肉を食いたいなとおもった。きのう米も炊いてたくさんあるし、夕食に惣菜のカツでも食おうということで買いに行くことに。すでに四時だった。きょうもシャツとズボンだけで充分というか、その軽装でもむしろ暑い。アパートを出るとまず金をおろすために近間の郵便局へ。路地を抜けるといつもとちがって右に曲がる。背後から射す陽に日なたがまだひろい。路地の入り口前を通りすぎざまに右を向くと、まっすぐながく奥までつづいているその道のひらきがなにとはなしにうつくしい。いちばん手前のアパートの脇で窓のそとに洗濯物の黒シャツとかがいくつか吊るされているくらいしか、ものをたしかに認知しなかったが、路上にひともおらずなにがありもせず視線がずっと飛んでいくことのできるながい見通し自体がなにかうつくしい。そう感じてつぎの路地の入り口を過ぎるあいだはずっと右を向いていたが、そうすると道の左右の直線を崩すまいとでもいうように家にくっつくように立っている植込みの緑なんかが視界をすべり、数歩すすむあいだに徐々に空間のかたちが変じて、これはこれでなにかいい。郵便局にはいり、ATMで金をおろすと、陽射しのなかで通帳に記された情報を確認し、しまって道をもどった。西向きになるのでさきほどよりも視界がまぶしく、左端を行けばかたわらの建物の高さによって太陽は見え隠れするけれど、あらわれるときは上方からセロファンめいた薄陽がかかって、目のまえに水玉が二、三、生まれる。じきに向かいに渡ったが、日なたはだいぶ暑い。ぬくもりにちょっと重みすらある。もはや冬のシャツを着ている場合ではない。きのうはT字の右にある細道から行ったから、きょうは反対に行こうと交差点の前で渡りなおし、角にあるいまは無人の交番を折れて歩道をすすむ。まもなく渡り、裏にはいる。とちゅうの小公園で、よくみなかったが、まだおさない女の子が三輪車だか補助輪つきのチャリだかに乗ってうろついていて、母親がそれを見守りながら、できたじゃんー、とかいっている。過ぎると背後から男の声も聞こえたので、両親揃っていたようだ。きょうは土曜日だからスーパーにもひとが多めだろうなとおもってすこし気が引けていた。そもそも道中にすでにひとのすがたがやや多い。H通りに来て横断歩道に止まっても、駅のほうから来る細道など、あたりにひと気が多いし車もけっこうあるし、空気がいつもよりにぎわっており、向かいのスーパー前にならんでいるチャリの数をみてもあらためてちょっと気後れする。渡って入れば予想通りだからいくらか緊張して、腹や左胸のあたりがもやもやするし、けっこういやな感じだったが、やばいことにはならないだろうと気楽にかまえた。やばいことになったらさっさと逃げればいい。きのう食い物は買ったからそんなに目当てもないのだけれど、掃除につかう除菌スプレーが切れていたのでそれとか、あとトイレのマジックリンも切れていたのでそれとか、ラップとか。レトルトカレーなんかも買っておく。レジはやはりひとが多いから三列稼働している。きのうは一列だった。会計にならぶのもちょっと気後れするといえばするのだけれど、緊張しながら籠を台に置き、店員のSさんが品物を読み込むのを待つ。金を払うと整理台が空いていなかったので、籠を足もとに置いて財布をしまいながら待ち、空いたところにはいってものをリュックや袋に入れた。退店。道路を渡る。左に折れる。ここの並びにいくらか前から爬虫類のペットショップができている。ちょっと入っていろいろ見てみたい気持ちはあるが飼うつもりはないので実行しない。きょうはそこの扉が開いていたので通りすぎざまにのぞいてみたが、ケージだけで動物のすがたはみえなかった。きのう行きに通った細道を逆から入る。きょうはちょうどきのうとは反対のルートをたどったことになる。犬の散歩をしている婦人がいる。犬はやや鈍重そう。つながれながら道端に止まっている。過ぎると、もう帰るよ! とかいう声が聞こえる。あたりの家々の花をみやったり、頭上の木についているやはり花の色かたちを見上げたりしながら行く。そういえば朝だったか休んでいるあいだだったか、布団にいたときに、そとを通った高齢らしい女性の会話として、この時期はひとの家の庭をのぞいてなにが咲いてるかとかみながらあるいてる、みたいな笑い声が聞こえてきて、わかるなとおもったのだった。空気は暑い。日陰にいて風が吹いて、それでちょうどいい涼しさというくらいだ。空は無雲ではなくひろい範囲にうっすらと雲が乗っていた。太陽にあまり影響はない。