2017/10/24, Tue.

 台風の夜から丸一昼夜とさらに半日を挟んだものの、夕刻に見た川の色は前日と変わらず工作粘土じみた生気のなさで、流れに呑まれて消えた陸地もまだほとんど戻らず浸けられたままのようだった。坂を上って行きながら鼻から息を吸いこむと、顔の真ん中につんとするような、砂を吸ったような感触が引っ掛かって苦しい。風邪を引いたものかここのところ、鼻の奥から喉のあたりが弱っているようで、空気の刺激が粘膜に強く、乾燥のほどが良くわかった。
 台風一過で澄み渡った晴天の、僅か一日で勿体なくも失われ、一転してまた隈なく曇りに閉ざされた空である。平面的に被せられた白雲の上から、場所によっては釉薬のように微かな青さが塗られていて、抑制的な、慎ましいような色調の天気だった。路地の途中の空き地まで来ると、縁に集まったススキの群れの気づけば高く伸びており、こちらの背丈を越えているものもあるなかに、穂の合間を埋めるようにして何か黄色い花が細かく群れて混ざっているのに目を惹かれる。帰ってきてからインターネットを探ってみると、どうもこれがセイタカアワダチソウではないかと思われた。それからさらに進んだ先で、一軒の狭い塀内に豊かに実った柿の木のその枝の上に鵯が一匹、しきりに鳴きを散らしているのを見留めて過ぎれば、傍の工事現場から電動工具の連打音が騒々しく響き出るのに、飲まれながらもしかし鳥の方も負けじと声を張っているのが背後に聞こえた。打音はしばらく歩くあいだに通りの家壁に反射しながらついてきて、その都度違った窓の内から音が出てくるかのようだった。
 勤めを済ませて、ほかに誰の姿もない夜の裏道を歩きながら思わず咳き込むと、その声が思いのほかに大きく通りの前後に反響する。街道まで来て道端のちょっとした草むらから、車の途切れた隙[ひま]に虫の音のいかにも小さく控え目に立つのを耳にすれば、静けさのうちに空気も冷え冷えと身に寄って、随分と物寂しいような時節になったものだなと思われた。