五時に目が覚めたのはきっと瞑想をしたからだけれど、二度寝をした。三度寝もした。結局起きたのは十一時だったからなんにもならなかった。眠りすぎたからまだ眠かった。チキンソテーと味噌汁と生野菜を食べた。Yes『Yessongs』を流して昨日の日記を書いて、投稿して、もう四月も半分過ぎたと思った。トイレにいっていると足音がして母が帰ってきた。なんてあつい、と母はつぶやいた。バイトめんどくさいなあ、と思わず声に出た。今日髪やりにいこうかな、と母は言った。買ってきた団子をもらった。茶をついで部屋にもどって、今日も仕事の空き時間に図書館にいくつもりだったから、昨日借りたCD二枚の情報を記録した。終わるころに"Roundabout"が流れだして、やっぱりとんでもなく格好よかった。最後まで聞いてから、黒田夏子『abさんご』を読みはじめた。自然に音読していた。昨日より文章に入っていけるようになっていた。一晩寝るとチューニングが合った。ウルフ『波』のときもそうだった。柴崎友香『ビリジアン』のときもそうだった。
昨日と同じようなあわくて青い空だった。鳥が子どもみたいにひっきりなしに鳴いていた。うぐいすの声は他の鳥よりもふくらみがあってよく響いた。二月の雪が最後まで残っていた斜面がすみれ色の花でいっぱいになっていた。森のてっぺんはうすい色で空となじんだ。
教室を出ると六時だった。空は青みがうすれて白っぽくなって、空気に湿っぽさが生まれていた。電車から降りて、エスカレーターであがると、改札の前で盲人用の杖を左右にふりながら歩いている人がいた。よけようとしたらむこうもよけようとした。立ち止まった。すみません、といってこっちの横を通りすぎていった。斜視っぽい目だったけれど、見えているみたいだった。駅を出ると、空は全部、雨にけむっているみたいに白くて青かった。ペンキをこぼした染みみたいなものがあって、あれが雲なのか雲の切れ目なのかわからなかった。図書館で新着CDを見たら、DylanもブルーノートもJoni Mitchellも借りられていた。J.J. Cale『Naturally』とJacqueline du Pre & Daniel Barenboim『Beethoven: The Five Cello Sonatas』を借りた。上にあがって席に座って日記を下書きして、それから黒田夏子『abさんご』を読みはじめた。深海みたいに静かで、天井にあいたまるい穴からもれる光が白くて明るいから余計にそうだった。検索機がかすかなうなりをあげて、泡が生まれるみたいに小さな音があちこちで立った。だれかがゆっくり歩くと、魚が泳いで水が押しのけられるみたいに空気がたわんだ。教室にもどってまたはたらいてから帰った。夜空がかすんで月も星も消えて、山がぼやけていた。