2014/6/2, Mon.

 五時に起きて、七時に起きて、九時に起きて、十一時に起きた。朝のうちはたしか空が青かったけれど、最後に目を覚ましたときにはもう白くなっていた。からだがさびついたみたいにぎしぎしいって、呼吸もしにくかった。夜更かしをした次の日はほとんどそうなった。あまり風もなくてリビングの空気は生ぬるく止まっていた。温度計は三十二度だった。酢がもうなかったから、納豆にポン酢を入れたらあまりおいしくなかった。暑いけれど熱い茶を飲んで汗をかいて、部屋で昨日の日記を書いた。ヘッドフォンは暑いからイヤフォンでBob Dylanを聞いたけれど、イヤフォンでも暑い気がした。途中、お腹が圧迫されたからトイレに行って用を足していると、外で車のとまる音がして母が帰ってきた。荷物を受けとりに出ると、空は白いのに陽ざしはさらに白かった。
 一時ごろ書き終わった。ギターを適当にいじっているうちに扇風機を出す気になった。廊下の戸棚からふたつあるなかの首の長いほうを部屋に運んだ。ティッシュでカバーをふくとほこりが霧のようにちらちら舞って、とてもではないからベランダに出した。掃除機を取りにいって、ついでだから部屋も掃除することにした。たまりにたまったほこりを吸って、新聞紙を破って濡らして雑巾がわりにした。せまい部屋でもやりはじめればあちこち気になって、ずっと放置していたこまかい隙間までふくけれど、それでも隅々までというわけにはいかない。タンスの上のCD棚は兄の部屋から裏側をのぞくとほこりがクモの巣のようにはっていて、ふきとっているとCDを落としてしまった。Chris Potter『Traveling Mercies』のケースが壊れた。部屋をある程度掃除し終わってからベランダの扇風機を分解してきれいにした。掃除機を片づけて、干してあった布団を取りこんでやっと仕事が終わったら、もうすぐ四時だった。
 古井由吉『蜩の声』を読んだ。部屋のなかは蒸していてもときおり風といっしょに鳥の声が流れてきて、その奥からパトカーのサイレンが聞こえてきた。ゆうべの眠りぎわにも聞いて、昨日今日と火事の放送もあって、気温の上がった町はせわしない。五時前に外に出て、植木に水をやった。外のほうが全然涼しい。陽ざしがなくなって乾いた空気に風が行き交わして、暑さが散ってまぎれた。玄関の前を近所のKさんが犬を連れて通った。真っ黒なパグが舌を出してぜえぜえ言っていた。
 Hさんの小説を読んだ。読んでいるうちに勢いがついて、最後まで一気に読んだ。それから感じたことをメールで送った。感想を考えるのはむずかしくて時間がかかって、送ると七時半を過ぎていた。外は驚くほど青かった。空も地上もすべてが藍色に沈んでいた。夕暮れは見なかったけれど、たぶん空が焼けるでもなくうすい色のまま静かに暮れていった。
 夕食後はまただらだらして、ウルフを訳せなかった。十一時にはパソコンを閉じて、古井由吉『蜩の声』を読んだ。暑かったから、なにもしていないけれどつかれていた。肩や背中や腰に重さがわだかまって、右目の奥が凝り固まった。読みながらあくびが出た。水っぽくて重いあくびだったけれど、立ってトイレに行くと、逆に頭が冴えているような感じもあった。十二時まで読んで眠ることにした。電気を消してページをめくる音がなくなると、くぐもった川の音が伝わってきた。明確な音ではなくて、ただ遠くの空間を響きが埋めている気配があった。たぶん川向こうを通る車の音が流れていって、長くひいてなくなるとまた低い響きが残った。心臓のほうを下にすると血管が脈打っているのが聞こえて、それが時計の音と重なっては離れていって、そのうち消えた。