2014/6/14, Sat.

 十時半まで寝坊した。何度も目をあけたけれどからだが起きあがらなかった。外は晴れで、空そのものが光っているようだった。あがると父がいて、休みだった。混ぜご飯とおつゆとキャベツ炒めを食べた。
 日記を書くと十一時半を過ぎた。それから柴崎友香『ショートカット』の書きぬきをした。やりながらMcCoy Tyner『Supertrios』をヘッドフォンで聞いた。八十年代の録音はプレイはともかく音があまりよくなくて、ピアノの音がてらてらしていた。十二時半過ぎまでかかって書きぬきを終わらせると、腰がつかれたからベッドに寝転がった。白とも灰色ともいえる雲が広がって、外は光がうすくなっていた。雨が降りそうな感じもあったから、上にあがって洗濯物を入れた。父は昼食をとっていた。オレンジ色の帽子のふちから出たこめかみあたりの髪が灰色に染まっていた。洗濯物をすべて入れてタオルやシーツをたたんでいると、電話が来て父が出た。母だった。いま洗濯物入れてたたんでると父は言った。まだこれから色々やるからむかえにはいけないからひとりで帰ってこいと言った。バリウム?とかも言っていた。母は今日健康診断だった。たたみ終わって風呂も洗って、部屋にもどって歯をみがいて着替えた。Twitterの落書きをひらいて、続きが思いつかないしもう飽きていたからボツにすることにした。落書きだから完成しなくてもよくて、未完で投稿サイトに投稿した。そうするともう一時半近くなっていたから急いで家を出た。
 歩きながら落書きのことを考えていたら続きを思いついてしまったから続きそうだった。駅でSUICAに千円チャージした。南西のほうが晴れているから陽が射していたけれど、そこまで暑くはなかった。乾いた空気で、風もあった。ホームに立っても汗をかかないと思ったら、いつも汗をかくのはスーツを着ているからだった。今日は半そでのシャツを着ていた。下はすそをまくれる少しゆったりしたボトムスで生地もうすめだった。
 SUICAにチャージするときにipodを忘れたことに気づいた。電車内でも音楽を聞けなかった。乗ると目の前の優先席に高校生くらいの女の子がいた。茶髪で、上はシャツで、下はなにかすそが広がったやつを履いていた。入り口の扉のほうを向くと、うしろから急にあ?とか聞こえたので何かと思ったら電話だった。ギャルというよりは不良みたいな口調とトーンで受け答えしていた。降りるときにこっちの横に並ぶと、背は低かった。
 乗りかえていちばん前の車両に行った。音楽がないから目をつぶっても眠くならなかった。それでも閉じてもたれたり、あけて空を見たりしていた。電車のなかから見える空は家に邪魔されて小さかった。南のほうは全体的に晴れているけれど、北は雲が多かった。雪のかたまりみたいで、影になっているところのうすい青も雪に光が当たったときの色と同じだった。あと少しで立川のところで男の人が乗って、正面の扉脇に陣取った。脚がすごく細くて、女性用じゃないかというくらい細いスキニージーンズを履いていた。だから女性のようにも見えた。胸はなかった。背はこっちと同じくらいだった。右腕に時計をつけていた。髪は黒くて短くて、マッシュルームカットのふちを切ったような感じだった。音楽を聞いていて、なにかぶつぶつ口を動かしていた。性的なアイデンティティが曖昧な人なのかもしれないという気がした。何より目についたのは濃紺のシャツで、鮮やかで、柄がなくても色だけの力があった。そういうシャツがほしくなった。
 立川は晴れていた。駅を出る前からなにかの演説が聞こえていた。年取ったおじさんが広場でスピーチをしていた。立川九条の会とあった。聞いている人は誰もいなくてみんなどんどん通りすぎていって、おじさんはぽつんとひとりでしゃべっていた。図書館のほうへ歩きだすと、おじさんの声がざわめきとなってうしろから響いていたけれど、すぐに聞こえなくなった。
 新着図書にはオクタビオ・パスの『太陽の石』があった。結構前から見かけていた。原文が併記してあるやつだった。『連邦区マドリード』もあったけれどもう地元で借りていた。上へあがってCDを返して、トイレに行ってからすぐに三枚決めた。新着にMiles Davis『Get Up With It』があったから一枚はそれにして、棚のほうのMilesも見ると『Nefertiti』があったからもう一枚はそれにした。SonyBlu-spec CD2とかいう再発シリーズで二千円くらいするやつだった。同じシリーズで『Pangaea』もたしかあった。『Agharta』のほうはあったかおぼえていない。最後の一枚はロックの棚を見て、Chuck E. Weiss『Extremely Cool』というのがなんとなく目についたからそれにした。Tom Waitsがフィーチャリングされていて、友だちらしかった。CDを借りて下へおりた。本も何か一冊借りようと思っていた。文学の棚を見て柄谷行人『批評とポストモダン』にした。もう一冊小説作品も借りたくなって、手を出したことがないほうにいこうと思って、アラブやアジアの文学を見たり、ロシアを見たりして、結局ボフミル・フラバル『あまりにも騒がしい孤独』にした。最近わりと名前を見る人だった。この本は松籟社の東欧の想像力シリーズの二巻目で、松籟社ムージル著作集を出しているから名前を知っていた。
 お腹が空いてきたから陽ざしが強くなったような気がした。歩廊の上は陽にさらされていた。ビルの二階にあるCD屋に入った。ジャズはJose Jamesの新譜と上原ひろみの新譜がプッシュされていた。再発盤がまた出たらしかった。押されているのは古いものか、いわゆるGlasper以降の人たちばかりだった。Joshua Redmanの新譜はまだだった。
 本屋にあがった。英和辞典がほしかった。講談社文芸文庫蓮實重彦夏目漱石論』と古井由吉の短篇集を手にとったけれど、財布にあまり金がなかった。おろしに行くことにして一度本屋を出た。エスカレーターをおりた横には服屋があった。Marvin Gayeが曲名にしたスラングと同じ名前の服屋は、昔はあかぬけきれない高校生とかが利用する印象で、だから高校のときの自分もあかぬけていなかったけれど、並べてある服を見ると最近はずいぶんおしゃれさを増したみたいだった。その横を通りぬけて外に出て、歩廊を歩いて道路の上の橋を渡って、カフェの横の急な階段をおりて下の道にあるコンビニに入った。二万円おろした。コンビニのなかを抜けて表へ出て、横断歩道を渡ると、高島屋の前で東京都水道局が水道水とミネラルウォーターの飲み比べイベントをやっていた。水滴をかたどったいわゆるゆるキャラの着ぐるみがいた。そこを過ぎて建物に入って、エスカレーターをあがって本屋にもどった。古井由吉は『木犀の日』という自薦短篇集と『雪の下の蟹/男たちの円居』の両方を買うことにした。それから辞典を見にいった。いろいろあるなかで、最初に目についたライトハウスというのとオーレックス英和辞典で迷ったけれど、結局オーレックスのほうにした。十万五千項目入っているらしい。値段は大きいやつはだいたいみんな三千円前後だった。洋書も見て、Hemingwayをなにか買おうかとも思ったけれどやめた。レジで購入すると全部で八千円弱だった。
 駅に戻って電車のいちばん前に乗ると、幼稚園児が小学校一年生くらいの子どもたちがたくさんいた。何人か男の人がいて、せんせー、せんせー、とあちこちから声があがって大人気だった。先生の気を引こうとする女の子の顔の角度や首のかしげかたや上目づかいがすでに女の子だった。もたれて目をつぶっても眠くならなかったから借りたばかりの柄谷行人を読んだ。地元の図書館の駅で降りた。
 CDに特に借りたいものはなかった。上にあがって新着図書にはみすず書房の『ペスト&コレラ』があって、これはどこかのブログで絶賛されていた。だけど借りなかった。蓮實重彦『随想』をエッセイの棚からとって、もう一冊は柴崎友香『わたしがいなかった街で』にした。柴崎友香の本のなかで装画がいちばん好みだった。直線と四角を組み合わせてたぶん街を描いているのだけれど、ラフでやや抽象的な線画だった。あと一冊を何にしようかと迷って、文芸だけでなく社会学を見たり民俗学を見たりしていたところで、読書会の課題書を思いだして、ムハマド・ユヌス『貧困のない世界を創る』という本を借りた。
 お腹が空きすぎてからだが重かったからハンバーガーショップに入った。エビバーガーとてりやきバーガーとシェーキを頼んだ。土曜日の五時半くらいだけれど人は少なかった。休日だからたぶんみんなもっと都市のほうに、それこそ立川とかに出てしまった。店内はジャズがかかっていて、モダンというよりはクラブ系のにおいもあるわりと新しめのクールでスタイリッシュな音で、途中で聞いたことのあるスタンダードが流れたけれど曲名はわからなかった。六時半前まで日記を下書きしてから帰った。外に出ると空がまだまだ明るくて驚いた。
 帰って夕食は取らなかったけれど唐揚げだけ食べたかったから食べて、蓮實重彦『随想』を読みはじめた。あとがきを先に見たら磯﨑憲一郎について書いているというから、「10 つつしみをわきまえたあつかましさ、あるいは言葉はいかにして言葉によって表象されるか」から読んだ。『終の住処』をかなり好意的に評価していた。風呂をはさんだあとははじめから読みはじめて、二編読んだところで十時くらいになった。それからVirginia Woolf "Kew Gardens"の翻訳を久しぶりにはじめた。日付が変わるころになってお腹が空いたから、カップラーメンを食べて、一度最後まで訳し終えた。あとは読みなおして推敲するだけだった。半分くらいまで読みかえして直すところは直していると二時になっていたからそこまでにした。