二時四〇分ごろだったかに外出。スーパーへ。とにかく風がつよすぎる。朝起きたときから豪風のひびきを聞いていたし、一一時台に洗濯物を干したときも窓をあければ右から左へ、北から南へと吹きつづけていて、圧力を受けて水平になろうとするパンツとかをかたむいたまま棒に留めていく。留めればならんだものが即座に南に向かって走り出していて、それをピンチがなんとか棒につなぎとめている次第で、だいじょうぶかなあ、これ飛んでいくんじゃないかとこんかいもおもうのだけれど、いままで洗濯物が飛ばされたことはいちどもないし、きょうもだいじょうぶだった。スーパーから帰ってきて入れたときも風はつづいていて、パンツもシャツもどれも横になっているし、円型ハンガーのとなりに吊るした無印良品の黒い長袖の肌着は円のなかに入りこんでいたのだけれど、なんだかんだ洗濯ばさみがつよい。
 いつもどおりのかっこうで道に出るとすぐさま風がおそってきて、陽射しのあかるい日だがさすがにつめたい。右手に折れて路地を抜け、そのまま向かいに。西向きに変わっていくあいだ、風はまえから厚く寄せてジャケットやシャツの裾をめくり、左の対岸では建物にぶつかるとともにそのうえを高速で過ぎるうなりが立って、巨大な筒状のものがじっさいにそこを行っているような、甲高くない、物体的な音だった。あるくあいだ、花粉なのかしらないが目にもはいってくるものが頻繁にあるし、まぶたはつねに細め、二、三秒くらい閉じながら行かねばならないときもままあった。H通りの公園にひびきがおおきい。奥の梅はもう散って色味がさだかでないが、それをはっきりみるのもむずかしい。こちらがわには桜だとおもうが裸木が枝ぶりをながくひろげて、なかに緑の葉をしげらせたこずえもあり、それにあたって大気がさわがしい。さむいのでじきに腕を組むような姿勢になった。胸のあたりをじぶんで抱いてすこしでもぬくみを確保するかたちだ。それでときどきまったく目をつぶりながら行く。小学校のほうから子どもたちの叫びが立つ。HA通りにあたって左折。風は変わらない。おれの毛根を痛めつけようとしているのか? 髪の毛を引っ張りぬこうというのか? という調子で前髪をみだしてくる。髪もそろそろ切りたい。天気はいい。ほそめた視界で対岸のほうをみやれば空に太陽はつつがなく、水色もたたえられ、雲は無目的に切り取られてなんのかたちにもならないフェルトのようなやつが前方にひとつふたつ浮いていた。厚みがすこしだけあり、その内が氷河風に青い。
 スーパーはきょうもごきげんな音楽。食い物を買う。店員ははじめてみる男性。この店のなかでは比較的若いほう。土偶みたいなからだつきと雰囲気。土偶といってもいろいろある。あの教科書に載っているいちばんゆうめいな、土偶ということばのイメージを一身にになっているあれがなんというのかわすれた、遮光型みたいななまえだった気がする。ちかくのカレー屋の関係ではないかとおもうが、インドかネパールかたぶんそのへん出身の外国人のひとが会計の操作に苦戦している。店員はこちらの品の読み込みのとちゅうで少々お待ちくださいと言って、かれを手伝いに行った。整理台には車椅子に低く沈み込むようになった老婆と、その連れ合いらしい老人。こちらが店を出るとき、なんとか言い合いをしていた。帰り道も風は変わらない。頭上をびゅんびゅん音をあげて吹く。公園の木の葉がバサバサやられる。スーパーのすぐ向かいから入る裏道を抜けて細い道路を渡ってはいったまたの裏で周囲をみれば、自転車はたおれている、二階の窓のそとにある柵から垂らされたよくわからない紐はぶらぶら揺れている、強風をみこして敷地の柵に紐でつながれたなにかの箱は転がっていくことは回避しつつも中身を散らばせている、おおきめの植木鉢がかたむきながらも底に接したブロックのおかげでたおれず耐えてもとの直立にもどる。公園では子どもたちがたくさん、だいたいはジャンパーを羽織ったすがただが半ズボンの子もまじえて元気にあそんでいた。折れるこちらは前方、北から来る風にたびたびさしとめられて、圧迫に身を前傾させながらのろのろ行く。アパートにたどりついて入り口をはいり、風の影響をのがれると、保育園のそとでむかえに来た母親といっしょにいる女の子が、飛ばされるー、飛ばされるーと言っていた。