2017/7/26, Wed.

 早朝に覚めた時から、雨が降っていた。窓辺に留まっているうちに勢い良く盛りはじめて雨音が膨張し、厚い響きの隅まで充満した猛雨となった。家を発つ頃になっても降りは衰えず、道に一面水が張って水溜まりから足を逃す余地もないほどの大雨で、歩き出せば即座に傘の端から大きな粒がぼたぼた垂れて脚に冷たい。激しく叩きつける音に耳が聾され、車が後ろから近づいて来ていてもそれすら聞こえないだろうと思われた。スラックスの裾も靴のなかも濡らしながら坂に入ると、端に設けられた溝を白く泡立った水が猛って下り、それに流され集められたのだろう、下水路の蓋の付近に落葉が積み重なって堰のようになっていたが、水流はそれも安々と乗り越えてひたすらに走っていた。
 勤務を済ませたあとは雨はほとんど消えて、湿り気の取れていない靴で図書館へ、谷崎潤一郎全集を借りたあとはスーパーに寄った。出ると、歩廊の上に暖気が漂いはじめている。ビニール袋を提げながら駅のホームに突っ立っているあいだ、風は吹かず、線路の雑草も一振りも揺らがずに静かに緑を這わせている。白い曇天に浮かんだ雲は微妙な色差の薄灰色で、視線を止めなければ見過ごしてしまうくらいの軽い染みだが、やはり雨後の風が大してないのだろう、ゆったりとした様子で横に滑って行く。最寄りで降りて行きと同じ坂を下ると、雨が去ったあとに蝉の音が強く、赤ん坊の発する奇声を思わせるような聞き慣れない声の鳥がたびたび叫びを上げていた。
 夜は風呂から出たあと、本を読みながら微睡むと、久方ぶりで肌寒いような涼しさが身に触れた。それで窓を閉めてから書き物に掛かって、仕舞えた頃には次の日に踏み入っていた。