- ほんの少しずつではあるが、上向いている感はある。きのうは久しぶりに(……)くんと通話して、二時間くらいいろいろとはなした。こちらから連絡を取って誘ったのだ。そのように、他人とくっちゃべろうという意欲が出てきたあたり、多少の回復を示している。とはいえ、まだまだ雑魚というほかないからだではあるのだが。キーボードはまだ打てないので、この文はスマートフォンで書いている。それもよい。右手指を使っても、背中だか腰だかあたまだか肩だか、ともかくからだに来る感じはいくらかあるが、まあこれからですわ。きのうの通話で(……)くんは、ガザのことが気がかりでしょうがないと言い、岡真理の特別講義を見て、それがたいへんすばらしかったということで、YouTubeにあがっているのを教えてくれたので(かれじしんは実際に会場(早稲田大学戸山キャンパス)に出向いたらしい)、見てみようとおもってきょう、昼時に飯を食いながら視聴していたのだけれど、29分あたりだったか、榴散弾を食らうと脚を切断しなければならないというはなしが写真付きでなされているところで、苦しくなってちょっとやばそうだったので、そこではなれた。写真とか映像はやはりつよい。それでもさきほど、よほど久しぶりでウクライナの状況概報をGuardianで読んだし、パレスチナの概報も同様に読んだ。歴史的経緯を簡便にまとめた記事も。ここ数ヶ月はウクライナ情報を追う気も起こらなかったので、これもまたひとつの回復ではある。体調がよくないとほぼ最低限のルーティンをなぞって過ごすばかりで、そこからはずれることをやったり、外部世界の情報を得ようという意欲が起こらない。本はいちおう読みつづけていたわけだが。きのうの通話では(……)くんと、レベッカ・ソルニットがたいへんすばらしい書き手だということで一致した。さいきんこちらは前よりも人種差別とかに興味が向いていて、ちくま新書の『アメリカ黒人史』というやつ、また青弓社から出ている『日本の人種主義』という研究書をつづけて読み、くわえてフェミニズム関連もやはりそろそろ学ばなければとおもってソルニットのゆうめいな、『説教したがる男たち』に行き、それをおとといきのうくらいで一気に読んだのだけれど、これがかなりおもしろかった。レイプのこととかたくさん書いてあるので暗澹となるはなしではむろんあるのだが、おもしろいというのは、文章が素敵でうまいということで、だからクソみたいなこの世のはなしを読んでいてもいわば文学的満足感があるということで、端的に言ってレベッカ・ソルニット、エッセイ書くのめちゃくちゃうまいなと。『ウォークス』もばつぐんにおもしろかったけど、著作全部読みたいくらいの感じだ。いま実際つづけて、同じ訳者で装丁も色違いなだけなので『説教したがる男たち』とセットの感がある、『わたしたちが沈黙させられるいくつかの問い』というのに入っている。これら全部、図書館で借りてきたわけだが。ソルニットがエッセイに非常にたくみだというのは、データの組み入れや内容のつなぎかたや、はしばしの表現が卓越しているということでもあるのだけれど、醜悪なこの世界のはなしをしつつ、どこかに希望をのぞかせる一節をかならず書きつけていて、しかもそれが無責任にただ希望をまきちらすようなことばではなく、冷静で品よく説得力を感じさせることばになっているからだ。これぞまさしくいい意味でのレトリックだなという感じ。アメリカの良心的なほうの作家ってやっぱそういうのうまいのかな、とか勝手なイメージをおもったりする。グラムシのゆうめいなことばで、知性のペシミズムと意志のオプティミズムだっけ、そういうのがあったとおもうけれど、それを思い出した。それを地で行っている感がある。しっかり地に足ついた意志のオプティミズムという感じ。
- あとさいきんまた音読してて、口をうごかすとやはりなんかやる気が出る。いま勤務も週一だし、基本ふだん誰ともしゃべらないから、音読するか独り言でも言わなきゃ口が全然うごかず舌がことばをつむがないわけで、そうするとやっぱりあたまも晴れないような感じがするし、なんか健康にも悪いのだと思う。独居老人とかたぶんそうやって緩慢に弱っていくのだろう。それでちょっと回復もしたので音読を再開したところ、いい文章を無声音ではあるが口に出してゆっくり読むと快楽があり、きのうだかおとといだか古井由吉が訳したドゥイノの悲歌の第九歌を読んでいたらほとんど幸福をおぼえたくらいだ。天使に向かってこの世界を称賛しろ、といっているやつで、全篇中でいちばん好きなやつなのだけれど。そういうわけで好きな文をまいにちぶつぶつ読むのやっぱ大事だなとおもい、これはまいにち読むというやつを三つつくった。ひとつはウルフの英文。ふたつめが、おまえ結局それかよとじぶんで笑ってしまうのだが、『族長の秋』。冒頭を毎回読みつつ、ちょっとずつ進行も。そして古井訳ドゥイノの悲歌。きのう通話中にもそうはなしてみずから突っ込みつつ爆笑したのだが、六十年代の文学青年かよみたいな、いまどきこんなにいかにもな文学青年やってるやつあんまりいないとおもう。おれは反動だ。化石種だ! 絶滅危惧の動物として保護してくれ。