手もとの服の皺を伸ばしながら視線を上げて外を見やると、雨はかすかに降り続いているようで、解像度の悪く細かなノイズが走るテレビ画面のように、空気はぶれている。空は真っ白で、中空に鈍い空虚が漂っているが、そんななかでも川沿いの木の一つがもうよほど赤褐色に染まって、太陽の気配など粒子の一つ分もないのに、傾いて暖色を強めた西陽の色を芯まで溶けこませたかのようになっているのが、寒々しさを癒すようだった。
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風呂に行き、湯船のなかで温かなものに取り囲まれて、手足の指先まで熱を行き渡らせた。雨はどうも降っているように聞こえるが、沢が近いから、増水して立ち騒ぐその水音なのか、それとも天から下るものの跳ね返りなのか、判別が付かない。顔を両手で擦り洗ったり、尻の据わりを直したりしながらふと水面を見下ろすと、生まれた襞のなかに、箔のような白さが砕けて散らばっている。上下左右への液体の揺動が収まると、天井近くの角の方に掛けられた電灯の姿が戻って、小さく遠いように湯に反映する。水面を軽く撫でて、僅かでも波を作ってやれば、それがふたたび分解して液体に溶け、ほとんど形と言えるようなものを失って細かく周囲に染み出て、襞の一片に純白を添えて同化する。湯の落着きのなかでそれらが分子のように寄り集まって静かな鏡像に復元されるたびに、またそれを手指で撫でて壊し、ばらばらにするのが何とはなしに面白く、子どものようにしてしばらく遊んだ。