誉め歌


 ナス! おお! ナスよ! ああああなたはなんてナス?! ああ、ナスよ! ナスとしかいいようがない! ナス! ナス! あなたはなんとナスなのか?! これほどまでに! ナス! あなたの色! 深い、とても深いナス色! そのなかにいったい、なにをひそめている?! なにをもって生まれてきたのか、育ってきたのか! 収穫され、スーパーへ、エコバッグのなかへ、まな板のうえへ! おお、ナス! わたしは称賛する! つるりんとしたその丸み、ヘタの微妙な分かれ方、分かれたひとつの先端がほんのわずか折れ曲がって宙を向いている! ナスよ! あなたの名はナス! ナス以外にあなたを呼ぶすべはない! しかも! しかもだ! あなたは名詞ではない、動詞にもなれる、副詞にもなれる、助詞や連体詞にだってなれてしまう! ナス! なんて万能! 「わたしは学生です」と言ってみよう、このなかにナスをくわえてみよう! 「わたしはナスい学生です」! これが形容詞! 「わたしナス学生です」「わたしは学生ナス」、どこにでもはいれるじゃないか! 「わたしはこのナスを切る」! 「わたしはこのナスをナス」「わたしはこのナスをナスっと切る」「わたしはナスナスを切る」、こういった具合なのだ! なんて万能! 万能の名、そして万能の素材! 炒めてよし、焼いてよし、煮てよし、味噌汁でよし! ナスよ! 称賛せずにいられない! これほど! これほどまでに! こんなにもあなたを称賛した者がほかにあろうか?! この短時間でこんなにあなたの名を叫んだ者が、この百年、いただろうか! ナスよ! ナス! おお! なんと! ナス! けれど! けれども! わたしのことばでは、わたしの呼吸では、とても真の称賛に足りないのだ! ナス! あなたがあなた自身を称賛するほかはない! 自身を誉め讃えたまえ、歌をうたいたまえ、その色で! 名で! おお、ナス! 万能の者! わたしは肉と合わせて炒めるのが好きだ! 漬け物もけっこう好きだ! さっぱりとして! なんといっても、揚げ浸しや煮浸しが好きだ! じゅるりんとして、食べやすい!