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2017/4/13, Thu.

 往路。この日も空には雲が多く、首もとを風が擦ってやや冷え冷えとする。坂を上って抜けると、西空から射す薄陽があたりに掛かって、木々の緑の上から艶のある琥珀色を重ねていた。街道を渡って歩道を行き、小公園の桜に目を向けながら前を過ぎる。淡紅の桜の花はそれぞれの枝先に円く群れなして、木々のあちこちに小さな毬を集めてぶら下げたようである。なかの一本は柳の木に隣り合っていて、明るく垂れ下がった薄緑を背景に紅の仄かな白さが際立って優美だった。裏通りを行くあいだ、空は雲が広く占領しているが、ひらいた穴からは爽やかな青さも垣間見えて池のようになっている。しばらく歩いてからまた見上げると、数分のあいだに池は消え、雲によって描かれた模様ががらりと変わっている。千切れ雲が湿った青灰色に浸りながらも、大きなものの頭の方には陽が当たって白くはっきりと明るんでいる夕べである。薄桃色の水が上から撒き散らされながら固化したかのような寺の枝垂れ桜を見やりながら、道を行った。

               *

 帰路の空気もやや冷えていた。欠伸が洩れて眼球の表面が湿ると、黄みを含んだ街灯が途端に増幅されて、蝶の口吻のような光を瞳へ柔軟に伸ばしてくる。東の空に満月が浮かんで青さの露わな明るい夜だった。裏を抜けて表に出て、小公園の夜桜が白く煙っているのを過ぎて東を振り見ると、月を抱いた空は石膏を固めたように滑らかで、東の明から西の暗への推移のなかに一点の曇りも乱れもない。表通りの街灯の下にあっては西空は暗さが勝って木々も紛れるが、裏に入れば光が乏しくなるのに応じて夜空は明度を増し、西まですっきりと色が渡るなかに、未だ葉を付けない裸木の枝分かれの影がくっきりと黒い。その向こうから一匹、口笛を短く軽く連続させるような、虫にも似た鳥の声が遠く近く、浮かんでいた。

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