2017/7/28, Fri.

 夕食後、半袖半ズボンにサンダルを突っかけた気楽な格好で散歩に出た。玄関を通って道に出て、街灯の裏に籠った木の間の闇に目を振った途端に、暗い夜だとの印象が立つ。見上げれば実際月も星もなくて、平板な薄墨色を一面に掛けられた曇り空である。近頃夜道を歩いていなかったから月を見かけず、暦を読むことも怠っていたが、あとで調べたところでは新月はもう過ぎて三日月の時節、それがちょうど入り掛かる時刻にしかし月の姿は雲に呑まれていた。
 歩きはじめて風が頬に触れるとともに恍惚の感触が僅かに芽生えて広がりかけたが、高まらず、強い官能の代わりに水平性の解放感と、静かな安楽をもたらしてくれる。ただ歩を踏んでいるその時間自体を感じる以外に目的のなく、何からも誰からも離れて体系に回収されない断片として自律した散歩という行為、そのなかにあってひどく心の落着く感じがしたものだ。ひと気のないなかに坂を上って行き、斜面の上から空と地平を見晴らすと、川向こうの灯も乏しく、地上から山まで乾いて黒い影と化したその上に灰色のくすんだ空がひらいているのに、実に暗い夜だとの感を改めて強くした。
 家々の合間を行くあいだ周囲から、どれもこれも彩りがなくて無愛想な、散文的な声色ではあるものの、意外なほどに多様な虫の音が立って交錯する。街道の交差点に出て来た方角に戻りはじめると、車に付き従う光と影とが次々とこちらの身をすり抜けて行く。じきに救急車の音が聞こえた。前からか後ろからかと耳を張って窺っていたが、実際には川向こうの地区から、山に響き返って届いたものらしい。途中、道路工事をしている区域まで来ると、歩行者用通路を囲むように置かれたコーンの頭に保安灯が光って、夜道に小さな色の粒が散らばっているのに、花火の弾けるのを思った。あいだを通り抜けながら目を寄せてみると、赤と緑、赤と青という風に、それぞれ二色を交互に行き来しながら明滅する動きの、近くから見ると単調でちゃちなような、しかし無邪気なような光だった。そこを過ぎて駅前では、街灯に起こされるのだろう、ニイニイゼミが盛って声を張り上げている。
 街道からふたたび裏に入る間際、車の流れに引かれるようにして風が渡り、なかに強めの涼しさが含まれていたが、雨の気配は感じられなかった。三〇分か四〇分か、ゆっくり歩いてそのくらいは外にいたらしい。

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