2018/10/10, Wed.

工藤庸子編訳『ボヴァリー夫人の手紙』筑摩書房、一九八六年

 (……)というわけで、ひとつの場面[﹅6]を書くのに、なんと七月末から十一月末までかけることになります! それもやって面白いならいいんですが! しかしこの小説は、どんなにうまく書けたところで、決してぼくの気に入ら(end291)ないでしょう。全体像がはっきりと見えてきた今となっても、嫌悪をおぼえるのみ。(……)
 (291~292; ルイーズ・コレ宛〔クロワッセ、一八五三年十月二十五日〕火曜夕 午前零時)

     *

 (……)ぼくが親近感を抱くのは、非行動的な人間、禁欲的な者、夢想家です。――洋服を着る、脱ぐ、食べる、なんてことにもうんざりです。大麻をやるのが怖くさえなければ、パンのかわりにこれをつめこんで、かりにあと三十年生きなければならないとしたら、その間ずっと、仰向けになって、だらりとしたまま薪みたいにころがって過しますよ。
 (298; ルイーズ・コレ宛〔クロワッセ、一八五三年十二月十四日〕水曜夜 二時)

     *

 (……)一冊の書物にあっては、すべてが似ていながらじつはひとつひとつ違っている森の木の葉のように、文章という文章が、立ちさわいでいなければなりません。
 (314; ルイーズ・コレ宛〔クロワッセ、一八五四年四月七日〕金曜夕 午前零時)



  • 気分優れず。ずっと眠り続けていたいような倦怠感、疲労感。それに従って、三時半頃から床に寝そべり、部屋も真っ暗に浸された七時まで眠った。
  • Miles Davis, Vol.1』。最終曲、"It Never Entered My Mind"が佳演のよう。
  • フローベール/山田𣝣訳『ボヴァリー夫人』。「肱をつく」の主題。●19: シャルル、学生時代、ルーアンにて。「晴れわたった夏の夕べ、生暖かい街路には人通りもなく、女中たちが家の戸口で羽根つきをして遊ぶころおい、彼はよく窓をあけて肱をついた」。●23: 「男は(……)布切れに包んだ手紙を取り出して、うやうやしくシャルルに手渡した。シャルルは枕に肱をついて読んだ」。●54: 「往診に出かけるのを見送りにエンマは窓べに寄る。そして部屋着をふわりとまとったまま、窓敷居の、ジェラニウムの鉢を二つ置いたあいだに肱をついた」。●85: ヴォビエサール荘で。「エンマはショールを肩にかけ、窓を開いて肱をついた」。●103: 「エンマは榛[はしばみ]の実をかじったり、食卓に肱をついて、手もちぶさたなままに、ナイフの先で蠟びきのテーブル掛けの上に筋をつけたりした」。●153: 「トランプの勝負がつくと、こんどは薬剤師と医者がドミノをやる番だった。エンマは席を替え、テーブルに肱をついて、『イリュストラシオン』を拾い読みした」。●197: 「[エンマには]しばしば脳貧血が起こった。ある日などは血を吐いた。(……)シャルルは診察室へ逃げ込むと、事務椅子に腰をおろし、机に両肱をついて、骨相学用の髑髏の下で泣いた」。●199: 「エンマは二階の居間の窓べに肱を突き(彼女の好みの席だった。田舎では窓が劇場や散歩道の代用になる)、田舎者のごった返しをおもしろそうにながめていた」。
  • 床に就いてからとんと眠気が差してこず、寝付くまでに虫の声の響くなかで一時間以上起きていた。一時は眠りに苦労がなくなったようだったのだが、最近また寝付きにくくなっているような気がする。