2022/12/18, Sun.

 (……)ぼくはあな(end316)たを至るところで探し、路上の極めてさまざまな人間の小さな動きが、相似と対照によってあなたを思い出させますが、ぼくは自分をそれほど満たしているものを言い表わせません。それはぼくを一杯に満たし、それを言う力を残さないのです。
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、316~317; 一九一三年三月二八日)



  • わりとはやい時間から目覚めてはいたのだが、きょうも寝床でながくだらだらと過ごしてしまい、起床は正午前の体たらくである。天気は快晴。洗濯をしなかったが、いまからかんがえればシーツでも洗っておけばよかった。もうすこしはやく起きれば布団も干せただろうに。瞑想は一二時五分くらいから二〇分ほど。きょうはさいしょに深呼吸はせず、しばらく座ったあとさいごにちょっとだけやっておいた。食事はいつもどおり洗濯機のうえにまな板と包丁を出して、キャベツの皮を剝いでてきとうにかさねては細切りにして大皿へ。それに豆腐。その他即席の味噌汁とレンジであたためる包みピザにバナナ。キャベツはきのう半玉をつかいきったのでここでもう半玉を使用開始し、バナナはなくなった。食後は洗い物を済ませると音読。あいまあいまに手のひらをこすりあわせてあたためながらけっこう読む。切りをつけるともう二時半だった。そのすこしまえから、天気が良いしたまには風をとおそうとおもって窓を網戸にして左半分いっぱいひらき、レースのカーテンにもすこしすきまをもうけておいた。きょうは日曜日なので向かいの保育園に人影はない。そのようにして風をとおしても寒気とかんじられない温和な日和だ。いちどめの瞑想のあいだも日曜日らしくあたりはしずかで、室内はともかく、風らしい風もないようでそとの大気のうごく音も聞こえてこなかったし、せいぜい壁だか窓だかがちいさくミシッと鳴る音がかすかにあったくらいで、車の走行音すらほぼ立たないのに、平日も休日もないような暮らしをおくっている身にいちまつ曜日感覚が降ってくるようだった。きょうは晴れたが、昨夜はいつからか雨音をすこし聞いたおぼえがある。
  • 手の爪が伸びていたので音読に切りをつけるとまずそれを処理することに。BGMにきのうながしたBen Crosland『Songs of Solace and Reflection』ののこり二曲をながし、パソコンの左、常時そこに置きっぱなしになっている薄青いランチョンマットのうえにティッシュを一枚敷いて、手指のさきをあたっていった。やすり掛けというのはめんどうくさい。切るまでは良いのだが、そのあと断面をやすっているときはいつも億劫をおぼえてさっさとべつのことにうつりたいと感じる。音楽でその億劫をまぎらわせつつ手を機械的にこまかくうごかすが、BGMのほうはといえば管楽器のソロがやはりなかなか巧手のしごとでどの曲のプレイもたのしめる。さいごの"Peter the Wolf"はブルースなのだけれど、管楽器三者だけでなく、とちゅうでヴァイオリンとチェロのふたりも合わせてソリ的なちょっとしたアンサンブルをはさんでおり、こころにくい。ただベースソロを聞くに、こういう純ジャズでエレベでソロを取るのってなんかなんかなあと感じるところがあった。どうしても地味になってあまりぱっとしないというか。もちろん音楽性やトーンやフレージングによるわけだが。まあエレベ専門で純ジャズやっているひとなんてSteve Swallowくらいしかほかに聞いたことないけど。
  • その後席を立ち、立ち尽くしたまま深呼吸をしばらくして、それからやはり息を吐きつつ背伸びしたり両腕を前後に引き伸ばしたり開脚したりとストレッチをする。そうして日記を書くまえに汁物をしこんでおこうというこころになり、鍋に水を汲んでコンロにかけて、まずエノキダケを一袋全部切って入れてしまう。つぎにタマネギ。洗濯機のうえで切っているわけだけれど、エノキダケの下端部とかタマネギの皮は、まな板の奥に引いたラップに乗せて、丸めて冷凍庫に入れておく。あした燃えるゴミの日なので今夜まとめて出さなければならない。その他大根のほんのわずかな、もうすこしくたびれたようになって硬さをうしなっている余りと、実家からもらってきたでかいニンジンをいくらかと、白菜を切って鍋にくわえる。ジャガイモを一向につかう気にならない。タマネギまで入れた時点で麺つゆをそそいでおいた。その後味の素も振り、最弱の火力で煮込む段にはいって、まな板などをかたづけたあとはきょうのことをここまで記していま四時一三分。かなりまえに買ってあった素麺が戸棚にあるので、それをフライパンでゆでて汁物に入れてもよいとおもうが、買い物にも行ったほうが良い気はしているので、うどんを買ってくるのもよい。いずれにしてももう一食食ってヤクを飲んでからでないと出かける気にはならないし、行くかどうかもわからない。


     *

  • さて、いまもう社会的取り決めごととしての暦すなわち日付は一九日にうつっており、午前零時三七分である。一〇時ごろにはスーパーに買い物に行ってきた。そこで生麺のうどんを買ってきたので、帰宅後に鍋に追加して食事。「ランチパック」のツナマヨネーズも。午後六時だかそのくらいに汁物とキャベツなどで二度目の食事を取ったのちはスーパーに出るまでだらだらしていた。そのまえには一四日の日記を綴っていて、もうあとすこしで終わるというところまで来て背の奥がうずくというか、からだの芯が収縮してちょっと詰まる感じがあるというか、そういう状態になったので、立ち上がって深呼吸したりしたのだが(じっさい息をゆっくり吐ききることをくりかえしていると、芯のほうまでたしょうほぐれはする)、いかんせん腹のなかが空でエネルギーも足りないのだろう、日記をつづけるのはなんか食ってからのほうがいいなとおもったので、食事を取ったのだった。一四日の記事はうどんを鍋に入れてなじませているあいだにしあげて、食後、さきほど一六日分まで一気に投稿。きのう(一七日)は圧倒的になまけた日だったからたいしてなにも書いていないがもうあれでよい。きょうもあとは外出時のことを書くくらいだが、いまこれからそれをやるほどの気力はない。湯を浴びたいところ。


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  • 夜の外出路。かっこうはいつもどおり、ジャージのしただけ青灰色のズボンに履き替えて、うえはそのままモッズコートで隠す。コートにはボタンとファスナーの両方がついているが、ボタンでまえを閉じたことはほぼなく(過去にやったときになんとなく野暮ったくみえたので)、ファスナーで閉ざし、しかし首まわりはそこにもあるボタンふたつみっつをきっちり留めて防護する。くわえてフードの外縁に質の悪いファーもいちおうついているのだが、それでもそとに出れば冷えた夜気の肌への侵入はかんぜんに防ぐことはできない。きょうはそんなに回り道をする気はなく、さっさとスーパーに行って帰ってくるつもりだったので、アパートを出ると右に折れてすみやかに路地を抜け、車が来ていなかったのでそのまま対岸に渡った。左折。方角は西になる。夜闇の宙に浮かび上がっている信号灯の色や、向かいの建物まえにならんで停まっているバイクなど、みやれば像がいくぶんぼやけていて、こもってモニターや文字ばかりみているから視神経がつかれていることがうかがわれる。あたりはしずかである。人通りはちらほらと、とぼしいがないわけではない。横断歩道にあたるとそこでも車がなかったので赤でもかまわず渡り、豆腐屋焼鳥屋のまえを過ぎてまた西にひらく通りにはいると((……)通り)、そこの公園に併設されてちいさな公民館があるのだが、入り口のガラス戸のさきにつつましやかなクリスマスツリーが、ちらちらと電飾をひからせていた。公園にとうぜんひとはないようだ。何人かすれちがいつつまっすぐすすむと(……)通りに行き当たる。そこを左に曲がってすこし行けば向かいにスーパーがあらわれるが、わずかばかりの遠回りはするかと横断歩道をわたって裏にはいることにした。こちらがいるのは交差地点の左下、ななめ向かいの位置にはピザ屋があって、いまそこに男性が寄っており、こんばんはー、ウーバーイーツです、という声が聞こえてきた。道を渡ると目のまえは寺の塀であり、それに沿って裏道にはいり、すぐにまた左へ曲がる。方角は南にあたり、スーパーのあるほうとおなじであり、その一本裏側、(……)駅のまえに出るルートになる。夜空は晴れて深みのある青さがおもいがけずあらわによく見え、星もあきらかなやつがいくらか打たれている。左に寺、右に駅前のマンションが建った暗い道で、その高い建物をみあげれば、夜のためか、じつにどっしりとした雰囲気をまとっており、上部端から道脇の地上までななめにくだってくるような重々しさで、それは四角く整然とくぎられたベランダのあいだをひっそりながれる影の方向のせいかもしれないが、昼間には気につかない威容の感があった。駅方面から来たひとがひとり、そこにはいっていったりもする。マンションの入り口前を過ぎたあたりで、手近に寄っていた塀の向こうに目をやれば、すこしとおくの町並みが視界にはいり、あれ、ここはこんなに見えたっけか、といぶかしむこころが起こった。もっと木があったような、斬られたのだろうか? とおもったがたぶんそういうわけでなく、たんじゅんにこずえが葉をおとしきって裸の分枝網になったので、そのぶん空が見えるようになったということだろう。塀をはさんですぐ間近に、ごつごつとして年季の入った裸木もいくらかある。駅前で細道に折れればそのままスーパーにいたる。なかなか寒い道だった。


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  • 「ことば」: 40, 31, 9, 24, 6 - 10
  • 「読みかえし2」: 640 - 650