隣家の庭の、柚子の木の足もと、枯れてほとんど脱色された黄の葉が散って敷かれているそのなかを、鳩が一羽、鷹揚とした調子で歩き回っている。ところどころで地をつつきながら、いかにも邪気のない無害な様子でうろつくのを視線で追っているあいだ、雲が大きく動きも速いようで、陽が陰ってはまた出るごとに、近くの家の屋根瓦が濡れたり乾いたりを繰り返す。鳩の近くの敷地の端に、名も知らないが橙に染まったかそけき風情の草が一本生えており、あたりを見回してもほかに確固として鮮やかな色味も見当たらなくて、そこだけ秋の名残りのように映った。
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外出。陽はあるものの、前日に引き続いての最寒の様子で、街道に行くまでのあいだにも流れる空気が顔に触れて覆うのに、肌がひりひりとしてかすかに痛いような有り様である。風の先端が鋭く瞼のうちに忍びこんでくるのに、自然と瞳が湿る。小型鞄を抱える手も大層冷えて半ばかじかむので、途中からはポケットに両方とも入れて、コートの内側に鞄を入れて二の腕で挟むように支えて行った。
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裏通りに入って歩きながら林のほうを見ると、その上端の裏からのし上がる雲が厚く膨らんで、白さも詰まったようで、接する空の青さがまた濃いのが、そこだけ切り取ると夏の空のようである。南のほうに視線を振っても、大きな雲が広がっているのが同じ印象を与える。その後また視線を地に落とし気味に進んでいると、前方から突然、ばたばたと風を切る音が立って驚き目を向けてみれば、短い草の生えた地面から雀が数匹、一斉に飛び立ったところで、それぞれに曲線を描きながら塀の上に止まった。装飾のようにして並んだその隊列を眺めようと足を止めたが、こちらの近くに止まったその存在の重みを嫌ってか、小鳥たちは足の止まったのとほとんど同時にまた飛んで、視界を外れて過ぎてきた家のベランダの、崩れそうなほどに錆びた柵の上に移った。太陽がその方向で、柵も雀も黒っぽく塗られて繋がり、鳥たちの仔細な様子が見分けられないので、前を向いてまた進みだした。
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背後の線路を渡った先の小学校の校庭で、まだ声変わりを済ませていない少年たちの甲高い掛け声が、一つに合わさりながらも重なりの余白を覗かせながら立つ。何と叫んだのかはわからなかったが、それを皮切りの合図としてサッカーが始まり、白と青のユニフォーム姿が入り乱れはじめた。こちらから正面の位置にある体育館のほうでも何かやっているらしく、人の姿がちらほら見える。その脇の校庭の端には親子連れがいて、歩きはじめて間もないような小ささの幼子が、こちらの後ろに入線してくる電車に向けて、殊更に小さな手を顔の横に掲げて振っているのが愛らしかった。
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帰路、月はだいぶ東寄りの低い位置に。坂を下って出たところにある自動販売機の薄白い光が、木々の下からだと随分と明るく旺盛に、十字路の真ん中を充満させているように見える。通りを歩いても、雨の気配もなくむしろ空気は乾いているはずだが、湿気のある時のように街灯の光の膨らみが大きいような気がした。