しかしわれわれ二人の関係についての心配は、あなたは全然する必要はありません。昨晩 [マックス・ブロートと] 二人きりで喫茶店にいましたが、その時ぼくらが笑うのを御覧になりさえすればよかったのです。ぼくに対する彼の友情は不動であり、彼に対するぼくの友情もそうですが、ただこの友情の重心はぼくだけにあり、従って友情が動揺するとき、それを知るのはぼくだけであり、だから、そこからぼくだけが知る苦悩でもって、同様にぼくだけのものである罪過を償うことができるのはぼくだけなのです [「ただ」以降﹅] 。(……)
(マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、247; 一九一三年一月二六日から二七日)
九時半ごろに正式に覚醒。一一時までだらだら過ごす。天気は基本的に曇りで、希薄な、雪化粧的な雲とはいえ空が全面覆われる時間がありつつも、水色が透けるときもあり、晴れきらないがさすがにきょうは溜まっている洗濯物をかたづけなければとおもっていたところ、起床したころには薄陽がただよって晴れに寄ってきていた。二時現在でも雲をまえに敷かれながらもいちおう太陽は空に映って、レースのカーテンの上部にあかるさが宿っているが、それも時間によりけりだ。寝床をはなれると水を飲み、洗濯機を稼働させると瞑想。一一時一五分から二〇分弱。姿勢を解いた時点ではまだ洗濯はつづいていたが、そのあとパソコンを準備したり、水切りケースをかたづけたりしているうちに終わったので、食事のまえにものを干した。この時点では雲が消えて窓からみあげれば空は水色のひろがりだったが、タオルをたくさん留めた円型ハンガーをそとに出すと、陽がとおっていてもいきおいは弱く、空気の質感がさすがにもう冬のものだった。食事は野菜と即席の味噌汁しか食うものがない。れいによってキャベツと白菜と豆腐を切ってドレッシングで食す。パック米はまだあるにしても、それと合わせて食べるおかずがなにもないのだ。じつに簡素な食事を済ませると、味噌汁につかった湯のあまりである白湯を飲みつつウェブをみたり、そのうちに音読をちょっとだけしたり。それから音楽を聞きつつ背もたれに後頭部をもたせかけて左右にちょっとうごかしてほぐす。頭蓋も基本的にいつもかたまっているから、後頭部をこうして刺激するのはけっこうきもちがよい。音楽はcero “POLY LIFE MULTI SOUL”をさいしょにながし、つぎになつかしのLast Autumn’s Dream『Winter In Paradise』から五曲目と六曲目をながし、さいごにChristian McBride Big Band『For Jimmy, Wes and Oliver』の冒頭二曲。ceroのあの曲はとにかく演奏がきもちよい。冒頭のドラムやキーボードからして聞いててあー、となるし、間奏部でベースのリフがもどってきて、歌がないから太い音色がそのまま聞こえたり、右側にシェイカーだかなんだかわからんがシャカシャカ鳴っているのもよい。この音はその後、B部までずっとつづいていて、C部(サビ的な部分)ではなくなっていた。間奏の演奏構成はA部にはいってもたぶんすべておなじだったとおもう。Last Autumn’s Dreamの五曲目は”My Heart Keeps Stalling”というやつで、温和にあかるいいろあいがけっこう好きだった。冒頭、リフをかなでるギターのディストーションもなかなか良い感じの音色をしている。六曲目は”Echoes From The Past”で、全体的にドミナントとかハーモニックマイナーの色を散りばめていかにもメロディアスだが、この曲のA部のメロディは進行も旋律のうごきもけっこうよくできている気がする。たいしてサビ的なB部は序盤はわかりやすくはじめながら、後半のおさめかた、つまりいったん高いところに飛んでから下降してきて、かつさいごは解決しきらないで宙吊りにしたのをそのまま二番のAにつなげるという、これもあらためて聞いてみるとなかなか巧みだなあとおもった。Christian McBrideの一曲目は”Night Train”で、テーマを聞いた瞬間に、かんぜんに五〇年代アメリカですわ、という感じ。古き良き時代の香りがぷんぷんしている。曲全体をつうじてもほぼそうで、ギターのMark Whitfieldも基本的にブルージーに合わせたソロをやっているし、五〇年代的いろあいからはなれているのはオルガンのJoey DeFrancescoが速弾きしているときのフレージングだけではないか。この曲の作曲者はJimmy Forrestらしく、Jimmy ForrestというのはMiles Davisと同郷で(St. Louis)、御大が五二年に、ヤクのやりすぎだったかなんだったか、それか金がなくなったんだったか、St. Louisに一時もどっていたときに共演して、『Live at The Barrel』という音源を出している。これはむかしdiskunionで買って持っていた。いくらも聞きもしなかったが。Wikipediaをみると四二年から四八年にかけてDuke Ellingtonのところにいたというから、五〇年代どころのさわぎではない。もっとも”Night Train”はまさしく五二年のヒットで、その後はR&B(リズム&ブルース)とかファンキー系の方面で主に活躍したようだ。二曲目の”Road Song”はWes Montgomeryが六五年だったかわすれたがたしかそのくらいに出したこれもヒットだったはずで、この曲をふくんだアルバムはイージーリスニングだとして正統派ジャズのファンの方面からはそんなに評判がよくない印象がある。テーマのメロディとか、たしかにそこはかとないダサさを感じないでもない(とくにフレーズ一周を三パートに分けたとして、そのうち二パート目がみじかく切れるあたり)。とはいえ音楽としてはこういうスウィンギー&ファンキーなジャズはとにかく問答無用でたのしめるというところがあり、こういうのが好きなあたり、じぶんの音楽の趣味ってかなり保守的だよなとおもう。ジャズにかぎらず、むかしとちがってあたらしい音楽を掘ったりぜんぜんしていないし。それになにしろいままで聞いたなかでいちばんやばいとおもっているのがBill Evans Trioだし。文学のほうでも同様だとおもう。こっちもプルーストとか、ウルフとか、二〇世紀初頭のそのへんがけっきょくいちばん好きなわけで(端的にいちばん好きとなるとヴァルザーかもしれず、かれはちょっと特殊だが)。要するに同時代の、いま出てきているはずのあたらしいものやうごきを見つけたり追いかけたりする方向にむかないという点で、かなり保守的というか、ほぼ化石的。そんなことではいかん。
ここまで記すと二時四五分。曇ってきている。きょうは食い物を買いに行かなければならない。日記は二六日からできていないのだけれど、きのうの夜、もうこれはあきらめようと、いまの心身では通話をしたり友人とあったりして書くことが爆発的に多くなった日を充分にあつかう気力がないから、もったいない精神を大胆に捨て、書かないという勇気をもって大幅にカットしようとおもった。それなので二六日はもう終わりにするつもりだし、二七日も、すこしくらいは書くがかなり省略的・要約的にしようとおもっている。
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うえまで記したあと、いったん寝床に逃げた。だらだらしながらウェブをみたり、一年前の日記を読みかえしたり。とちゅうでいちど用を足しに立つとともに、そのタイミングで洗濯物も取りこんでたたんだ。三時四〇分くらいだったはず。そのころになるともうひかりの恩恵は皆無。円型ハンガーにつけたタオルたちは、きょうは数がおおくて、いつもはせいぜい四枚しかつけないところを六枚つけなければならず、そうするとひとつの洗濯バサミに二枚の角を集中させなければならない箇所が三つも出てきて、となると濡れたタオル同士のあいだに距離をあまり置けないので、ことの必然からあまり乾いていなかった。それはしかたがない。ほかのバスタオルとか肌着とかシャツはそこそこ。冷たくはなっていたが湿ってはいないので、そのままたたんでかたづけた。そのあとまたあおむけになり、過去日記を読んで四時に起き上がる。一年前の一二月二日につくっている短歌はどれもまあそんなにきらいではない。
天使から産み落とされて街角に行くあてもなし風の音をきけ
みずからが降る日を知った雨粒のひとつひとつが比喩だとしたら
雨は雨風は風だときみは言い字義を生きつつ神を信ずる
砂浜が暮れる間もなく波は死に地球の嘘をたたえるさだめ
朝焼けがみじかすぎても落ちこむな子午線のさき海が待ってる
一二月三日金曜日の往路は以下。「頭上の樹冠にひかりが射しながらそれいじょうはくだってこず」。すばらしい。「ふと目を落とした足もとがぼんやりとうす赤いようで、頭上たかくにかざされた葉の色がどうやらにじみ落ちて地に反映しているようすだった」。すばらしい。
(……)きがえて出発へ。マスクをつけて玄関を抜ける。道を行けば南の山が淡い金色につつまれてうすあかるくかすんだすがたとなっており、何年かまえに伐採されて茂りのとぼしい面は肌色のストッキングでも貼りつけたように内実が見えず希薄化し、稜線のほうの木々が焼けつくように濃いオレンジに塗られているのばかりが目立つ。空は雲の赤子ひとつぶもないまっさらなひろがりで、水色もほとんど白とわかたれぬくらいあわく、東南の果てには夕時のまえぶれめいて紫をにおわせる靄っぽい感触がはやくもしたから浮かびだし、逆に西のさきでは家や木々にかくれたひかりのつやがグロスを乗せたように空に混ざっていた。落ち葉が左右に厚く敷かれて黄色黄緑のあかるい冬姿となった坂道は、頭上の樹冠にひかりが射しながらそれいじょうはくだってこず、キャラメル色の飴細工めいてパリパリひびきそうなこずえの葉っぱのあいだに染みた空はあくまで青い。見上げつつそのしたを行きながらふと目を落とした足もとがぼんやりとうす赤いようで、頭上たかくにかざされた葉の色がどうやらにじみ落ちて地に反映しているようすだった。
勤務中の記述では、(……)くんのところが目にとまった。かれもたしかもう辞めてしまったんだよな? 曜日がちがってずっと当たらなくなってしまったので、正確に把握していないが。どうでもよいような、あまりにもなんでもない会話が記録されている(会話というか、おおかたかれがしゃべるのをこちらが聞いていたのだろうが)。このなんでもなさがあったということ、それが記録されているということ。すばらしい。
(……)分数の比をかんたんにする問いをめんどうくさがったときなど、雑談をまじえて気をまぎらわす。なんでもいいので子どもにはなしをさせ、それを聞いてあげることが重要なのだとおもう。同級生に嫌味を言ってくるいやなやつがいてそいつを「論破」したとか(いまはなつかしき2ちゃんねる的な語彙だが、じっさい、(よくは知らないようだったけれど)ひろゆきというなまえも出ていた)、理科の実験で塩酸が手にかかったけれどうすかったから大丈夫だったとか、アンモニアはにおいがいやだとか、そんなことを聞いた。(……)
なんでもないような関係の時間や瞬間があったということをやはり書きたいなとおもうものだが、その「書きたい」のなかには、時間を置いてからそれを読みかえしてなんらかの感慨を得たいというところまでふくまれているのかもしれない。現在の書きたいという欲望のなかに、あるいは書く行為やその時間のなかに、過去を見返すうごきとしての精神性、つまり回顧がすでにふくまれているような。じぶんはたぶん、過去を振り返ってなにかをおもいだしたり、時間が過ぎたことをまざまざと感じたり、もはやうしなわれたその瞬間がたしかにあったということを証しだてたりするのが大好きなにんげんなのだろう。プルースト的人種。めちゃくちゃ天気の良い日にそとをあるいているときにおぼえる、すでにして死後であるかのような、じぶんがいなくなったあとの世界をみているかのようなあの感慨も、おなじ種類の精神傾向に属するものなのだろう。
あとわりとどうでもいいがBon Joviを聞いている。わざわざ付き合いながら、「べつにとくだんおもしろくはない」と言っているのに笑う。
(……)休息してから食事に行くまえにBon Jovi『Keep The Faith』をまたながしつつ座った。六曲目から一〇曲目まで。先日と同様、べつにとくだんおもしろくはない。#7 "Dry County"はいかにもドラマチックというかんじで、後半でテンポがはやくなって長めのギターソロにはいるが、そのソロはギター小僧的な感触がつよいもので、そこそこかっこうよいところもあった(ただ、ギター小僧感がはみ出してかえってダサいぶぶんもあった)。#8 "Woman In Love"は有名な曲で似たものがあったような気がするのだが、不明。Jon Bon Joviのボーカルは暑苦しいもので、ハードロックやメタルのボーカルというのはもちろん基本的に暑苦しいわけだけれど、それにしても暑苦しく、じっさいに聞いたらめちゃくちゃ声でかいんじゃないかとおもう。八〇年代アメリカの暑苦しさというか、たとえばDavid Lee RothやJourneyなんかを類想させるかんじだ。Journeyにかんしてはボーカルもそうだけれど曲調や音楽性の面かもしれず、#10 "I Want You"でI want you I want youくりかえしているコーラスを聞くに、"Don't Stop Believin'"をおもいおこしたのだった。ながいことおもいだすことがなかったが、『Escape』は(そしてそのつぎの『Frontiers』も)中高時代、こちらはなんどもくりかえしきいたのだ。
四時で立ち上がると本日二食目を取ることにしたが、それは一食目と変わらず生サラダに即席の味噌汁である。ちがいはサラダに大根をちょっとくわえたのみ。炭水化物とは? みたいな食生活だ。食べながら(……)さんのブログをのぞくと、検閲版をもうはじめたとあった。年明けからだとおもっていたがはやい。フルバージョンをみられる特権に浴しているのでわざわざ検閲版をみる必要はないわけだけれど、それでも(……)さんが書いていた文字列をコピペし、hatenablog.comをつけたしてちょっとのぞいてみると、学生らのなまえがつづくところなど(…)くん(…)さんのオンパレードでわりと笑う。こちらのブログも複数人と会ったときなんかはそうなっているわけだが。
食後すぐに皿をかたづけて、それから出かけるまえにきょうのことを書き足しておこうとかかったものの、ものを食べてすぐに打鍵して文を書こうとするとやはりからだがちょっと変な感じになる。つまりは緊張する。肩のあたりだろうか? それでいったん背後の背もたれに身をあずけ、また後頭部をゆるく刺激する。これをやるとけっこうリラックスする感じがあり、おかげで書きものに復帰することができて、ここまで記せばいま五時五分である。すでに日は暮れた。連日だらだらなまけながら脚をマッサージしているおかげもあって、からだはだんだん安定してきている。きょうはこうしてそこそこはやくから文も書けている。とはいえたぶん今時のパニック障害の回帰が快癒し、もう気にならない、意識されないというところまで来るには、最低でも来年いっぱいくらいはかかるんじゃないかというのが、とくに根拠もないが過去の経験からかんじられる体感である。いまはなにしろヤクもいちにち二錠飲んでいて、じっさいそれで心身の緊張がそれまでよりは薄い状態がたもたれているから、マッサージなどやってもより効果が出てだんだん安定してきたというところがあるだろうし。ヤクをいちにち一錠に減らすまでにはまだそこそこかかる見込み。
あと、あしたがブランショの読書会なのだけれど、ぜんぜん読めていないので起きたあとLINEに、さいきんどうも本が読めずしょうじきぜんぜん読めていないが、みなさんはどうかとメッセージを送っておいたところ、(……)くんも引っ越しの準備で同様、(……)さんも延期だとありがたいということなのでやはりみんなおなじだ。こちらとしてもありがたい。あしたはひとまずなくなるだろう。率直に言ってこちらは追加で二週間は読む期間がほしいが、しかしそんなこといっていないでどんどん読んでほかの本にもふれたい。
そういえばさきほど食器を洗ったさいに、ここ数日放置していたドレッシングと麺つゆの空きボトルもかたづけておいたが、注ぎ口部分のカバーはあれは、取りやすいような仕組みになっている製品もあるけれど、そうでなければ取るのにけっこう労力がいって、爪があればまだしも行けるがちょうどきのう爪を切ってしまったので、今回はお手上げですわ。
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- 「ことば」: 31, 9, 24
- 「読みかえし2」: 537 - 542
- 2021/12/2, Thu. / 2021/12/3, Fri.
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Jane Clinton and agencies, “Russia-Ukraine war at a glance: what we know on day 283 of the invasion”(2022/12/3, Sat.)(https://www.theguardian.com/world/2022/dec/03/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-283-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/dec/03/russia-ukraine-war-at-a-glance-what-we-know-on-day-283-of-the-invasion))
Up to 13,000 Ukrainian soldiers have been killed since Russia invaded in February, according to Kyiv’s presidential adviser Mykhailo Podolyak. At certain points in the war, Ukraine said that between 100 and 200 of its forces were dying a day on the battlefield, making Podolyak’s estimate seem conservative. Speaking to Ukraine’s 24 Kanal, Podolyak said they were official figures from Ukraine’s general staff.
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Germany is aiming to deliver seven Gepard tanks that had been destined for the scrap pile to Ukraine this spring, adding to 30 of the air-defence tanks that are already being used to fight against the Russian army, Der Spiegel magazine reported on Friday.
Russian troops in Ukraine are deliberately attacking the country’s museums, libraries and other cultural institutions, according to a report issued by the US and Ukrainian chapters of the international writers’ organisation PEN.
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The United States is reportedly working with two Middle Eastern countries to shift advanced Nasams air defence systems to Ukraine in the next three to six months. Kyiv received two of the eight approved deliveries of Nasams in early November.