2017/10/11, Wed.

 窓の先が鈍く沈んでいるのに気づいて洗濯物を取りこんでから、雨もよいの深まって行き、午後も遅くなると見通し悪く空気は霞んで降っているとも否ともつかず、雨粒の直線的に落ちるかわりに大気中に分散して染みこんだような風合いだった。四時を回って出発すると、上り坂に吹く微風のうちに湿気の随分と含まれていて、しっとりとした柔らかさを肌に乗せられるそのなかに、水の散る感触も始まった。
 坂を抜けてまもなく、顔見知りの婦人と行き会って戸口でちょっと話す頃には散るもののいくらか嵩んでおり、傘を持って行ったらと相手が言ってくれたのをしかし、じきに止むのではと答えて遠慮した。実際何故か、何の確かな根拠もないのにすぐに止むだろうと確信があったのだ。そうして街道に出たところが、あまり降るという感じでもなくて細かい雨ではあるものの、予想に反してさらに嵩んで、肌が濡れるのは何でもないが服の生地には悪いなと、気後れを覚えながらもしかし、今更戻るわけにも行かない。白く澱んだ空のそのまま微粒子に分解されて撒かれるような軽い雨の、裏に入って以降も続き、風が止まっても粒は斜めに傾いたまま顔に流れて当たってきて、途中で見下ろせばシャツの上に羽織ったベストも思いのほかに濡れており、一面に引っかかった雫で紺色の布地の白くなったのが、突然に繊維が劣化して古めかしく毛羽立ったかのようだった。
 ちょうど駅に着く頃に弱まった降りに、間が悪いと零して改札をくぐり、ホームに立つとハンカチを当てて服の水気を拭わせながら電車を待った。時刻は五時前、大気にはまだ昼間の感触がかすかに残って暗いとまでは言えないが、勿論明るいわけでもなく、あたりは濡らされた景色独特の鈍さに包まれて日暮れの一歩手前にある。電車に乗って数駅のあいだに空気は明白に黄昏の方に踏み入って、駅舎を出ると暗んだ空に椋鳥の大群がけたたましい。端は街路樹に繋がって梢を襲うかのごとく群がっているが、そこに収まりきらないものらが上空に繰り出し、上下に振動しながら旋回する黒い影の無数に交じり乱れて、流砂のように形を変じてうねりながら声を降らせるその一群を、周囲の人々は皆、呆気に取られたように見上げていた。まるで典型的な凶兆の図のようでもあった。
 図書館で返却貸出を済ませて出てくると、淡く艶のない溶解的な紫色が、雲を全面張られた空の遠くに広がっている。頭上から椋鳥の姿はなくなっていたが、樹にはまだ何匹も居残っていて、歩廊を駅へと渡るあいだに左右から音波が送られてきた。