2017/5/14, Sun.

 八時の目覚めの時には既に窓が白く、それから午前に掛けてもずっと平坦な曇り空が広がっていたが、二時頃から薄陽が洩れはじめ、空気が色付いてきた。三時に外出した時にも、西空に灰色を帯びた雲が押し出てはいるが、道の上には陽の色が淡く被さっている。端に散り敷かれた竹の葉は、まだ前日の湿り気を残していた。坂に入れば小鳥らの囀りがあちらこちらから、間断なく立ち、空間を縁取るようにして、時折り柔らかく降る鶯の音の背景を成している。そのなかを歩くあいだ、気怠いような足取りになった。街道に出ると正面から涼しい風が吹く。東では雲が乱雑に崩れており、搔き回されたようななかに冷えたような青さが垣間見えていた。裏路地を行き、空き地に掛かると、その白く褪せた淡青を後ろに、燕だろうか、鳥が何匹も素早く飛び交って、空中に黒い軌跡を描いて回る。それからまもなく、先を行った自転車が道の真ん中で一旦停まり、乗り手の女性が降りぬままに不審げな目を地に向けているその先に、何か落ちているのに気がついた。距離があって鈍い色の塊としか見えないが、大方、鳥らしい。死んでいるとも生きているとも、判断が付かない。女性は何度か振り返りながら去って行き、そのあと一台通った車は器用に道の端に寄って避け、続けて来た一台は左右のタイヤのあいだをくぐらせるようにして、どちらも鳥を傷つけることはなかった。傍に来てしゃがみこめば、鵯である。小鳥でなく成鳥の、間近でまじまじと見るとなかなか大きな体で、外から見える箇所に負傷らしきものは見当たらないが、飛べなくなったのか、俯いてじっと止まっている。死んではいないのだろうなと、薄青い羽毛に覆われた体の、顔のあたりに指の甲をそっと寄せ、触れさせてみると、途端に顔を上げてぴいぴいと、威嚇らしく、黄色く細長い嘴をひらいて、甲高い声で鳴き騒ぐのに、怯まされた。無体な車に轢かれないとも限らないので、せめて道の端にでも移動させたかったが、掴み取るわけにも行かず、下から掌に掬い上げることを思ってもうまく行く気がしなかったので、自ら動く気になるのを待つほかあるまいと立ち上がり、先の女性と同様に、後ろ髪を引かれながら立ち去ることとなった。
 図書館に行き、四時前から八時まで、窓際の学習席に居座って、自分の生活を記述に落としこみ、また梶井基次郎の文章を写しもした。それから黒々と密な宵空の下を、近間のドラッグストアに歩き、ビニール袋を提げて駅まで戻った。その行き帰り、路傍に設けられた茂みに躑躅の花がいっぱいに咲いており、朱を薄く混ぜた光の降るなかで、赤々と映えていた。腹の軽くなった身体に、風は涼しさが勝るようだった。最寄りで降りて一番後ろから歩いて行くと、両手に一つずつビニール袋を提げた老人が、先に階段に掛かって、足の悪いとまでは行かないがいくらか衰えているようで、一歩一歩を重い音でよく踏まえている。あいだに一つ挟まれたやや広い段の上では、また上りはじめる前に次段の前に足を揃えるようにしてから足を掛け、身体が横に揺れるらしく袋をがさがさと鳴らしながらゆっくり上がって行くその姿を後ろから見ていると、自分こそまだ三〇にも掛かっていない若造なのに、足から老いたような気になったか、慎重に測るような足取りになっていた。