おとといの帰路。九時過ぎ。勤務を終えて駅へ。電車に乗る。忘れられた傘をいくつか見かけた。車内では終始瞑目。Hで乗ってきたひとが向かいに座ったのでプレッシャーをちょっと感じた。Tに着いて降り、階段をのぼり、改札に向かうあいだもひとが多くてからだが緊張し、かすかに胃液があがってくるような反応をおぼえる。ちかくにもののないフロアのまんなからへんを歩くと平衡感覚が乱れてぐらつきかねないので、壁のある端を行く。改札を抜けて左に折れてからも同様。駅を出ると階段を下り、道を渡り、建物の角を回りこんでもうひとつ通りを渡り、セブンイレブンの角から向かいに渡って南下するあたりで道が暗くひとが少なくなるので、ようやく落ち着いた。T通りに出て東進。じきにファミリーマートがある。ここも角。コンビニの脇をすすんでいる時点で、横道のほうからなにやらにぎやかな声が聞こえている。角に出ると左からちいさな子どもが小走りで来て、そのあとに続くおとながストップ、ストップ、と笑いながら声をかけた。それに応じるようにこちらも立ち止まり、会釈をする。それから横断歩道の前にちょっとずれて寸時待つ。一団は幼子ふたりに両親らしき男女、さらに男性女性がひとりずつ。通りを渡ると歩道の端、商店のきわに寄って、追い抜かしてもらうようにした。子どもは男女ひとりずつで、女の子のほうが年下、うえは四、五歳、下は二、三歳という印象。快活に駆けていく。親らしい男女のどちらかはチャリに乗っていた。そのあとから続く女性は携帯をかまえていたので、動画を撮っていたのだとおもう。もうひとり、やはりチャリの男性がちょっと遅れて行く。子どもらとすれ違って前から来た若い男女が、めちゃ元気だね、とつぶやいていた。つぎの信号地点で一団は対岸のほうに渡っていった。男児のジャンパーのつよい水色が目に残る。直進。対岸にファミリーマートがあるところまで来ると空がすこしひらいて、見ればそれなりに大きな月が薄雲に巻かれて暈をひろげながらけっこう速やかにながれており、雲の隙間の半端にひらいた夜空の一片に差しかかると、開口部の具合でデフォルメされた横顔のように映る。TA通りと交わるおおきめの交差点を渡り、Rを過ぎ、病院の敷地にかかったところで道端に生えている下草の青さが街灯を降りかけられて鮮やかだった。草のなかにはタンポポの綿毛がいくつか見える。日曜日の往路もここでタンポポをいくつも見かけ、きれいに丸い球をふわっとなしているのをたましいみたいなとおもっていた。このとき見たのはそれよりもおおきく、綿毛の長さも微妙に不揃いとなって縁がやや乱れていて、一部剝がれているものもあり、ただしく成長することができなかった畸形のウニみたいな様相だった。月がいつの間にか雲を逃れている。真球ではない。ジャガイモみたいな、ちょっとごつごつした感じ。からだはけっこう疲れている。二時半ごろにものを食って以来不食だったので空っぽの感でよるべない。肩も痛くなってくる。病院敷地の角を折れて裏へ。東進し、踏切りを渡り、道なりに行ってH通りを渡り、左折してスーパーのほうへ。買い物の帰りによく通る裏道に入る。しずか。じぶんの鈍い足音が際立つ。周りの家で給湯器かなにかが稼働している響きもかすかに寄ってくる。その他マンホールが近づけばそのなかから次第にざわめき。月はまたもや雲に入っている。さきほど見たときよりもおぼろさが減って比較的はっきりしており、雲の内に固められたような質感。