2017/5/28, Sun.

 窓を閉じていれば、室内に暖気がやや籠る正午である。洗濯物を取りこみにベランダに行っても、雲の多い空だが、身の周りの空気は温もっており、その静止を乱す風もない。ハンガーに掛かったものに手を伸ばしていると、屋根の縁から太陽が、敷かれた雲のなかの浅くなった僅かな間をついて現れ、足もとに目を下ろせば日なたが、ごくうっすらと生まれていた。
 気温計が指すのは二六度の目盛りだが、薄灰色の雲に天を塞がれて大気は蒸しているようで、取りこんだものにアイロンを当てていても、やはり汗が湧く。それで肌着を脱いで上半身を晒したが、風が入ってきて肌を涼ませてくれるわけでもない。しかし、家を発つ頃には大気が動きはじめたようで、行くうちに道が色付いていた。高みで風が生まれたのだろう、散らばった雲の動きが速いらしく、路上も刻々と色を変え、明るみを帯びたかと思えばすぐに薄青さに戻り、さらにまた暖色へと浮かび上がる。街道に来ると陽射しが出ており、首筋から肩に掛けて乗ってくるものが、なかなかに厚い。地上にも風は吹き、手に触れるのは糸のような柔らかな感触で、身につく方も当たると言うよりは、細胞の隙間をくぐり抜けて行くような軽さだった。裏通りを行くあいだも身は熱に触れられているが、粘るものでなく、上空を走る風のおかげで空には青さが広がって、空気に爽やかさが生じているなか、熱は肌に染みるようでいくらか心地良くもあった。
 図書館で消耗しながら二日分の書き物を済ませ、気を入れ直して他人の文も写すと、もう宵もやや深む。歩廊に出れば正面から夜風が走り、通路の下の街路樹からだろうか、じりじりと鳴く虫の音が昇って耳をつく。最寄りの駅に到り、薄白い雲が黴のように蔓延った空を見上げてから入った坂でも、同じ無愛想で即物的な鳴きが、一昨日の雨の余波がまだ残っているものか、思いのほか大きな沢音と混ざって、固く響いていた。