左の民家の向こうに併走している線路の脇には、芒が群生して、やや茶色混ざりの濁ったような白の花穂が、動物の尻尾めいて弱い風にゆらゆら振れながら、空間の只中に摩擦を仕込んでいる。そのさらに向こうに伸び立って林を作っている木々の仲間たちの、いくつかはもう、いつまでも緑一色の整然とまとまった制服には飽きたと言わんばかりに、自らその色を薄めて変質させ、彩りを帯びながらも落ち着いた成熟の風合いに佇んでいる。また少々進めば、今度は連なる緑のなかに一箇所、黄褐色がきらつくように湧きだし、差し挟まれる。色を変じた葉の水気と弾力を失って乾きの気配が視覚に触れるのが、 カラメルソースめいたその彩りも相まって、指で挟んで圧を掛ければ瞬時にぱらぱらとほどけ崩れて宙に散って行きそうな、飴細工めいた印象を眼裏に残すのだった。
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ホームに立てば、空は視線の届く果てまで水鏡めいて澄んだ淡青に浸って、陽射しも投げかけられる。駅内と外の駐車場との境を画す網状柵に絡まった濃緑の蔦植物が、葉のそこここに光を溜めているのが、白い花びらを咲かせているようでもあり、翅を広げて不思議に停止した虫を留まらせているようでもあった。風が流れれば、緑とともにその白さがふるふると、細かく身じろぎする。
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阿佐ヶ谷あたりでふと目を上げれば、窓の外を流れ行く屋根の上面が、液体を溜めたように光る。それでも背の低い屋根が消えて、ブロックのように並ぶ直方体の建物ばかりになると、それらのうちの電車のほうを向いた面は蔭に既に覆われて、側面がかろうじて陽を受けるくらい、その陽の行き過ぎの印象を欺くかのように、街並みの奥に広がる天穹は青く明るく、地平に近いあたりは薄雲が溶けているのかとも疑われるくらいに、光のために白く染まっていた。
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階段を上り下りしているあいだに吐く息が、明瞭に視認できるほどに白く濁る。口を上下に大きめにひらき、子どものようにしてはあはあと繰り返し呼気を吐きだしつつ、通りを渡って坂に入った。暗がりでは見えなくなるが、街灯の傘状の光の下に来れば、上向いた口から吐きだされた薄煙は、視界を一瞬霞ませて、すぐに頭を越えて後ろへと流れ過ぎて行く。