地震があったような気がした。朝だったのか夜だったのか夢だったのかわからなかった。さめる前から雨が降っていた。車が風みたいに濡れた路面を走る音で目をあけた。目をあけても起きるまでに長い時間がかかった。起きたらガルシア=マルケスが死んでいた。Mさんがくれたうどんを煮込んで食べて、黒田夏子の記者クラブでの会見映像を飛ばしながら見た。司会者も質問をする記者たちももう少し小説を読んでほしかった。『族長の秋』を音読して、Kurt Rosenwinkel『The Remedy』を流して昨日の日記を書いた。三宅誰男『亜人』botをつくっていると、"View From Moscow"が流れはじめた。新宿のディスクユニオンジャズ館でこの曲が流れたことがあった。HとNさんがいたから、バンド練習の帰りだった。大学二年生の春か夏だった。いつも中野から総武線に乗りかえて代々木にいった。たまに新宿から歩くこともあった。モデルの写真がでかでかと写った高島屋のガラスのウィンドウの前をHとふたりで歩いた。ぺらぺらのやわなギターケースをしょって、黒くて長いエフェクターケースをさげていた。五月くらいでもう暑くて、半袖を着ていたけれど汗がふきだした。自分では気づいていなかったけれど体調が悪くなりはじめていたころだったから、陽射しにあてられてふらふらしていた。紀伊國屋をすぎてNTTドコモの高いビルの前をとおった。昼ごはんを食べたりフレッシュネスバーガーをはじめて食べたのはそのあたりの店だった。スタジオの帰りにときどき寄った。隣の広場でサラリーマンが煙草を吸っていた。向かいのすごく狭い歩道のむこうには線路があって、その先に無機質な灰色のビルが立ちならんで殺風景な街があった。代々木駅はすぐそこだった。北口の真ん前にサンクスがあった。踏み切りの手前に佐世保バーガーの店があったけれどいちども入らなかった。高架線路の下はうるさかった。抜けると代々木駅で、人の群れがいつだってざわざわと行き交っていた。
日記を書いてからまたうどんを食べて、風呂を洗った。リビングは暗かった。灰色にけむった外の空気が入りこんでいた。Lee Morgan『The Sidewinder』を流して、黒田夏子『abさんご』を読んだ。少し休むからといいにきた母の顔が赤かったから音楽のボリュームをさげた。表題作だけ読み終わった。陽炎か蜃気楼みたいにゆらゆらしている小説だった。そのあとのことは忘れてしまった。『族長の秋』を読んでから寝たことだけおぼえている。