2022/11/1, Tue.

 (……)しかし『感情教育 [エデュカシオン・サンティマンタル] 』は長年の間、ぼくにとっては、二、三人もいないくらい近しい人間とおなじように親しい間柄でした。いつ、どこでこの本を開こうと、はっとぼくを驚かせ、心を奪いました。そうしていつもぼくは自分をこの作家の精神的な子供として感じました、哀れな、不器用な子ではあっても。(……)
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、82; 一九一二年一一月一五日 夜一一時半)




 覚めたのはたぶん七時ちょうどくらい。布団のしたで呼吸をつづけてからだをやわらげる。天井にもれているひかりの具合からして天気は曇り、肌にふれる空気の質感もそこそこ冷たい。保育園の門がひらく音が聞こえないので七時くらいだとおもったわけだが、予想通り、その後だんだんうごきが生まれて、身を起こして携帯をみたときは八時まえになっていた。そのままChromebookをもってウェブをまわったり過去の日記を読みかえしたり。やはり寒いので一時エアコンをつける。一年前の風景描写は以下のようなもの。「遺漏なく」とかこれいらいいちどもつかっていない表現だ。

きょうも大気に動きはほとんどかんじられなかったが、まだ五時過ぎで比較的はやいためでもあるのか、虫の音は林縁からはしばし立ってピリリピリリと笛を吹く。地上はもうたそがれというほかない暗さによどんで宵の気味すらはやつよく、遺漏なく夜にかたむいているものの、空を見れば雲にしろしめされてはいても青の色味がまだのこり、よどみの点では地上とそう変わらないとしても色のさかいはあきらかで、頭上のひらきばかりはまだ夜に数歩分おくれている。ところが坂道を越えて駅に出て、ホームに立って見上げたときには青みがもはや失せており、空は雲を墨に落として暗色をいっぱいに受け容れながら、わずかな色彩を苦もなくはらい、涼しい顔で地上の夜に合流していた。

 したのような言も。

いま二時過ぎ。歯磨きのあいだ、Seamus Coyle, "Death: can our final moment be euphoric?"(2020/2/6)(https://www.bbc.com/future/article/20200205-death-can-our-final-moment-be-euphoric(https://www.bbc.com/future/article/20200205-death-can-our-final-moment-be-euphoric))をほんのすこしだけ読んだのだけれど、BBCとか向こうのメディアって、特にすごい文章ではないのだけれど、話題の展開にしても文のながれにしても修辞にしても、読みやすくわかりやすい文として実にきちんと書かれてまとまっているなという印象で、しかも"an expert on palliative care"だと自称する人間がそれをふつうにやっているのがすごい。日本だとれっきとした学者としての身分を持っているひとでも、たとえば経済方面のウェブ記事の文章などでこのあいだも見かけたが、てにをはや構文の一貫性からしてちゃんちゃらおかしい、みたいな文が堂々とまかりとおっていることがあるのだけれど、それにたいして苦痛緩和治療の専門家であるこの著者はこともなげにDylan Thomasを引いてみせるわけである。大英帝国アメリカ合衆国も、なんだかんだ言ってそういうところはやはりすげえなとおもう。なにしろボリス・ジョンソンでさえ大学ではラテン語ギリシャ語を修めて、『イリアス』だか『オデュッセイア』だかを暗唱できるというはなしだ。日本だと首相が『古事記』か『日本書紀』を暗唱するようなものだろうが、安倍晋三菅義偉にそんなことができるはずもないのはどう見てもあきらかだろう。そんなことで右翼だの愛国だの大和魂だの大日本帝国だのほざいてんじゃねえとおもう。右翼や保守を自称するならまず記紀神話に万葉古今新古今、源氏物語平家物語に、本居宣長平田篤胤北一輝あたりを読んでから名乗れと。とはいえ、じっさいに読んだかどうかが本質的な問題なのではない。すくなくともそういう姿勢があるかどうかが問題なのであって、安倍とか菅とかそのへんの人間がクソなのは思想的に右派だからではなく、知と歴史と言語に敬意をはらってきちんと学ぶということを知らないからだ。右翼をやるならやるで日本文化や右翼の先人たちの遺産をしっかり学んでやれとおもう。知と思想と文学をなめるんじゃない。なによりも、ことばをないがしろにするんじゃねえ。それだからよりにもよって中央省庁のレベルで、忖度だのなんだので文書記録の改竄がふつうにおこなわれて官僚が自殺するようなことになったのだ。文学とはことばを読むこととことばを書くことを学び実践するいとなみいがいのなにでもない。それを欠いて思考も政治も歴史も公共もない。ことばに敬意をはらえない国家などながつづきはしない。

 二〇一四年のほうはとくに。Guardianでウクライナ概報を読み、寝床を抜け出したのが九時過ぎ。冷蔵庫の水を飲む。ボトルが空になったので、浄水ポットとともにながしに持っていって補充しておく。浄水ポットにも水道水をそそいで冷蔵庫の脇へ。さくばんまたしても夕食後に休んでいるうちになあなあでねむってしまい、ヨーグルトを食べた椀とスプーンがながしで水に漬けられたままだった。このときだったかのちほど食事のまえに洗っておいた。きのうはなぜか夕食後にからだがかなり重くなり、九時過ぎくらいには力尽きていたのではないか。二時台にいちど覚めた記憶があるが、やむなくそのまま寝たので、一一時間くらいのながい滞在になったはず。歯磨きと湯浴みは夜なるべくはやく済ませておかないと駄目だ。歯磨きは食後すぐにやってしまったほうがよい。きのう磨けておらず歯の表面に汚れが付着しており口のなかが鬱陶しかったので、トイレに入って用を足すとともに顔をよく洗い、出てうがいもしたあと、椅子に座ってまず歯を磨いた。そのあいだに英文記事を整理するなど。瞑想にいそがず、きょうは白湯もすこしつくり、ちびちび飲みながら、なにをしたのかわすれたがやはりウェブを見たりしていただろう。おもいだした、あれだ、「ことば」ノートからきのううつしておいたTo The Lighthouseの文を読んだのだった。ついでに岩田宏リルケも。そうして瞑想をはじめたのが一〇時五分。二二分座った。まあわるくない。
 からだをちょっとうごかして食事へ。きのうつくったちゃんぽんスープでの煮込みうどん。鍋を熱しているあいだにその場歩き。オールドファッションドーナツ一個といっしょに食べる。煮込みうどんはじつにうまい。一杯分くらいのこった。もうひとつ寄せ鍋のスープを買ってあるので、きょうまたそれでつくるつもり。しかし大根がほしいのでスーパーにも行きたいな。となればなんか惣菜買って米を食いたい気もする。あとちょっと書店にも行きたいような気もしているのだが。(……)くん・(……)くんとの会合で読むことになっているソローキン『親衛隊士の日』と、あと岩波文庫だったか手塚富雄訳のリルケ『ドゥイノの悲歌』がほしい。斎藤兆史 [よしふみ] 『英語達人列伝』もちょっとほしい。おなじ中公新書の『英語達人塾』のほうは実家に兄が持っていたのがあったので過去に(たしか一日で)読んで、西脇順三郎とかあのへんの連中の英語馬鹿ぶりがたしょう載っていたのだが、その本篇という感じの本だろう。(……)図書館にないかとおもって検索したらないようだったので、買ってみるかとおもったが、よくかんがえたら地元の図書館にあるのではないか? 中公新書の区画が用意されているし。とおもっていま検索してみたところ、あるにはあるが(……)図書館では書庫入りされている。二〇〇〇年の本だしな。分館である(……)図書館のほうには出ているようだが、わざわざあそこまで行くのも、とおもったが勤務が再開すればそのついでに行けばよいのか。しかし地元の図書カードをこっちに持ってきていたかわからない。実家の自室に置いたままだったような気がする。
 食事中はnoteにある藤田一照仏教塾のレポートを読んでいた。二〇一九年の九月分。記事中で葛飾北斎にちょっとふれられており、葛飾北斎もなんかけっこうやばそうだよなあとおもう。実物みてみたい。飯を食ったあとはさっそく歯磨きをし、白湯を飲みつつ音読。一二時くらいまで。それでもって、まずはやはりからだを楽にすることが先決といったん寝床に帰還して、ごろごろしながら(……)さんのブログを読んだ。二七日分のとちゅうまで。それで起き上がり、また白湯をつくってちびちびしながらきょうのことをここまで記述。一時二二分にいたっている。とりあえずは二九日のことを終わらせたいところだ。


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 いま二時四七分。二九日の記事を書き終え、投稿した。よろしい。きのうは籠もったくせにかなりはやく力尽きてしまったし、書くことないのでもうほぼ良いようなもので、あとは三〇日のスーパーに行ったときの道中と通話時のことを書けばよいのだが、通話はれいによっていろいろはなしたのでながくなるのが目に見えていて億劫だ。まあぼちぼちやる。二九日の記事にDiane Reevesの名を出したので、そこで想起された『I Remember』をとちゅうからBGMで耳に入れていたが、やはりBGMとともに文を書くのはそれが日記であってもやりづらい。日記のばあいは文の質にはこだわらないからその点では問題ないのだが、記憶をおもいだしにくくなる。あそこなんだったっけ、とか意識のほうに志向性を向かわせようとしても、聞こえてくる音楽にそれてしまうという。書店に出かけようか否か迷っているところだが、それは措いてもシャワーを浴びたいのと、髭を剃りたいのと、あと手の爪を切りたい。しかしまずは空腹を埋めなければ。


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 ちゃんぽんスープでつくった煮込みうどんののこりで食事。ちょうど一杯分のこっていたのを食べたが、それだけでは足りない感じがしてサラダも食おうとなったので、キャベツを細切りにしてちいさく切り分けた豆腐といっしょにする。シーザードレッシング。食後は大根おろしを少量、サラダの大皿につくってすする。二錠目のヤクは飲まず。夕食後に飲むつもり。食事中から食後にかけて藤田一照の仏教塾のレポートをまた読んでいた。皿洗いや歯磨きをはさんで白湯とともに。その後、ふたたび瞑想することに。三時四八分からはじめてながくすわり、目をあけると四時二七分だった。ほぼ四〇分。すわっているあいだはそとの保育園でお迎えの時間が到来しており、電子音とともに門がひらく音や、建物のまえで母親と、舌足らずであどけない口調の幼児がやりとりしているのなどが聞こえてくる。室内ではまだ迎えの来ていない子らが活発にしているようで、なんかエネルギー波をはなつみたいな掛け声も聞こえたし、保育士が、~~ちゃんお茶! お茶飲んだ? お茶飲んで! とか言っているのも耳にとどいた。からだはまあほぐれる。瞑想における大事さがなんとなくわかってきている気がするというか、それがなんなのかというのは説明しづらく、けっきょくまえから言っているなにもしない(しようとしない)ということ、座ってじっとしていればひとまず成立というところに尽きるのだけれど、そこの体感がいぜんよりも深く、あるいは密になっているような気がする。からだをちょっとさすって姿勢を解き、首を左右にころがしたあとは、手の爪を切った。Dianne Reevesのアルバムがのこっていたのでそれを聞きつつ。さいごの二曲(#8と#9)、"You Taught My Heart To Sing"と"For All We Know"。正統派ジャズボーカルを九〇年代において継いだ作品で、声はじつにふくよかで、ちょっと圧が重いと感じるときすらあるが、コントロールは抜群だし、なにしろバックが良い。"For All We Know"ではピアノソロがよく、このアルバムのピアノいいんだよな、Billy Childsだっけ? あんまりなまえ見ないけどクソうまいとおもっていたところ、discogsをみるとMulgrew Millerだった。ひさびさになまえおもいだしたわ。Billy Childsは前半に参加している。リズム隊のしかけかたや装飾のしかたもこなれているとしか言いようがなく、そのなかを内的一貫性をもって独自の呼吸でながれていくMulgrew Millerがすばらしいけれど、リズムはベースがCharnette Moffett、ドラムがMarvin Smitty Smith。サックスソロもあるのになぜかdiscogsではこの曲になまえがないが、これはほかの曲でも吹いているGreg Osbyだろう。"For All We Know"はあらためて聞いてみるとやたらロマンティックな歌詞のうたで、Dianne Reevesのふくよかさで歌い上げるとじつに堂々たるラブソングという感じ。〈For all we know / This may only be a dream / We come, and we go / like the ripples of a stream / So love me, love me tonight / Tomorrow was made for some / Tomorrow may never come / For all we know〉というわけで、いかにもロマンロマンでいいじゃんと(ちなみにlike the ripples of a streamはof the stringと、Tomorrow was made for someはmade for sunと、まちがえて聞き取っていた)。まあ日本語でやられたらぜったい甘ったるすぎて辟易するとおもうけれど、英語だとやはり距離があるからなのか、そこがさほど気にならない。ジャズスタンダードとしてうたわれるとこういうのもなんかゆるせてしまって、いいなあとおもうことが多い。ここまで書き足すと五時一七分。瞑想をしているあいだに、きょうは書店はいいかなという気になっていた。ただ歩いたほうがいいなというこころはまだのこっており、大根もほしいし夜にスーパーには行くかもしれない。とりあえず洗濯物をたたんで湯を浴びたい。


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 湯を浴びたかったのだが夕方になって気温も下がり、ちょっとからだが冷たかったので、シャワーのまえにその場歩きをしてからだをあたためた。これはじっさい手軽で良い運動法で、しばらくやっていると全身があたたまるし、脚がよくうごくから筋肉もつかわれてやる気も出て、この日から翌日にかけて頻繁にやっている。それであたたまったからだでいったん小便をしに浴室へ。髭も剃りたいとおもっていたのだが、そのとき鏡を見るとなんだかめんどうくさくなり、まだいいかとおもったので湯浴みだけすることに。湯のノブをまわしてシャワーから出しっぱなしにしておき、服を脱いでからあらためて浴室にはいると、出水は高温に達していて室内がよく曇っており、そのなかに身をつつまれるとなまぬるくまたかすかに息苦しい。湯で顔をよく洗ってから全身をながして、からだとあたまとそれぞれ洗う。済むと浴槽のなかに立ったままフェイスタオルで全身の水気をぬぐう。鏡は乳白色っぽい薄色ともっと不健康そうな沈んだ色とがなんともいいがたい精妙さで組み合わさり、粒子状の虫か微生物があつまって不規則な模様をえがいたように曇っており、その脇の壁には直接流水が触れたわけでもないのに水滴が微妙に揺らぎながら縦にながれおちたすじが何本も走って、縦線だけで書かれ左右へのぶれのあまりにも微細な差異によって意味をあらわす、あたかも未解読の古代の文字であるかのような様相だった。便器のうえも濡れている。そこや、浴槽の縁もぬぐっておき、出るとフェイスタオルはビニール袋に入れて、バスタオルでからだにのこった水気を拭くと下着とジャージを身につけた。椅子に座ってドライヤーで髪を乾かす。
 そのあとはたいしたこともないのだが、寄せ鍋のつゆでまた煮込みうどんをこしらえた。うまい。そのほか書き抜きをそこそこ。Sonny Rollins『Contemporary Leaders』をながしたり("How High The Moon"は三曲目で、ギターと、ドラムではなくてベースが伴奏していた)、きのう弾いたギター演奏をnoteでまたながしてBGMとした。今回のやつはやはり聞いていてそんなにおもしろくはない。ゆびもあまりほぐれていなかったし。いつもそうではあるが。ブルースに回帰してきたあたりではここまで弾いてきて手があたたまっているから、そこそこ乗っているような気はしたが。
 この夜もまた夕食後に背中がつかれていたのでしばし休もうと寝床にうつり、パウル・ツェランを読もうとおもったところが疲れが身にかかるしねむくてどうにもならず、いつの間にか自己を喪失していた。掛け布団はかぶっていたが。湯も浴びたし、歯磨きも食後すぐに済ませておいたのでまあよいといえばよい。ほんとうはジャージのままでなく寝間着に着替えたほうがからだにはよいのだろうが。ジャージで寝るとやはりすこし窮屈な感じはする。


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  • 「ことば」: 31 , 9, 24, 16 - 20
  • 「読みかえし2」: 414 - 422
  • 日記読み: 2021/11/1, Mon. / 2014/3/26, Wed.


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Samantha Lock, Martin Belam, Dan Sabbagh, Luke Harding and Isobel Koshiw, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 250 of the invasion”(2022/10/31, Mon.)(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/31/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-250-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/31/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-250-of-the-invasion))

Russia has launched a wave of cruise missiles at hydroelectric dams and other critical infrastructure across Ukraine on Monday morning, with explosions reported near the capital Kyiv and in at least 10 other cities and regions. Ukraine’s air command said it shot down 44 out of 50 enemy rockets. Video footage suggested that several missiles were intercepted in the skies around Kyiv, soon after 8am local time. Air raid sirens went off nationally, with citizens told to seek shelter.

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Kyiv’s mayor, Vitaliy Klitschko, said 40 percent of the Ukrainian capital’s residents do not have water and 270,000 apartments are without power as of Monday evening.

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Russia’s Black Sea flagship vessel, the Admiral Makarov, was damaged and possibly disabled during an audacious Ukrainian drone attack over the weekend on the Crimean port of Sevastopol, according to an examination of video footage. Open-source investigators said the frigate was one of three Russian ships to have been hit on Saturday. A swarm of drones struck Russia’s navy at 4.20am. Aides to Zelenskiy hinted the country was behind the well-orchestrated raid, though his government has not claimed responsibility.