九時半のアラームで一度ベッドから離れたのだったが、今日も今日とてまもなく寝床に戻ってしまった。ベッドの端に落ちている陽のなかに入り、光を吸い込むようにしながら一時間ほど微睡みに苦しんだあと、一一時を前にしてようやくふたたび起き上がることが出来た。上階に行き、母親に挨拶をして何かあるのかと訊くと、前日のおかずがほんの少し残っているということだったので、冷蔵庫から茄子と焼豚の炒め物に鯖の煮付けを取り出した。両方とも電子レンジに収め、しばらく加熱したあと破裂する前に取り出し、米をよそって卓に就いた。そのほか、プラスチックのパックに入った、これも前日の残りであるキャベツの生サラダである。ものを食べていると、母親はまもなくクリーニング屋に行くと言って出かけていった。残されたこちらは食事を終えると抗鬱剤と風邪薬を飲んでおき、食器を洗うとそのまま風呂場に行った。浴槽の蓋の上には黒い体の一匹の蜂が止まっていた。既に弱っているらしく、飛ぶ力がないようで、緩慢に蓋の上から浴槽の縁に移り、そこに溜まった水に足を取られているようだった。蓋を取り除くとこちらはその蜂を指で弾いて浴槽のなか、残っている水のなかに落とし、栓を抜いた。微かに生まれる水流に蜂は為す術もなく乗せられていき、排水口の近くまで来たところで止まったので、こちらは湯船のなかに入り込み、ゴム靴を履いた足で蜂を排水口に送り込んだ。少々残酷なことをしてしまったかなと気を咎めながら風呂を洗い、出てくると下階に下りた。コンピューターを起動させ、日記を書きはじめたのが一一時三六分だったが、どうにも気力が湧かなかったので僅かに八分間書き足したのみで切り上げ、ベッドに移った。そこでも本を読むでもなく、Hermeto Pascoal『Ao Vivo Montreux Jazz Festival』の流れるなかで目を閉じて、クッションに凭れて休んでいると、天井が鳴った。それで部屋を出て階段を上ると、帰ってきた母親が、即席の冷やし中華を作ったから食べればと言った。こちらはものを食べたばかりで腹はまったく減っていなかったが、ほかに食べる者もいないので頂くことにして卓に就き、ふたたび腹を満たした。
そうしてまた自室に戻ってくると、一二時四九分から読書を始めたのだが、例によって、意識を完全に落としきるのではないものの、ただ目を閉じて何もせずに休んでいる時間が多くあった。そのあいだに流した音楽は、FISHMANS『Oh! Mountain』にHerbert von Karajan & Wiener Philharmoniker『Dvorak: Symphonien No.8 & No.9
それからベッドに移り、ふたたび読書を始めた。Michael Stanislawski, Zionism: A Very Short Introductionである。BGMに流したのは、Seiji Ozawa: Toronto Symphony Orchestra「Takemitsu: November Steps etc.』。いつも通り頻繁に英単語を辞書で調べ、時折り手帳にメモ書きしながら頁を繰り、八七頁まで読み進めた。その頃には時刻は九時を迎えるところだった。風呂に入ろうかと上階に行くと、しかし帰ってきた父親が入っているところだったので階段を引き返し、隣室から五キロのダンベルを持ってきてベッドに腰掛け、器具を持ちながら腕を上下させはじめた。肘のあたりを太腿の内側につけて、ダンベルを持って上腕部を伸ばしては曲げるのだった。『SIRUP EP』の流れるなかで両腕ともそれを行って筋肉を少々使うと、父親が風呂から出たようだったので室を出て階段を上った。仏間にいる父親におかえりと挨拶し、下着を持って洗面所に行った。服を脱いで入浴、何をするでもなく身体を水平に近くして浴槽のなかで憩い、しばらくすると上がって下階に戻った。
一〇時からコンピューターに寄り、Istvan Kertesz & London Symphony Orchestra『Dvorak: Symphony No.8 & Symphony No.9』を聞きながら小林康夫・中島隆博『日本を解き放つ』の書抜きを行った。一一時までちょうど一時間、打鍵をするあいだ、LINEのグループで一二日のことが話し合われていた。一二日はT谷の誕生日である。翌日、二日にもこのグループで集まる予定だが、その時それぞれ自分が行きたい場所についてプレゼンしてT谷に一二日の目的地を決めてもらおうという話になっていた。しかし、こちらは特段に行きたい場所など思いつかない――強いて言えば美術展を見に行きたいくらいのことで、人出は相当に多いだろうが、門外漢でも見やすい定番の場所としては上野の国立西洋美術館あたりで良いだろうと考えており、明日はその旨言い出してみるつもりだ。TやMUさんなどはディズニー・ランドに行きたがっているのだが、こちらは夢の国などまったく興味がなく、リアリスティックに現実に生きる人間なので、もしディズニー・ランドに決まった場合は俺は欠席させてもらうぜと発言しておいた。するとTが、ご自由にどうぞと言ってきたので、妙に引き止められたりしなくて良かったと安心した――その後、Kくんが、こちらの言葉を引用して、マジかよと呟いていたが。一一時に至ると間髪入れず、今度は『岩田宏詩集成』からのメモ書きに移った。コンピューターを閉ざし、その上に手帳を置き、左手の机上には本を載せて、『族長の秋』のハード・カバーで頁をひらいたままに押さえつつ岩田宏の言葉を手帳に写していった。音楽は途中からKendrick Scott Oracle『Conviction』に繋げて、これもちょうど一時間行ったところで切りとし、それから日記を書きはじめて現在零時一八分。
岩田宏の文言を写しながら、短歌を三つ作った。
黄昏の光のような音楽で悪魔を刺して血の海に踊る
真夜中の白痴になって歌唄うそれだけでもう一篇の詩さ
禁じられた遊びに耽り夏を越え秋風のなか涙を落とす
それからインターネットを回ったのち、一時からルイジ・ピランデッロ/白崎容子・尾河直哉訳『ピランデッロ短編集 カオス・シチリア物語』。安定性の高い確実な描写とユーモア。なかなか良い。二時直前まで読み、六時五〇分にアラームを仕掛けて就床。相変わらずホトトギスがよく鳴く夜だった。
・作文
11:36 - 11:44 = 8分
17:00 - 17:28 = 28分
19:07 - 19:37 = 30分
24:03 - 24:19 = 16分
計: 1時間22分
・読書
12:49 - 16:38 = (2時間引いて)1時間49分
19:48 - 20:59 = 1時間11分
22:00 - 23:00 = 1時間
23:01 - 24:01 = 1時間
25:03 - 25:58 = 55分
計: 5時間55分
- Michael Stanislawski, Zionism: A Very Short Introduction: 75 - 87
- ルイジ・ピランデッロ/白崎容子・尾河直哉訳『ピランデッロ短編集 カオス・シチリア物語』: 46 - 122
- 小林康夫・中島隆博『日本を解き放つ』東京大学出版会、二〇一九年、書抜き
- 『岩田宏詩集成』書肆山田、二〇一四年、メモ
・睡眠
3:20 - 10:50 = 7時間30分
・音楽
- Hermeto Pascoal『Ao Vivo Montreux Jazz Festival』
- FISHMANS『Oh! Mountain』
- Herbert von Karajan & Wiener Philharmoniker『Dvorak: Symphonien No.8 & No.9
』 - Phantom Blues Band『Shoutin' In The Key: Taj Mahal & The Phantom Blues Band Live』
- Seiji Ozawa: Toronto Symphony Orchestra「Takemitsu: November Steps etc.』
- 『SIRUP EP』
- Istvan Kertesz & London Symphony Orchestra『Dvorak: Symphony No.8 & Symphony No.9』
- Kendrick Scott Oracle『Conviction』