土曜日。いつも母親がむかえに来てくれるRあたりに向かうとちゅう。南の車道沿いを行って、お好み焼き屋をまえを過ぎたあたりで、うしろから抜かされる。老人。七〇歳くらいとみえる。まず左手にもっているちいさなバッグ、四角くて真っ黒なそれに、「FIDES」と書いてあるのが気になってまじまじとみた。つぎに手。手袋をつけていた。濃い青のもので、バッグの紐をつかんでいる手の甲の、ゆびがはじまる関節のあたりに、白い花柄がならんで縫いとられている。うえはジャージ。手袋の色とあまり変わらないような地味な色で、首もとや裾に白いストライプがはいっていた。靴は黒で、Nの文字がおおきくはいっていたのでニューバランスだろう。ズボンはチノパンというのかよくわからないが、ジーンズではない、こちらが履いているブルーグレーのやつみたいなやつで、色もやはりそういう、地味な水色くらいの感じだったとおもう。右足のほうはその裾がすこしかたそうな皺をつくりながらも靴の口のまわりをうまく囲いこんでいるのだけれど、左足のほうは一部くずれていて、それで靴の背面上方、そこだけ白い部分が露出しており、とおくからみるとそれが肌がみえているようにもみえる。横断歩道でいちど追いついた。わたったあとでまた抜かされる。このときはバッグを右手に持ち替えており、つかんでいる紐以外の、肩にひっかける用の紐らしいすこし長めのやつが、だらんと垂れながらゆれていた。バッグを右にうつしたせいだとおもうが、左肩がいくらか下がった姿勢だった。踏切りを渡ってすすんでいると、中華料理屋のまえあたりでうしろから若い男女の声がしはじめて、六月に旅行に行くとかなんとか、もう決まっちゃったもんね、とかはなしていた。抜かされる。前進。病院の前庭には緑が多く、木もしばしばある。あおぐと真っ白な病院の上空がまったくの青で、雲の気配がない。四囲もそう。病院のうえの青に目をもどして、この青さはやばいなとおもった。すすみながら、マジで風景無限に書けるわ、この星がなくならない限り風景もなくならないわ、「ふうけいしゅう」永遠に書けるからライフワークにしようとおもった。