は跳ね戻り 時を血の出るまで打ちつけた、 そしてお前は黄昏が深まっていくのを語った、 そして…
明け方の黒いミルクぼくたちはそれを晩に飲む ぼくたちはそれを昼にそして朝に飲むぼくたちはそれを夜に飲む ぼくたちは飲むそして飲む ぼくたちは空中にひとつの墓をシャベルで掘るそこは横たわるのに狭くない ひとりの男が家に住みかれは蛇たちと戯れるか…
コロナ ぼくの手から 秋はその木の葉を食べる――ぼくたちは友達だ。 ぼくたちは 時を胡桃の殻から剝いて出し それに行くことを教える―― 時は 殻のなかへ戻る。 鏡の中は 日曜日だ、 夢の中は 眠っている、 口は 本当のことをしゃべる。 ぼくの眼は 恋人の性器…
晩く そして 深く 黄金の言葉のように意地悪く この夜は始まる。 ぼくたちは啞の人々の林檎を食べる。 ぼくたちはそれぞれの星に喜んで委ねる仕事をする、 ぼくたちはぼくたちの菩提樹の秋のなかに 物想う旗の赤さとなって立つ、 南方から来た燃えている客と…
全生涯 まどろみの太陽たちは 夜明けの一時間前のお前の髪のように青い。 それらもまた 鳥の墓をおおう草のように ずんずん大きくなる。 それらもまた ぼくたちが快楽の船の上の夢となって遊んだ戯れに誘われる。 時の白亜の岩塊の傍で それらもまた短刀に出…
お前からぼくへの幾歳 再び お前の髪は波立つ、ぼくが泣くと。お前の目の青さで お前は ぼくたちの愛のテーブルを覆う、夏と秋の間の寝台を。 ぼくたちは飲む、誰かが醸造したものを、それはぼくではなかった、お前でも、また他の者でも―― ぼくたちは 空っぽ…
お前からぼくへの幾歳 再び お前の髪は波立つ、ぼくが泣くと。お前の目の青さで お前は ぼくたちの愛のテーブルを覆う、夏と秋の間の寝台を。 ぼくたちは飲む、誰かが醸造したものを、それはぼくではなかった、お前でも、また他の者でも―― ぼくたちは 空っぽ…
夜の光 一番明るく燃えたのは ぼくの夕べの恋人の髪―― 彼女にぼくは 一番軽い木でできた柩を送る。 そのまわりは ぼくたちがローマで夢を見た寝台のように 波立つ、 それは ぼくのように 白い鬘をかぶり そしてかすれた声で語る、 それは話すのだ、ぼくのよ…
海からの石 ぼくたちの世界の白い心、暴力はなく ぼくたちはそれを今日 黄ばんだとうもろこしの葉の時刻に失った―― 丸い糸玉、そういう風に それは ぼくたちの手から軽々と転がった。 そういう風に ぼくたちには 紡ぐために 新しい赤い眠りの羊毛が 夢の砂の…
海からの石 ぼくたちの世界の白い心、暴力はなく ぼくたちはそれを今日 黄ばんだとうもろこしの葉の時刻に失った―― 丸い糸玉、そういう風に それは ぼくたちの手から軽々と転がった。 そういう風に ぼくたちには 紡ぐために 新しい赤い眠りの羊毛が 夢の砂の…
九月の暗い目 石の頭巾 時。そしてもっと豊かに 苦痛の巻毛は 大地の顔のまわりに湧き出る、 一つの罪を負う文句の息に 褐色に焼かれた 酔いしれた林檎のまわりに――美しく そして かれらが かれらの未来の邪悪な 反射のなかでするゲームを嫌って。 二度目の…
饗宴 夜が誘惑の高い梁の間のいくつもの瓶から空けれますように、 敷居に歯で溝がつけられ、朝の前に 怒りの発作の種が播かれますように―― ぼくたちには おそらくまだ苔が丈高く伸びるだろう、水車小屋からかれらがここに来る前に、 ひそやかな穀物を ぼくた…
骨壺たちからの砂 黴のような緑色だ 忘却の家は。 風に翻るいずれの門の前でも 首をはねられたお前の吟遊詩人が青くなる。 かれはお前に 苔と苦い陰毛でできた太鼓を叩く、 膿んでいる足の指で 砂にお前の眉を描く。 かれはその眉を そうであったよりももっ…
羊歯の秘密 剣たちのつくる穹窿のなかで 影が 木の葉のような緑の心に見入る。 抜き身の刃がいくつも光る――誰が 死につつまれて 鏡の前でためらわなかっただろう? そしてまた ここで 生き生きとした憂鬱が いくつもの壺で供される―― 憂鬱は 暗く咲き誇る、…
海を渡るお前の髪 お前の髪も 金色のねずと一緒に 海を渡って漂う。 それはねずと一緒に白くなる、そこでぼくは 石の青さに染める、 ぼくが最後に南へ引きずられていった あの街の色…… いくつもの太綱にかれらはぼくを結び付け そしてそのどれにも帆を結わえ…
半分の夜 半分の夜。夢の短刀たちで きらめく目に留められて。 苦痛のあまり叫ぶな、布のように雲がはためくのだから。 一枚の絹のタピストリー、そういう風に 半分の夜はぼくたちの間に張られた、暗闇から暗闇に踊られるように。 黒いフルートを ぼくたちの…
掌を時刻で一杯にして 掌を時刻で一杯にして、こうしてあなたはぼくのもとへ来た―ぼくは言った、 「あなたの髪は 茶色でない」と。 それであなたはその髪を 苦悩の秤に 軽々と載せた、するとそれはぼくより重かった…… かれらは 船であなたのもとへ向かい、 …