2014/4/15, Tue.

 ヴァルザーが生まれた日だった。ジュネとムージルが死んだ日だった。夢のなかで、話したこともない高校の同級生に生活をとがめられた。二十四にもなったのにたいしてはたらきもしないで本ばかり読んで親に依存して、と言われた。余計なお世話だった。塩タンメンをつくって食べてからはだらだらした。
 John Coltrane『My Favorite Things』を流して昨日の日記を書いた。座っていたほうが疲れるから立って書いた。Mさんのブログを読んだ。旅行して日記を書けばそれだけでなにかになると思った。腕立て伏せをして、ストレッチをして、また腕立て伏せをした。腕をゆっくり曲げて、筋肉をしぼるみたいに伸ばした。上にあがって、洗濯物を入れた。陽が軽くてあたたかかった。空は真っ青だった。冬よりうすくてやわらかい青だった。草が伸びはじめた斜面を、白いちょうちょが一匹飛んでいた。どこかの家からドリルみたいな音と、ハンマーで木をたたいている音が聞こえた。屋根の向こうに、うそみたいにピンクで紫の花の木が見えた。仕事にいきたくなかった。
 お風呂に入ってから、歯をみがいた。水色の歯ブラシに水色の歯みがき粉をつけた。John Coltrane "But Not For Me"を流して歯をみがきながら歌ったけれど歌えなかった。薬を飲んだら薬がなくなった。明日医者に行かなきゃならなかった。シャツとパンツだけで瞑想した。ゆうべ寝る前にもやった。ベッドの上で、尻の下に枕を置いた。時計の音が聞こえた。郵便配達のバイクの音が聞こえた。草が揺れる音と風の音が混じった。鈴みたいな鳥の声が聞こえた。階段をあがる足音がして母が帰ってきたけれど、三十回まで呼吸をつづけた。
 木洩れ陽を浴びた葉っぱがつやつや揺れた。風そのものだけじゃなくて、木が立てるさらさらした音が気持ちよかった。西陽があたたかいよりもあつかった。白とピンクのこんぺいとうみたいな花を散りばめた木があった。とんびがぴー、ひゅるるる、と鳴いてゆっくり浮かんですごくのどかだった。道路が白く照りかえしてガラスみたいになった。(……)前にオレンジのバッグに座った高校生がいた。オールバックみたいに髪をあげていた。まだ遠いときから目を向けてきたから見かえした。目を細めていたけれどにらんでいるより陽がまぶしいみたいだった。通りすぎる前になにか言ったみたいだったけれど車の音で聞こえなかった。
 職場のドアがあいてちらりと見えた空が金色だった。それからあっという間に夜になった。コンビニのATMで残高を見たら十万円あった。四万円おろして年金をはらった。スーパーに寄ろうかと思ったけれどやめた。かわりに自販機でジンジャーエールを買った。いつもは裏道から帰るのに表通りに出た。場末の一番はじっこみたいな町だった。それでも街道は何歩か歩くたびにある街路灯と信号と車のヘッドライトで明るくて、そのぶん夜空がうすくなった。星を消してしまう光のなかで月だけが生き残っていた。そのまわりの空は墨を淡くとかしたみたいで、山は真っ暗な影だった。山の手前の町の明かりが点々と花が咲いているみたいだった。坂の上からそれを見るのが好きだった。