2014/4/14, Mon.

 午後五時の鐘が鳴った。うたた寝をしていた母が動きはじめる足音が上から聞こえた。三十分前までは一緒にこたつで夢を見ていた。高橋源一郎『さよなら、ニッポン』を読み終わったあと、先に眠りはじめた。母が帰ってきてからすぐだった。足が痛い、と声をあげながら冷凍のたこ焼きを食べようとしたけれど、昼前に食べてしまっていて、謝った。寝るつもりはなかったのにこたつに入っていたらそんなつもりは通用しなかった。昼寝をしているときによくある金縛りが起こった。夢に半分ひたったふわふわした意識がしびれた。両腕にも伝わった。母の息が唇をはじく小さな音が聞こえた。外で風が吹いて、昼前から強くてたびたび家を揺らしていた。息苦しさを破って起きて、タオルをたたんだ。
 保坂和志のHPで、午前中にも読んで昨日も読んでいた「試行錯誤に漂う」というエッセイを読み終わった。上にあがると自治会の資料を届けてほしいと言われた。隣のTさんの家はポストが見つからなかった。勝手口におりていった。二回ノックして声をかけると返事があった。テレビの音が聞こえていた。扉をあけたらすぐに出てきて、渡したら悪いね、と笑ってみせた。それからAさんの家に行った。犬がいると言われていたけれどいなかった。表から細い道に入ったとき、向こうに犬を連れた人がいたから多分あれだと思った。インターフォンを鳴らしたらすぐに返事があって、どうぞというからあけた。廃品回収の日程と総会の議事録を渡した。帰ったら母に家の前が汚くなかったか聞かれた。そんなことは気にしていなかった。桜の花びらが貝殻みたいに落ちていたのだけ見た。
 入浴して夕食にした。母がテレビをつけたら日本に来た外国人に密着する番組がやっていた。タレントになりたいという女の人の笑い方が日本人だった。ギターを弾いてから三宅誰男『亜人bot化をすすめた。youtubeHelloweenの『Keeper of the Seven Keys Part Ⅱ』を流した。はじめの"Invitation"の響きで、高校三年の文化祭のステージとか、それに向けて練習した夏の汗だくの教室がよみがえった。アルバム全部聞こうと思っていたけれど、"Eagle Fly Free"を聞いたら満足して閉じた。ジャズがほしかった。Charles Lloyd『Forest Flower』を流した。落書きを二ツイート書いてから『亜人botのアカウントで、「ゼーバルト」で検索してフォローした。NirvanaNevermind』をかけた。ギターを持ってパワーコードを弾いたけれど、さすがにうるさかったから一コーラスで置いた。十時だった。ヘッドフォンで聞いて、『東山魁夷 白の風景』をめくった。"Lithium"を歌えるようになりたかった。
 ジャージに着替えて外に出た。携帯はいらなかった。時計も持たなかった。空は黒いようで青かった。きっと月がまるいせいだった。林は黒くてざわざわ動いた。冷たい風だった。自動販売機の前で桜の花びらが死体みたいに散らばっていた。ポケットの鍵がちゃらちゃら鳴った。消防署のほうからアナウンスが聞こえて、サイレンが響いたけれどすぐに消えた。電車がついて、二、三人降りた。ショートパンツの女の人が走って追いこしていった。自治会館に電気がついていて、笑い声が聞こえた。どこかで座って音楽を聞こうと思っていたけれど、ipodはつかえなかった。歩いているとどうでもよくなった。