2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

2022/10/31, Mon.

「あなたの」と署名しましょうか? それ以上の虚偽はありますまい。いや、「ぼくの」――そして永遠にぼくに繋がれている、そういうぼくであり、それに堪えていかねばならないのです。 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツ…

2022/10/30, Sun.

あなたの返事がきけさえしたら! そしてぼくは、あなたをどんなに厭らしく苦しめることでしょう! どんなにあなたを無理強いして、これまであなたがもらったこともない厭な手紙を、静かなお部屋で読ませることでしょう! ほんとうに時折ぼくは、幸福をもたら…

2022/10/29, Sat.

(……)ところで朝は普通より早くおこされました。というのは、うちで家庭教師をしている女性が飛びこんできて、叫び声を、夢うつつにきいたところではそれこそ母親のような叫び声をあげて、私の妹が真夜中すぎに女の子を生んだと知らせたのです。私はなおし…

2022/10/28, Fri.

長い中断のあと(私に時間があればいいのですが! 休息できて、すべてに正しい展望が得られるでしょうに。貴方にもっと慎重に書くこともできましょう。今しているように、貴方を傷つけることもけっしてないでしょう、それこそなによりも気を遣って避けたいこ…

2022/10/27, Thu.

書くという私の仕事、それに対する私の関係を、貴方はその場合とりわけちがったふうに見られるようになり、私にもはや「節度と目標」を勧告しようとはされないでしょう。「節度と目標」はすでに人間的弱さを十分仮定しています。私は自分が立ちうる唯一の場…

2022/10/26, Wed.

やっと晩八時になって――日曜日ですが――貴方に手紙が書けるのです。しかも、私が一日中していたことはすべて、できるだけ早く書けるようにと目指していたのですが。日曜日はいつも楽しくお過しですか? たくさんのお仕事のあとでは、もちろんのことでしょうね…

2022/10/25, Tue.

今日はひどい不眠の夜でした。輾転反側し、やっと最後の二時間になって、むりやりの、思いあぐねた眠りにはいりましたが、夢はとても夢といえず、眠りはなおさら眠りとはいえない有様でした。それに家の戸口で、肉屋の小僧の担いだ荷にぶっつかり、木の部分…

2022/10/24, Mon.

(……)どうかまた、まもなくお便りをください。骨を折らないで。手紙は、見てもわかる通り、骨が折れます。小さな日記を書いてよこしてください。その方が手数がかからず、与えるものも多いのです。もちろん貴方だけに必要なことより、もっとたくさん書かな…

2022/10/23, Sun.

書くことにたいするカフカの告発理由は尽きないようにみえるが、そのすべてはきわめて過敏な調子をおびながら、(end18)おそくともキルケゴール以来よく知られていること、キーツがすでに書き、クライスト、グリルパルツァー、フローベール、ボードレール、…

2022/10/22, Sat.

彼の書いたものには、ちがった空気が流れていたのか、ちがった根のせいで、彼は書いたのか? しばしば彼にはそう思われたであろう。そのとき彼にとって「真の」生活は、仕事机を守ることにあり、幸福はただよく書くことのなかに(そして憂鬱はまずく書くこと…

2022/10/21, Fri.

(……)一九一四年七月一〇日――フェリーツェとの最初の婚約を解消することになったベルリン旅行の前日――カフカは、この関係の困難をよく知ってベルリン訪問の目的をたずねたらしい妹(end10)のオットラにあてた手紙で、つぎのようにいう。「ぼくは話すのとは…

2022/10/20, Thu.

(……)いずれにせよ彼は書いたものに自分で手を下す決心がつかなかったか、または外的事情がそれを許さなかったので、死んだ場合、残された「日記、草稿、手紙……などすべてあまさず、読まないで焼却する」よう、不従順で忠実な友マックス・ブロートに頼んだ…

2022/10/19, Wed.

(……)しかし、最も秘密な、最も私的で最も内面的な、しかし結局明るみに出される内面性というロマン主義の伝統の、用心深い遅参者であるカフカは、彼自身についてもこうした不謹慎の可能性を夢みたのだ。彼自身、この書簡集も示しているように、自伝的なも…

2022/10/18, Tue.

では、これで終りなんですね、フェリーツェ、この沈黙であなたはぼくを追い払い、ぼくにとってこの世で可能な唯一つの幸福に対する希望に終末を与えるのです。しかし(end355)なぜこんなに恐しい沈黙をするのですか、なぜ一言も卒直な言葉をくれないのです…

2022/10/17, Mon.

ぼくが本当に怖れているのは――おそらくこれ以上口にするのも耳にするのも厭なことはないでしょう――ぼくが決してあなたを所有することはできないだろうということです。最良の場合でも、ぼくは盲目的に忠実な犬のように、なに気なく差し出されたあなたの手に…

2022/10/16, Sun.

しかしまたどうしてぼくが、どんなにしっかりした手を持っているとしても、あなたへの手紙にぼくが達成したいと思うことすべてに到達できるでしょう――あなたにこの二つの願いの真剣さを同時に納得させること、「ぼくを愛しつづけてください」と「ぼくを憎ん…

2022/10/15, Sat.

(……)ぼくがいつかフェリーツェ、――というのはいつかはいつもということですから――あなたのすぐそばにいて、話すことと聴くことが一つのもの、つまり沈黙になったらいいのですが。(……) (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリ…

2022/10/14, Fri.

ぼくは一体どういうわけで愛らしい花の入った箱を頂いたのでしょうか? ぼくは頂く値打ちがあるとは思えませんし、むしろ箱のなかに悪魔が潜んでいて、ぼくの鼻をつねり、もう離さず、いつも連れ歩かなければならなくなった方が、ぼくにはずっと似合っている…

2022/10/13, Thu.

いいえ、それではぼくは満足できません。ぼくが訊いたのは、あなたがとりわけぼくに対して感じるのは同情ではないか、ということです。そしてぼくはその問いの理由を述べました。あなたはただ、いいえと言うだけです。しかしぼくは、あなたに最初の手紙を書…

2022/10/12, Wed.

今日ぼくは考えたのですが、ぼくらが現実に一緒にいた、あなたにとってはなんということもないあの束の間の一時間を除いて、先週の手紙以外ぼくに資料がないとした場合、ぼくがあなただったら、ぼくについてどんなふうに考えるでしょうか。それらの手紙はた…

2022/10/11, Tue.

そしてどんな手で、どんな夢で、ぼくがあなたをすっかり自分のものにしたなどと、あなたは書きしたためたのでしょう? 最愛のひとよ、あなたはある一瞬、はるか遠方でそう思うのです。しかし近くで、持続的に獲得するためには、ぼくのペンを前に駆り立ててゆ…

2022/10/10, Mon.

非常に遅いのです、最愛のひと、それでもぼくは、それに価しないのに、床につくでしょう。そう、眠りはしないで、ただ夢を見るでしょう。たとえば昨日のように。ぼくは夢のなかで橋か河岸の欄干に向って走り、たまたまその手すりの上にあった二つの電話の受…

2022/10/9, Sun.

最愛のひと、物を書いていてまたたいへん遅くなりました。くりかえし夜二時頃、ぼくはあのシナの学者のことが思い浮びます。実に残念なことですが、ぼくを起すのは恋人ではなくて、ぼくが彼女に書こうとする手紙にすぎません。いつかあなたは、ぼくが書いて…

2022/10/8, Sat.

ぼくは笑うこともできます、フェリーツェ、疑わないでください、それどころかぼくは大の笑い手として知られているのですが、この点では以前はずっと気違いじみていました。ぼくの局の総裁とおごそかな会談をしているとき――これはもう二年前のことですが、局…

2022/10/7, Fri.

最愛のひとよ、今日ぼくは疲れすぎて、自分の仕事にも不満が多すぎて(ぼくの最も内心の意図に従う力が十分あれば、長編小説の書いた部分すべてをまるめて窓から投出すでしょう)二、三の言葉以上のことは書けません。しかしぼくはあなたに書かなくちゃなら…

2022/10/6, Thu.

最愛のひとよ、ぼくは奇妙な状態であり、それを耐えなければなりません。今日ぼくはよく休息をとりました。午前一時から朝までかなりよく眠り、午後も眠ることができた、そしていま書くために坐り、すこしばかり、よくも悪くもなく書いてから中止しています…

2022/10/5, Wed.

旅行にぼくが我慢するわけはただそれが役所にとっても無益だったということです、もちろんそれは別の面でまたぼくの心を傷つけはしますが。結局のところ旅行全体は親戚訪問――ライトメリッツには親戚があります――におわってしまいました。ぼくが役所を代表す…

2022/10/4, Tue.

この手紙を書きながら今幾時かはっきりと言えません。時計は少し離れた椅子の上にあるけれど、そこへ行って見る気になりません。もう朝に近いのでしょう。しかしぼくは真夜中がすぎてやっと机に向ったのです。春や夏には――経験から言うのではありません、ぼ…

2022/10/3, Mon.

最愛のひとよ、そんなに苦しめないで! そんなにぼくを苦しめないで! あなたは今日土曜日も手紙なしで、ぼくを放っておきました。夜のあとに昼がくるのと同様確実に来ると思っていたその今日。しかしだれが一体手紙を要求したでしょうか、ただ二行、一つの…

2022/10/2, Sun.

私の生活方法はただ書くことに合わせてあり、それが変るとすれば、それはただ書くことにより良く適応するかもしれぬというためです。つまり、時間は短かく、力は小さく、オフィスは恐怖であり、住居は騒がしい。ちゃんとし(end55)た、まっすぐな生活でやっ…