電車に乗って、座って行き過ぎる外の光景を眺めながら到着を待った。光の満ちた日で、役所の周りに停まったものなど、車の屋根の線上を輝きが次々と滑って行くなかで、人家やアパートの奥に覗いた黄土色のマンションの、手すりがついているのだろうか正面の壁に部屋部屋の並ぶ通路がひらいたその縁をも同じように光がまっすぐ横に走るのが、物珍しく映った。
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退館すると目の前がひどく眩しいのは、空から光が眼前に降りつけて幕のようになっているとともに、歩廊の路面にもそれが反射して、下からもやってくるからで、目の前がほとんど真っ白に染まるようでその圧力に目を細めて半ば視界を閉ざさずにはいられなかった。
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駅からエスカレーターで下の道に下りて行くと、陽に包まれたコンビニ前の広場には老人たちがベンチに座って日向ぼっこをしたり酒を飲んだりしており、正面の図書館のビルのガラスの上では、太陽の分身が鏡写しに嵌めこまれて輝きを伸縮させるのがまた目に強い。
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駅に戻って、ホームに立ち尽くした。ちょうど正面に太陽が浮かんでおり、見下ろせば線路のレール上に金属質な白さが固まって、温もりが上から降るだけでなく下からも湧くようで顔がどんどんと温まる。部屋内に浮かんでいる塵と見分けのつかないような虫が、明るさのなかを漂うのが浮かびあがっていた。
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新年も迎えて冬が深まり、木々の葉は落ちて林に隙間が生まれて見通しが良くなり、遠くの青空が覗いて、以前この坂を通った時の記憶よりも、空間が開放的になっていた。反対側の、沢を斜面下に流しているほうでは、常緑樹が茂って、しかしそれも老いて密度が薄くなっているようであり、葉々の網目の向こうに浮かんでいる太陽が、細かく分節されて緑葉の一枚一枚にいちいち宿っては艶の弱く鈍く光っているのが、何か抽象的な存在物の止まっているようでもあった。