2022/8/24, Wed.

 (……)酔っ払って、人生はほんとうに身の毛がよだつほどひどい、人も、社会の仕組みも、最後には死が待ち受けていることも、何もかもがめちゃくちゃだと、わたしが彼に言えば、彼はきっとこう答えることだろう、「どんな契約 [﹅2] にもサインなどしていないじゃないか、ブコウスキー、人生は美しくなければならないなどという」。そしてそれから彼はふんぞり返って、唇を(end161)ちょっと舐める、彼は自分の舌と唇とちんぽこで生計を立てていて、最高に美しい女に世話をしてもらいながら、髭は伸ばし放題、ブルージーンズを穿いてでっかい尻でぶらぶらうろつき回っている。敬服されるべきことで、そして、狭い意味では、それは蔑まれることにもなる。(……)
 (チャールズ・ブコウスキーアベルデブリット編/中川五郎訳『書こうとするな、ただ書け ブコウスキー書簡集』(青土社、二〇二二年)、161~162; ハロルド・ノース宛、1969年2月26日)




 覚醒。携帯を見ると八時一八分だか。わりあいにはやい。窓外からは子どもの声とともにミンミンゼミが一匹鳴くのが聞こえ、空気の感触からするに気温もきょうはそこそこありそうで、夏のなごりの風情である。腹とか胸とかをさすってからだをあたためているあいだ、カーテンの端をちょっとめくってみたが、すると空は水色で、窓の下半分、磨りガラスになっているむこうで保育園の建物が朝のあかるみにふれられているその色が目に刺激をあたえてくる。カーテンをもどしても天井には上端からもれだしたうすびかりによってあいまいな明暗の帯やすじが模様をなしており、窓辺からはなれた室内の空気のみえかたも曇り日のものとはかなりちがう。からだの各所をさすってやわらげたのち、八時五七分に起き上がった。その場で脚もさすっておく。カーテンをひらくとさきほどは晴れだとおもったのだが空には意外と雲が混ざっており水色はだいぶ希薄だった。洗面所に行って顔を洗うとともに小便をはなち、出ると靴箱のうえに置いてあるガラス製のマグカップを取ってぶくぶく口をゆすいだあと何回かうがいをした。冷蔵庫からペットボトルを出して机上にあるべつの黒いマグカップに冷水をそそぎ、タオルを濡らしてレンジに入れるとそのあいだに浄水ポットから水を足しておく。椅子につくと水を飲みつつ、去年の一二月に(……)の結婚式でもらったちいさな消毒スプレーとティッシュで机を拭く。微細な埃というか塵がスプレーの水気によってわずかにかたまるのでそれを払い落としたりティッシュでぬぐい取ったり。パソコンもおなじように拭いてスリープを解除しておき、水を飲み終えると蒸しタオルを取って、角を持ってちょっと蒸気を吐かせたあとに背後にもたれて額に乗せた。そうして寝床に帰還。レースのカーテンもあけてあかるさをとりいれながらChromebookで過去の日記を読みかえす。一年前は車で職場に送ってもらう道中、定年をむかえた父親がまたはたらきださないことに繰り言を言う母親にいらだっている。「こちらとしては」以降はとうじのブログ記事で検閲されているのだが、嫌悪をおおっぴらに表明するのがあまりよくないとおもわれたようだ。一年経ったしもういいだろう。さいごの「叩きつぶしたくなるほどに気に入らない」というのはなかなかはげしいいいかたでいいなと笑った。

往路は母親が送っていってくれるというのでその言に甘え、そのおかげで出発前に二三日の帰路のことをとちゅうまで書けた。道中、兄の鼻の手術のことを聞く。きのうだかおとといにもすでに聞いていたが。鼻の骨がもともと曲がっていたらしく、そのせいで鼻水が溜まったりいびきが起こったりしていたので金曜日に手術をしたということだった。いびきは鼻の骨だけでなく太っているせいもあるとおもうが。そこからながれて母親は、(……)ちゃんや(……)くんを動物園に連れていってヤギだかアルパカだか犬とかに触れさせているのが、噛みつかれたりしないかと怖くてしかたがないと漏らすので(ViberかLINEかにそういう映像があがっていたのだろう)、それは過保護だ、転んだり動物に噛まれるくらいの怪我はしておくものだろう、と言った。だいいちそういう母親じしんだって、こちらや兄がおさないころは山梨の父親の実家に行くとたびたびちかくのヤギがいる施設をおとずれて、われわれがヤギにトウモロコシなどをさしだして食わせるのを自由にやらせていたのだ。それで、そういうふうに心配するのはじぶんがじっさいに育てていなくて祖母の立場だからだろう、俺や兄貴を育てたときはあなただってそこまで心配しなかっただろう、いつもそばにいていっしょに過ごしていれば子どもが意外に頑丈だとかわかるからそんなに気にしないのではないか、と告げると、そうかもしれない、とわりと納得したようすだった。ほか、父親にはたらいてほしいといういつもの言がくりかえされる。このままで終わってほしくない、まだ六〇代だし、八〇歳くらいまで生きるとしてあと二〇年もあるのに、せっかく能力があってなんでもできるのにもったいない、と。こちらとしては、完全無欠に余計なお世話で、うんざりするほど傲慢な言い分だとしかおもえないのだが。それで、なにを言っても不毛だということをわかっていながら、本人の好きにさせろよとつい口をはさんでしまった。しかし母親がこの件において説得されるということはおそらくありえないので、ほんとうはただ黙ってことばを吐かせているのがたぶんいちばん良いのだ。ところできょう両親は年金事務所に行って手続きをしてきたらしく、いつからか知らないが年金を受け取ることになったらしい。それだけじゃそんなに楽には生きていけないわけでしょ? だからそのうち多少なんかではたらいてすこし稼ごうとするんじゃない? と言ったが、年金額だけでもまあつましくやればなんとか、というかんじのようなので、それで満足するのではという懸念が母親にはあるのではないか。どうでも良い。母親のことばを借りれば、父親が「このままで終わった」として、それでなにが駄目なのかこちらにはわからない。なにか労働をして社会との接点をたもちつつ金を稼がなければ人間終わりだという観念がそもそも気に入らないし、その考えをじっさいに他人に適用してひとの生を勝手に「終わった」(終わりかけた)ものと規定している了見の狭隘さと傲慢さが叩きつぶしたくなるほどに気に入らない。

 二〇一四年は二月四日。こちらでも、なにがあったのか知らないがやはり母親にいらだっており、「母の愚鈍さは今にはじまったことではないが、それが妙に障る午後九時で、ざるに入れた米をぶちまけたい衝動をおさえて研ぐのに苦心した。もっと距離のある他人だったらこんな風に苛立つはずはなく、肉親だからこそこちらの胃を突いてくるということがあるものだが、それにしても常ならずこらえ性がない日で平静を保てないのが不思議だった」と言っている。「肉親だからこそこちらの胃を突いてくる」、「胃を突いてくる」といういいかたはなかなか良い。一月末から文のつくりかたについてなにかリズムをつかんだのかとおもっていたが、この日はまたわざとらしいような、ぎこちないような感じがおおくの部分にただよっている。むやみなこだわりを排した自然さはまだまだ遠い。
 その後、一週間前にChromebookでひらいてそのままだったVincent Ni and agencies, “Detained Hong Kong activists to plead guilty under China-style law”(2022/8/18, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/aug/18/detained-hong-kong-activists-joshua-wong-to-plead-guilty-china-style-law)を読んだ。そうしてウェブをちょっとまわり、一〇時ごろふたたび寝床をはなれた。そういえばさいしょにからだを起こしたとき、窓辺に吊るされてあった洗濯物をもうたたんでおいたのだった。タオルや肌着。ワイシャツはまだそのままである。布団の足もとにある段ボール箱(椅子がはいっていたもの)のうえにも衣服類を放置してあり、それいがいにも散らかっている箇所はおおいのでかたづけたいのだがなかなかやる気にならない。一〇時二〇分から椅子のうえであぐらをかいて瞑想した。五二分まで。なかなかよろしい。いろいろと思念はめぐるが体系化はされない。窓外では低い位置にあるホースから水が出て落ちているような響きと、子どもらの高い声がいくらか聞こえる。ツクツクホウシが一匹鳴きのこったりもしている。からだの各所は座ってじっとしているうちにじわじわとほぐれてきてひっかかりがぷつぷつ消え、なめらかになる。腹だけでなく胸をさすっておくと肋骨がほぐれてたぶん呼吸が楽になるのだろう、からだがあたたまりやすく、ぜんたいてきにだいぶ楽さがちがってくる気がする。
 そうして食事へ。れいによってキャベツの葉を剝いで細切りにし、手のひらのうえに乗せた豆腐に一方向からは五回、べつの方向からは四回包丁を入れた。ということは六×五で三〇個に分かれたはずだが、その三〇個の小豆腐群をキャベツのうえにぐちゃっとてきとうに乗せ、そのうえからさらに大根やタマネギをスライスし、飴色タマネギドレッシングをかけて机へ。もう一品はきのう買った冷凍の明太子クリームのパスタ。それを木製皿に入れて電子レンジであたためはじめて、椅子についてものを食べだすよりまえにもうつかったまな板と包丁、スライサーを洗って水切りケースにおさめてしまった。そうして野菜を食う。食べているあいだは(……)さんのブログを読む。サラダを食い終えるのとだいたい同時に電子レンジが六分ほどの加熱が終わった合図を鳴らすので、大皿をながしに置いてから木製皿を取り出し、パスタをつつんでふくらんでいるビニール袋を鋏をつかって、蒸気が手に触れないように気をつけながらきりひらくと、淡いサーモンピンクみたいな色のクリームにまみれた麺をそのまま皿のうえにすべらせた。クリームの滓がのこっているビニール袋をもうながしてしまおうとながしに持っていき、そのままながすと排水溝の内蓋が汚れるのでそれをはずしてからゆすいで置いておく。そうしてまた椅子につき、箸でパスタをかきまぜて食す。(……)さんのブログは八月二一日。したがってあと一日で追いつく。「たびたび思う、学生らと散歩したりメシを食ったりするのも幸福な日常を感じる良い機会であるのだが、それ以上に、こうして文具屋や果物屋やパン屋やメシ屋のおっちゃんおばちゃんらと簡単なあいさつを交わしているときほど生活の美しさみたいなものを感じる瞬間はない、と、書いていて思ったのだが、じぶんも本当に変わった、(……)時代だったら絶対こんなふうなこと思わなかった、思ったとしてもここまで深い実感をともなうかたちでその思いをしみじみ味わうことはなかった!」などといっているので、(……)さんがこんなことをなんのてらいも屈託もなく言うようになるとは、そりゃ時もずいぶんながれた、時代もうつりかわるわなとおもった。あと、以下はさすがに笑う。「(……)しかるがゆえにやかましく感じはじめたというところが正解だろう。だったらふたりを別れさせればいいではないかとひらめいたので」と、じつにスムーズに順当につながっているのに笑った。

 冷食の餃子をこしらえる。キッチンに立っていると、上の階の住人がふたりそろって帰宅する足音が聞こえた。男のほうが爆弾魔と同一人物であるかどうかはわからないが、いずれにせよこの夏休み中に女が寄り付くようになったのは間違いない。たぶんいちばん最初、それまで静かだった上の階で突然人夫の出入りするような気配がたったあの日に、同棲のための家具だの日用品だのが持ち込まれたのだ。上の部屋が宮崎さんの部屋と同じ夫婦用の間取りであるとすると、これまでは男がひとりこちらの寝室には直接面していない(あるいは面していたとしてもわずかであった)部屋で生活していた、それがこの同棲生活のはじまりとともにこちらの寝室の真上にあたる部屋で日常的に寝起きするようになった、しかるがゆえにやかましく感じはじめたというところが正解だろう。だったらふたりを別れさせればいいではないかとひらめいたので、「黒魔術+破局」でググったところ、「丑の刻呪術研究会」というウェブサイトの「想い人を破局へと追い込む略奪愛の黒魔術」(https://noroi.xyz/?p=1648)というページがヒットした。いや、別に略奪愛ではないんだがと思いながらもいちおうチェックしてみると、「今回の魔術を行う上で、必要なものは以下の通りとなっています。」という文章に続けて、必要な道具がリストアップされていたのだが、その道具というのが、「羊皮紙の白い紙」「羽根ペン」「ブラッドインク」「黒いロウソク(黒く塗ったロウソクでも可)」「燭台」「大きな姿見の鏡」「あなた自身の毛髪」で、ふざけんなボケ! おれからこれ以上毛髪を奪うな! くだらんウェブサイト運営しとるひまあったらおもてに出てババアの畑仕事手伝ってこい! クソ根暗が!

 ヤクを一粒水で胃にながしこみ、パスタを食った木製皿はまた排水溝の内蓋をはずしてながしたが、洗い物はそのままいったんながしに放置しておいて、さきにきょうのことを記述しはじめた。とちゅうで立って屈伸したり開脚したり背伸びしたり。瞑想を終えたあたりで洗濯物は洗おうか否か迷ったのだが、きょうは二時半ごろの電車で行く予定だし、そうすると時間もあまりなし、溜まっているのもタオルとバスタオルと肌着くらいなのであしたでいいかと払った。ここまで記すと一二時三二分。とりあえずシャワーを浴び、ワイシャツにアイロンをかけなくてはならない。まあ薄紫のやつならたぶんかけなくても行けるが。そのほか時間までにはきのうのことを書けたりすればよいかな。昨晩一八日まで投稿したので、未始末なのは一九日以降。一九日は金曜日で労働があり、当たったあいてだけはメモしておいたが時間も経っているし、そんなに書くことはないはず。翌二〇日は職場で会議だったからそれよりもうすこし内容がありそう。二一日は休日なのでもういま書いてある分だけで終いとすることにして(たしかこの日はBill Evans Trioを聞いてまたしても感動した日だったはずなので、そのことだけは一言記してもよいかもしれない)、おとといの二二日は通話中のことをかたづけるのに骨が折れそうだ。しかしだいたいのところやっかいなのは二〇日と二二日で、その二日をどうにかすれば現在時に追いつけそう。だがそのあいだにまたきょうを生きるから、しかもきょうは労働があるので、それでまた書くことが増えるのだが。


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 出発は二時半ごろ。道に出ると風がよく吹いており、路上を落ち葉がいちまい、からから転がってくる。公園がちかづいてくると木々からセミの声がいまだしゃわしゃわ湧いているのが聞こえ、その向こうの、クレーンが空に突き立っている建設敷地の軋み音がそのなかに混じって和するようだが、ここでも風はあって、公園内にいつのまにか無数に落ちている褐色の葉がてんでに地をこすって回転しながらこちらへ向かい、小学生のかけっこめいていた。天気は曇りで陽射しもなく、気候はだいぶ涼しくなった。裏路地とちゅうの白サルスベリはふくらみをやや減じたようだが、側面からみるに、すきまがわずか生まれたおかげでかえってちいさな白さの群れが粒立ちをつよめ、いかにも群れており、風に枝先を浮かせて可憐だった。その風の吹き方が妙である。通りがかりの庭木のこずえをざっと揺らしながらもこちらの身には降りてこず、小公園でもひとつの木を鳴らしたかとおもえばすぐに音はおさまり、しかしこんどはべつの木のあたまが鳴って、木から木へと渡っていくような風情、陽の透けない曇天に空気のいろも鈍く、また道中、電線から飛んではちいさな楕円軌道でもどるヒヨドリがいたり、小鳥が宙をわたる黒い影やその声もいつもより目に耳にはいる気がされて、雨がちかづいているどころかまもなくぽつぽつ来ても不思議ではない不穏さだった。この往路には降らなかったがその後じっさい通ったようで、午後一〇時前の帰路では(……)駅のホームに水たまりができており、ばしょによって真っ黒なそれは浅い水のなかにホーム上の電柱とその周囲をおどろくほどきれいに鏡写しにしていた。


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 この日の勤務(……)。
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 (……)
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  • 「ことば」: 11 - 15
  • 日記読み: 2021/8/24, Tue. / 2014/2/4, Tue.


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Vincent Ni and agencies, “Detained Hong Kong activists to plead guilty under China-style law”(2022/8/18, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/aug/18/detained-hong-kong-activists-joshua-wong-to-plead-guilty-china-style-law(https://www.theguardian.com/world/2022/aug/18/detained-hong-kong-activists-joshua-wong-to-plead-guilty-china-style-law))

Joshua Wong and a group of 28 Hong Kong pro-democracy activists charged under a controversial national security law have entered guilty pleas, in the largest joint prosecution in the territory in recent years.

A total of 47 defendants, aged 23 to 64, were charged with conspiracy to commit subversion under the sweeping national security law. They were detained in 2021 over their involvement in an unofficial primary election in 2020 that authorities said was a plot to paralyse Hong Kong’s government. At the time, the primary showed strong support for candidates willing to challenge the Beijing-backed local government.

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Media reporting restrictions were finally lifted for the cases, which will start next month at Hong Kong’s high court. Defence lawyers have previously argued that prosecutors have not properly detailed what the conspiracy is that their clients are alleged to have taken part in.

“The prosecution has been allowed to dance around and change and add [to the charges],” Gladys Li, a barrister, argued at one of the hearings. “We will not be held at gunpoint to offer a plea.”