坂道に入ると、右側の斜面からがさがさと音が立つ。木の間から見下ろすと、丸みを帯びた鳥が、下草のなかに佇んでいる。首を各方向に振るのをちょっと眺めたが、瞳と対象とのあいだに陽射しの明るみが立ち入って、そのせいで鳥の体色がうまく捉えられず、言語化されないうちに、相手は飛び立って行った。その後道を進むあいだも、午前八時の清涼に締まった静寂のなかで、ガードレールの向こうから草を震わせる音がよく立った。
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裏通りは冷え冷えとしており、市民会館の裏を通ると背の高めの建物の蔭が路上を覆って、足もだけとは二、三時間後を先取りしたかのように青く沈む。日向を恋しがって表に出ると、望み通り諸所の日蔭の合間に暖色が差し挟まれていて、そこに入ると膝頭に温もりが点って行きやすかった。太陽は水面に映って液体の起伏に巻きこまれた時とちょうど同じように、空の表面に浮かんで自ずと伸縮を繰り返している。
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坂を下りて抜けると、太陽が針のように身のあちこちを鋭く伸ばしているが、林の葉々に宿ったそれは穴を開けずに表面に溜まるのみである。