2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧
しかし、そのようなシニフィアンの「意味」の呼びかけは、主体に欲望のシニフィアンの存在を思い浮かべさせる。つまり暗示する。それが「ないんだけどある」とコピーが言っているような事態です。主体の欲望の真の代表としてのシニフィアン、「ほんとうにほ…
ジャック・ラカンは、以上のような、欲望の主体とシニフィアンの働きとの関係について、有名な定式を行いました。それは「シニフィアンは、主体を他のシニフィアンに対し(end138)て代表する」という命題です。ちょっとわかりにくい表現ですが、欲望を担っ…
じっさい、パースの記号解釈の概念を手掛かりにして、現在行われているような生命についての情報科学的理解に生かしていこうという研究も生まれてきました。これはデンマークの生化学者であるジェスパー・ホフマイヤーが提唱している「生命記号論(Biosemiot…
すべての記号は解釈項を生み出し、その解釈項は第二の記号の表意体となり、さらにそのプロセス――セミオーシス――は「無限の解釈項の連続」を作り出します。それでは、(end69)この図式で「対象(object)」といわれている項は、記号ではない事物ということな…
(……)人が「対象(object)」を認知するのは「記号(sign)」を通してであるが、その「記号」はそれを解釈するもうひとつ別の記号作用の項としての「解釈項(interpretant)」を通してしか意味を持たない。対象と記号、そして、記号の解釈(記号の別の記号…
パースが西欧の哲学的伝統から受け継いで発展させている記号についての考え方に、記号を、それが指す事物との関係に基づいて定義する、記号代替説があります。記号とは何かの代わりをしているものだという考え方です。たとえば、「木」という言葉を考えてみ…
パースが提唱したのは、「記号論(英 semiotics、仏 sémiotique)」でした。彼が考えた記号論は言語をモデルとするようなソシュール流の記号の理論ではなく、人間や生物や動物や、あるいは宇宙の様々な現象全体を記号のプロセスとして捉えようとする非常に普…
ソシュール以前の一九世紀の歴史言語学を考えてみますと、言語をもっぱら文字に書き取り、あるいは古文書に書き取られていた言葉の記録を文献調査することによって研究す(end45)るという方法によるものでした。文字を手段として言語を研究し、言葉がどのよ…
虚飾にまみれて 私たちは、作られたマネキン 静止画の中の人物 着飾った 衣装には組み合わせ文字のロゴ 偽りの見せかけの下で血まみれになって否定する 人工的な真実の透き通った層に包まれて 私たちは包み隠し別の外見を装う 偽りの愛の中で愛情深く 作りご…
私は忠誠の誓いを立てた そそり立つポールに掲げられながら 半ば弛み垂れ下がった旗に そして 一つでも…不可分でも…すべての人に自由と平等を与えるのでもない我が共和国に [註1: フランシス・ベラミー(一八五五 - 一九三一)が一八九二年八月に作成した「…
夜ではなく 灯の欠如 砂漠のうだるような暑さではなく 降るはずなのに降らない雨 人間性が人間らしさを失い(end25) 人を人とも思わず人でなしにすることではなく 人間性が人間らしさを見極められず 人とも思われず人でなしにされた人が 人であることを奪い…
コットンのシャツを 着ている彼 摘んだのは彼ではなく 私の先祖 摘み、織り、白いボタンを縫い付け 絶望の重みでしわを伸ばしたものを 彼が着る(end13) そしてボタンを外し 奴隷だった私たちの母をレイプする コットンのシャツを 着た彼は 袖をまくり上げ …
ぼくたちは規則を守ってゲームをしたのではなく 規則そのものを完璧に演じたのだ 違反なしであり 罰もなかった ゲームは終わった それとも はじまろうとしているところか? (リチャード・ブローティガン/福間健二訳『ブローティガン 東京日記』(平凡社ラ…
へその緒を 結びなおして 生命をそこに流しかえすことは できない ぼくたちの涙が完全にかわくことは ありえない ぼくたちの最初のキスはいま幽霊になって ぼくたちの唇にとりつき(end162) 唇は忘却にむかって 色あせる (リチャード・ブローティガン/福…
若い日本の女性のレジ係、 彼女はぼくがきらいだ なぜだかはわからない ぼくは存在するというほかには彼女に何もしていない 彼女は光にせまるような速度で 計算機を使って伝票の数字を足してゆく カチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャカチャ 彼女はぼ…
カミナリの音と光がかけぬける夏の嵐の 今夜の東京 午後十時ごろには 大量の雨と傘 これはいまのところ小さなつまらないことだ でもとても重要なことになりうる いまから百万年後に考古学者が われわれの廃墟の中を通りぬけ、われわれを想像で 描きだそうと…
すべてが黒いヒスイのようにかがやいている ピアノ(発明された 彼女の長い髪(地味な 彼女のあきらかな無関心(弾いている音楽への 彼女の心は、その指から遠く、 百万マイルもむこうでかがやいている(end91) 黒い ヒスイのように (リチャード・ブローテ…
ひとつの言葉 待つ…… から ほかの言葉の 雪崩がおこる 女性を(end84) 待つ…… ときのこと (リチャード・ブローティガン/福間健二訳『ブローティガン 東京日記』(平凡社ライブラリー、二〇一七年)、84~85; 「アルプス」 The Alps; 東京 一九七六年六月…
そこから歳月が流れた。 ぼくは大きくなった。 もう十歳ではなかった。 急にぼくは十五歳になり、戦争は記憶の奥に去り、日本人への憎しみもそれと一緒に去っていった。感情が蒸発しはじめたのだ。 日本人は教訓を学び、寛大なキリスト教徒であるぼくたちは…
ぼくは戦争のあいだずっと日本人を憎んでいた。 ぼくは日本人を、文明がすべてのものに自由と正義をもたらして栄えてゆく(end20)ためには滅ぼさなくてはならない、人間以下の悪魔的な生きものだと考えていた。新聞の漫画ではかれらは出っ歯のサルとして描…
雨の夕べの暗くなる前の そのしげみの様子はどうだ。若く、清く、 蔓を惜しげもなくふりまきながらも、 ばらであるということに思いをひそめる、 低きに咲く花は、もうそこここで開いているが、 どれも望まれず、手入れもされず、 このように、いつまでも自…
日当りのよい道のほとりに 半分に折れて窪みとなった木の幹が 以前から水を溜めているところで、 水の表面をそれ自体の中で更新しつつ わたしは自分の渇きをいやす。水の 明かるさと素性を手首を通して受け入れる。 飲むというにはあまりにひそかな、目立た…
あなたは、ご自分の詩がよくできているかどうかとおたずねになる。この私におたずねになる。あなたはその前にほかの人たちにもおたずねになった。さらにいろいろな雑誌に作品をお送りになる。ご自分の詩をほかの人の詩と比較なさる。いくつかの編集部があな…
もう耳のためのものでない……ひびき、(end152) それはいっそう深い耳のようになって 聞いているつもりのわれわれを逆に聞く。 空間のうらがえし、 内部の世界をおもてにくりひろげる、 誕生する前の寺院、 溶けにくい神々をいっぱいに ふくんでいる溶液……ゴ…
ばらよ、おお 純粋な矛盾、 おびただしい瞼の奥で、だれの眠りでもないという よろこび。 (神品芳夫訳『リルケ詩集』(土曜美術社出版販売/新・世界現代史文庫10、二〇〇九年)、152; Rose, oh reiner Widerspruch, Lust,; 後期の詩集より; この三行詩はリ…
おお 視覚のとらえた高い樹木よ。葉を落としたいま、 枝を通して射しこむ空の おびただしい光と競わねばならぬ。 夏であふれていたとき、その木は深く茂り、 ほとんどわれわれのことを思うようで、親しみある頭部だった。 いまこそ木の内部全体が空の街路と…
ほとんどすべてのものから、感受せよとの合図がある。(end137) どの曲り角からも風が知らせる、思い出せと、 われわれがよそよそしく通り過ぎた一日が いつの日か決意して贈り物となってくれる。 だれがわれわれの収穫を計算するのか。 だれが昔の、過ぎ去…
たくさんの遠方を知る静かな友よ、感じてほしい、 きみの呼吸が今なお空間を広げていることを。 真っ暗な鐘楼の梁のなかで、きみの鐘を つかせてごらん。きみを響かせた空間は 響きを鐘として力強いものとなる。 変容しながら外へまた内へと向かうがいい。 …
おお 来てはまた行くがよい。まだあどけない少女よ、 少しの間でも、踊りの形を完成させ、 あの踊りの一つを純粋な星座となせ。 そこでこそ、鈍く秩序を守るだけの自然を 無常な存在であるわれわれが克服できる。なぜなら、 自然は、オルフォイスがうたうと…
なんと鳥の叫びがわれわれの心をつかむことか…… ひとたび創り出されたある叫びが。 けれども子供たちはもう、野外に遊びながら、(end131) 真実の叫び声のかたわらを叫びつつ通り過ぎる。 偶然なる叫びを上げる、この、 世界空間の中間地帯へ、(そこへ、 …