八時ごろ、買い物へ。部屋を出ると通路の天井、ちょうど階段を上がったところの頭上にある蛍光灯が、映写機のまわる音のようなこまかな響きをじりじり立てながら高速で明滅しており、おお、とおもった。視界にわるい。階段を下りてポストを確認するとそとへ。道路に降りるというよりは入り口からそのまま左にからだを回すような感じで脇のゴミ出しスペースに入る。あしたが古布の回収日なので、いらなくなったタオルなんかを詰めて縛ったビニール袋を階段の下にあたるちょっとした空間に置いておく。そうして道へ。部屋のなかでは肌着のシャツですこし暑いくらいだったが、外気に触れてみれば、そのうえにシャツをまとった格好だと涼しさがつよかった。しかし歩けばあたたまる。路地を出て向かいに渡り、左折してT字のほうへ。空は全面曇っており、細い電線は埋まってほとんど見えないくらいだ。まもなく顔にふれる粒があって、足もとをみれば点々と黒い染みもできており、降り出したのかとおもっているうちに感触はどんどんたしかになっていく。横断歩道を渡って右折し、H通りに入る角の敷地が、まえは駐車場だったはずだが、といって車が停まっているのをみたおぼえがないので空き地だったのかもしれないが、いや、以前ここにあった焼き鳥屋がつぶれたのでたぶんそれで空き地となったのだろう、ともかくそこにあたらしいものが建つようで、掘られた穴のなかに無数の四角で区分された金属のケージみたいなものが収められていくつか場所を区分けしており、横をあるけば上下で層をなしているその四角がぴったりかさなったりまたずれたりする。通りに曲がる。公園の木のこずえの色がもうなかなか濃い。ここをまっすぐ行くあいだに雨は順調に降り増して、アパートのダストボックスやらなにやらに当たる音が耳にはっきり届くようになり、対向者に傘を差しているひともいて、車が通ればライトのなかに雨線が詰まってみえる。HA通りに出て左折するとにわかに盛りだし、歩道に乗るころにはマスクの裏側に例のにおい、あたたまったアスファルトが雨に濡れてのぼらせるあの独特のにおいが入りこんできた。まいったなという感じだが、一過性の不安定な降りの気配もあり、帰るころには止んでいるのではと期待をいだいた。イチョウの木々はやはり夜でも青々と明晰な葉をつけだしている。あたまが濡れたので髪を前からうしろに向かってかきあげながら道路を渡った。スーパーにはいって回って買い物。米とか、その他もろもろの食い物。この時間は基本いつもそうだろうがレジはひとつしか稼働しておらず、こちらがならんだとき、ふたり前で大量のものたちを買ったひとの品を読みこんでいる最中で、ひとり前はカートをつかって籠にコーラのおおきなペットボトルとかをこれもたくさん入れた眼鏡の男性で、待っているうちに背後にもふたりばかし続くひとが来た。それでもふたり前がまだ終わらない。呼び出しベル押してほかの店員呼べばいいのにとおもいながら、壁の時計をみやったり、周辺に視線をてきとうにさまよわせたりしていると、ひとり前のひとが突然カートをともなって場をはなれ、通路をたどっていっていなくなった。後続が多いのをおもんぱかっていったん会計をやめたのかもしれない。買いたい品をおもいだしたのかもしれない。いずれにせよひとり分進み、台に籠を置いて会計へ。終えて荷物を整理すると退店。はいってきた女性のふたりをみるに傘を持っていたけれど、出れば雨はもうほとんど降っていなかった。散るばかり。好都合。横断歩道を渡って裏へ。濡れた路面に街灯の白さが反映してすじとも帯ともつかず曖昧に抜けてくる道のうえのひかりの道となり、その左右にか黒く塗りつぶされたいくつもの差しこみはちょうど虎縞の不均一だ。すすめば足もとの発光はうつりゆき、なくなる。空の色は変わっていない。のろい足が抜かされる。みれば禿頭の仕事帰りの年かさで、ショルダーバッグをななめにかけて右尻のあたりに本体を置き、真っ青な折りたたみ傘を左手で支えて、右手は歩くたび、ほとんど横に振れているのではないかというくらい、ななめに規則的にひらいては閉じていた。まるでその腕のうごきで推進しているかのようだ。道端にオレンジ色の地上灯がふたつあり、その色がこちらに向かってななめに伸びて、真っ黒な水のうすいたまりも街灯の白さのうえも横切る第三のすじとなっていた。ほどよく湿ってやわらかい風ににおいはない。