2017/8/14, Mon.

 どこかの街に出かけて行きたい気持ちがあったが、同時に、起床が遅かったこともあって億劫でもあり、特段の目的地が思いつかずに結局自宅に留まったその代わりに、夕食後には軽い格好で近場を歩いて回った。昼に降っていた雨は大方止んでいたが、いまだぱらぱらと散るものがあって、空は濃く暗んで街灯の裏で家も樹々も一緒くたに澱んでいるなか、山に重なって靄の湧いているのがかすかに見て取れる。どことも知れない闇のなかから蟋蟀の声が響く坂を上って行き、ふたたび山の方を見やると、暗中に仄白い影が混ざっているのがかえって、その裏の夜を密に深めているような感じがした。裏道の緩く曲がった角には、光とともに霧が溜まって煙っている。
 道端の草のなかに生えた紫陽花の、同じ株のほかの花はとうに茶色く枯れ尽きているのに、ただ一つのみ遅れ馳せに、あとから継がれて作られたように、丸く青々と咲き誇っていた。いつか雨がいくらかまさって、黒い肌着に露が散っていたが、傘は閉ざしたままに足の脇を突きながら行くと、通りすがりに見上げた小さな百日紅の花枝の、瞬間白い光を纏って、光沢を施された蠟細工のように艶めいた。坂を下って家のすぐ傍に出る間際、閉じた二枚貝のような電灯が散って侘しい夜の景色に目が惹かれ、視線が果てまで闇の奥に引っ張られてそこから、視覚のみならず五感が宙空に広がって行くような心地を覚えた。夜の独り歩きというのはやはり、感覚を十全にひらいてくれるものらしい。