2016/11/8, Tue.

 駅に着いてホーム上を歩きながら、小学校の裏の丘のほうに首を傾けると、折り重なった石段の頂上の端、校舎の脇に一本、年若げな緑のなかに黄色い点をぽつぽつ散らせた木が直立している。そうか、あれは銀杏の木だったかと思いだして、尖った頭の先まで秋に染まってまさしく盛る炎のように鮮烈な、過去に見た姿が浮かんだが、まだ火は放たれはじめたばかりで、火勢が緑を侵略して舐め尽くすにはもう数日掛かりそうだった。

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 絶え間のない人の行き来でざわめく通路を北口に出ようとすると、凛とした冷たい響きが、雑踏の煙のなかを一閃して貫くのに、聴覚が覚めたようになる。そちらの方向を見なくてもたびたびの訪れで既に知っている、駅舎と広場の境に佇む、裾の広い円錐形の編笠で顔を半ば隠し、行雲流水の文字を腹の前に示した、行脚中の禅僧の鳴らす鈴である。知人からはどこに行けば良いと返ってきたので、広場の植込みに座っていると返して腰掛け、僧の方を見つめた。低く垂らした左手には数珠を握り、身体を少しく左右に傾けて鷹揚に、過ぎて行く通行人を見やりながら、合間に右手を振って奏でる鈴の、その清澄な鳴りがよく響くものだなと耳に受けた。