三時すぎに外出。雨降りの日。それほどつよくはない。アパートを出てビニール傘をひらき、右手へ。路地を抜けてちょっと左へ推移し、渡ろうと振り向いたらパトカーが来ていたので見送って、そのあとから対岸へ。そこでたまには違う道を行くかという気になり、そのまま目の前の裏路地にはいった。路面は比較的あたらしい、色濃いアスファルトが舗装されてまだまだしっかりしているなかに、ほんの少しだけ高さのちがう古い地帯が混ざったつぎはぎ状態で、ざらつきの多い古い部分は梅雨時の林にいるカエルの肌のようなよどんだ色をしている。まっすぐ行って突き当たりを左折。そのまま道沿いに細いのをたどっていけば、小学校の脇に出る。いつも通るH通りの一本東を南北に伸びる道路で、北上すればT駅前からずっと東西に長い車道に当たり、向かいはセブンイレブンになっている。そっちに出ていっても良かったが、せっかくなのでその手前で左の路地に折れた。ここはちょうど小学校の北側で、間近でみるとこの学校の校舎はけっこう高くそびえるような感じがあり、横にもながくてなかなか大きい。校舎の裏側にあたるこの道沿いには敷地内に桜の木がいくらかあって、白い花がたくさん群れて清楚ぶっているのに、あれ桜じゃん、もう咲いてるじゃんと見た。ちかくでみると花びらがけっこう大きく、桜の品種など知ったことではないけれど、ソメイヨシノではないんじゃないか。遠くからみるとソメイヨシノはたぶん薄紅にくゆるとおもうのだが、これらの木はぜんぶ真っ白だったので。ところが間近をとおりつつ見上げれば、おなじ木どころかおなじ枝から出ているらしき至近の花でも、花弁のなかが緑っぽいのと紅色のと両方あって、後者のほうが少なかったがあれはどういうことなのか。雑種みたいなことなのか? 花の感じや白さはむかし新宿御苑でみたオオシマザクラに似ていた気がするが、たしかなことはわからない。そこを過ぎるとちいさな口でHA通りに合流する。左折。小学校脇につらなる垣根の葉っぱが何割か真っ赤に色づいている。空は手がかりのなにもない、偏差のみつけられないまったくの白。そのまままっすぐ歩道を行って、横断歩道をわたってスーパー。食い物を買う。会計を済ませて品物を整理しているところでBGMに耳が行ったが、きょうもさいきんのジャズボーカルっぽい、それもポップス寄りとかではなく正統派のそれだった。Cecile McLorin Salvantかとちょっとおもったが、出口に向かいながら声色のこまかいところを聞き取れず、たぶんちがう。サックスソロも入った、甘ったるくなりすぎないバラードで、けっこう悪くなかった。出ると老婆といっしょに信号を待ち、向かいに渡ってそこの裏へ。右手で傘を差し、左手に提げたビニール袋ははじめのうちちょっと高めにからだに寄せていたが、じきにいいやと腕を伸ばした。道はじきに細くなる。アパートがあり、別のアパートの駐車場があり、ちいさくて小洒落た感じの数軒が左につらなる。右側には奥にはいっていく通路があって、その左右に浅緑のあかるい葉の木がいくつも立って、そのあいだを鳥たちが鳴き立てながら行き交っていた。葉とおなじ色の苔がたくさんついている木を梅かとさいしょみたけれど、幹と木肌の感じが違うのでたぶん違う。桜だろうか? 左側の家々をみると、庭ともいえない玄関前の車も停まる小さなスペースに、濃淡さまざまなピンクの花をともした小木を植えてあったり、短いけれどわりと鮮やかな生垣をつくったり、低いけれどやはりけっこう見事な緑樹を調えたりしてあって、狭い土地をフルに活用して植物をうまくあしらい彩っている。なかなかけっこう、たいしたもんだなとおもった。すこし前に、このへんは二、三年ほどの新しい家はあまりなさそうと書いたけれど、この細道脇のあかるい家々はもしかしたらそのくらい新しいのかもしれない。アパートのそばになるとデザインが平成以降とおもえる家でも、だいたい一〇年以上は経っているんじゃないかという壁の質感になっている。