2017/7/27, Thu.

 曇り空の終日続いた一日だった。朝の道に陽射しというほどのものもなく、眩しさの刺激が瞳を責めるでもないが、早朝に起きるというのに構わず夜を更かしたのが祟ってさすがに頭が重い。瞼がうまくひらききらず、光がなくとも眼球がかすかにひりつくようなのは、眠りの不足とはまず目に来るものらしい。照りつけるもののなかったのは幸いで、気持ちの良い風も折々吹いて戯れるなかを、半端な瞼の鈍い眼差しで歩いた。
 勤務のうちに意識が冴えて、帰る午後には平生と変わらないようになっていた。相変わらずの薄白い曇りだが、姿の見えない太陽が高くなった分、暖気が道に漂っているのが感じられる。あちらこちらでひらいた百日紅の花が落ちはじめており、僅かに転がった紅色の鮮やかさを見るに、雨中に伏して煌めく落花を金平糖に喩えて眺めたいつかの過去が思い起こされた。それほど暑くもなかったが今月の仕事終いの気楽さに、自販機で炭酸飲料のボトルを買って手に提げながら帰った終盤、坂を下りながら道の遠くに眺望がひらけて、近所の家並みを越えて彼方の上り坂まで見通されるのに気がついた。出口付近の樹々が伐られたのはもう二月近くも前のことだが、この坂を下りで通るのはもっぱら夜のことで、その時見えるのは黒くわだかまった樹影山影ばかりだったため、昼間の眺めの広さを感得するのは初めてだったのだ。自宅から反対にいくらか歩いた先にある上り坂の、三〇キロの速度制限を表すオレンジ色の表示まで小さく見えたが、何度も通っているこの坂をそのような距離と角度から目に入れることが今までなかったので、あれは本当にあの坂だよなと見慣れぬ相貌に戸惑うようになって、木の間に消えていく道の先もまるで自分の知らない場所に通じているかのような気分がしばらく浮かんだものだ。