2017/5/10, Wed.

 先夜の雨は未明にはもう収まっていたらしい。明けたこの日もしかし、居間の内から窓を透かした空気が、ひと目には降っているともいないともつかず曖昧に籠った曇りで、湿り気もかなり残っているようだった。五時に到って道に出れば、その頃には降りはなかったが、路傍から湿気に混じって濡れた草々の匂いが立つ。室内にいるあいだも、鵯らの間断なく時間を埋めて鳴き騒ぐその端で、鶯が我関せずといった風情で己が鳴きをゆったりと差し挟むのを聞いたものだが、外に出てみてもあたりで鳥たちがしきりに騒いでいて、口笛の旋律じみた声だとか、ちょっと聞き慣れないような種の声などが道を行く傍で林の内に反響していた。弱い涼気があって、顔の肌に染み入って、こめかみのあたりに留まる。街道に出て石壁の上から張り出した躑躅を向かいに見ると、昨日は白いものばかりが目についたが、紅紫のものも一緒に並んで鮮やかに膨らんでおり、下を通る車に煽られて上下に柔らかく揺らぐその下に、それぞれの花が、どれも一様にひらいた口を下に向けて散り落ちて、テントを立て並べたようになっていた。
 帰りは曲がりなりにも動いた身体が行きよりも熱を持っていて、いくらか蒸すような感じがする。風という風も流れない。もともとこの日は眠りすぎて起床の時からこごっていた身体が、疲れにさらに追いやられて、頭蓋の内、目の奥に、頭痛というほどのものではないが、固い感触が湧いていた。空は引き続く曇りだが、暗くはなく、雲にまみれた奥に青みがうっすらと透けて見えないでもない。月もそろそろ、大きく膨らむ頃ではないか。表に出て歩道を行っていると、虫の音の騒々しく響いて耳から顔を包むようにまつわって来たのに足を止めた。通りの向かいに砂利の庭を挟んで一軒あって、その方から渡ってくるが、電柱か家屋か庭木のどれかか、どこから鳴いているのかもとがわからない。小さい体なのだろうが、じりじりとざらついて宙を貫く線状の響きの大きく、季節を外れて気早に、時間も外れて夜に鳴く蟬のようだった。