2019/7/19, Fri.

 わたしはわたしの水っぽい論理の力で
 雲やフィルムや卵について説明できないが
 それでもわたしたちの弱さを理解していた
 わたしはそれをどうしても詩に書こうと思い
 時間の経過を忘れ よろこばしさを忘れ
 恋の恨みのように心のしこりを保ちつづけた
 あなたもわたしも何一つ産み出していないこと
 いつも強い者の影や活字や貨幣におびえて
 口を手足を心を動かしているにすぎないこと
 だがそれを詩に書こうと思い立つと
 たちまち内側が曇り始めるのだった
 詩とは強さの証明の一形式だから
 だれだって自分が弱いとは言えないのだ
 (『岩田宏詩集成』書肆山田、二〇一四年、220~221; 「のぞみをすてろ」; 『頭脳の戦争』)

     *

 団結しろ万国のまよなかの白痴ども
 きみらのことは誰も詩に書かない
 なぜかというときみらが詩だからだ
 詩なんてものには詩でないことが書いてあるのだ
 (224; 「のぞみをすてろ」; 『頭脳の戦争』)

     *

 こぎれいな詩の一つも書いたら
 夜が明けぬうちに死にゃよかったのだ
 あくるあさの味噌汁が濃くも薄くも
 おれたちの知ったことかい
 (240~241; 「毒ある世界で」; 『グアンタナモ』)

     *

 声が叫んだ「はじめに母ありき!」
 かあさん! わたしは写真を裂きます
 声が歌った「めらんこりい……」と
 ピックアップ! わたしはレコードを割る
 声が笑った「さよなら キスして」
 焼きます あなたの手紙 いとしいあなたも
 声が語った「生きるために死ぬこと」と
 時計! わたしは倒れる 倒れてつぶやく
 (267~268; 「自家中毒」; 「その他」)


 一一時まで寝坊。しかし寝坊と言っても、三時半からで考えると七時間半ほどの睡眠だから、むしろ適正の範囲ではないか。母親からメールが入っていた。外の傘とアイロンを見てくれと言う。メールを確認するとふたたび寝床に戻り、二度寝に陥るのは避けられたがしばらくぐずぐずする。空は雲が大量に湧いて量感豊かに盛り上がっている。広く空を埋めているが、合間に青さも見えて、陽射しもベッドの端に落ちている。一一時一五分か二〇分かそこらになってようやく起き上がった。そうして上階へ。アイロンはスイッチがきちんと切られてあった。便所に行って放尿してから、サンダルを突っ掛けて玄関を抜け、外の柵に掛けて干してあった黒傘を仕舞う。そうして室内に戻り、鮭があると書き置きにあったので冷蔵庫からそれを取り出し、四つの塊に分けられたうちの一つを皿に取り出して、電子レンジで加熱。米もよそって、たった二品の簡素な食事を卓に運んだ。新聞一面は、当然、京都アニメーションの放火事件がセンセーショナルに、見出しが黒い帯の地に白抜きの文字で扱われている。死者は三三人とのこと。なかに性別不明の人が一人混ざっているというのが、火勢の激しさを物語るようだ。被害者の恐怖、恐慌の様子も語られていた。犯人は埼玉居住の四一歳の男。京都アニメーションに何らかの恨みを持っていたらしい。「パクりやがって」とか発言していたらしい。その彼も火に巻かれたようで火傷を負い、重体だと言う。
 食事を終えると抗鬱剤を飲み、食器を洗って風呂場に行った。アニメ好きのKくんなどは衝撃を受けているだろうなと考えながら風呂桶を擦った。アニメ好きの人々の怒りと悲嘆は並々ならぬものがあるだろう。テロリズム的な観点から見ても大きな事件だ。人間という存在が、こういうことが出来るのだということ、人間存在の悪辣さと言うか、黒々としたものを改めて感じさせる。仮に本当に盗作されたのだとしても、こうした事件を起こすまでの巨大な憎悪を募らせることが出来るのだということ、その激しさにはやはりぞっとするようなものを感じる。何が犯人をそこまで駆り立てたのだろう?
 風呂を洗い終えると下階へ。コンピューターを点け、Evernoteをひらき、前日の記事の記録を付けると、FISHMANS『Oh! Mountain』とともに日記を綴りはじめたのが一二時一〇分。それから四五分ほど経って、現在一時直前。
 前日の記事をインターネットに投稿。noteにアクセスすると、前日、初めて記事を有料設定してみたのだが、それが早速売れていたので驚いた。有料設定と言っても僅か一〇〇円であるし、加えて読める範囲を一番下までに設定して、要するに全文無料で読めるけれど気に入ったら一〇〇円を寄付してくださいといういわゆる「投げ銭」システムを導入してみたわけなのだが、まさか早速投げ銭してくれる人が現れるとは思わなかった。感謝と言うほかはない。それで今日も全篇公開、ただし一〇〇円を払いたければ払えるという設定にして投稿し、それから『曽根ヨシ詩集』の書抜きを始めた。三〇分ほど書き抜くと、ベッドに移って読書、ヤン=ヴェルナー・ミュラー/板橋拓己訳『ポピュリズムとは何か』だが、早々に眠気にやられて落ちる。一時間半くらいは微睡み、あるいは眠らなくとも目を瞑っている時間が続いたようだ。三時四〇分になってようやく意識をはっきりさせ、四時まで本を読み進めたあと、上階に行った。まずベランダの洗濯物を室内に取り込んでおき、それから冷蔵庫からジャガイモ――小さな種類のやつが丸のまま蒸されたもの――を取り出して、いくつか別の盛り皿に取り分けて、電子レンジで加熱した。そのほか白米とゆで卵である。卓に就き、新聞を読みながらそれらを食すと、食器を洗ってから洗濯物を畳みはじめた。タオルや肌着の類を畳んで、タオル類は洗面所に運んでおき、そうして下階へ。歯磨き。それから着替えようということで、その前に上階に上がって制汗剤ボディ・シートで肌を拭った。拭ったのだが、自室に戻ってコンピューターの前に就くとそれだけで汗が湧く蒸し暑さで、今こうして打鍵していても肌がべたついてきている。Bill Evans Trio『The Complete Village Vanguard Recordings, 1961』(Disc 2)を流して「記憶」記事を一〇分少々音読したのち、着替えようかと思ったのだが、ワイシャツを着ると酷く暑そうだったので、先に日記を書くことにした。ここまで綴って五時直前。今日は電車で行く。雨のなか歩くのが面倒臭い。先ほどから雨が降り出して、一時は土砂降りと言うか、天の女神の号泣のような甚だ激しい降りになったのだが、今少々和らいだようだ。
 仕事着に着替えて、と言うかワイシャツを着用して、スラックスにも履き替えた。非常に暑い。クラッチバッグに携帯やら財布やらを突っ込んで、上階へ。便所で用を足してから出発。雨はまた激しく降りしきっている。黒傘をひらいて一旦外に出て、階段を下りてポストまで行くと、夕刊と電気料金の領収書を持って戻ってきた。それを玄関内の台に置いておき、出発。雨が激しく傘の上を打ちつける。クラッチバッグが濡れないように身に引き寄せて抱えながら西へ行く。坂の入口、脇の溝には素早い水流が出来ており、途中で落葉が溜まって垣を成していた。坂道を上っていき、横断歩道に出る頃には、早くも雨はほとんど止んでいた。傘を傾けながら通りを渡ると、楓の枝葉が激しい雨に打ちつけられて水を含み、重く垂れ下がってこちらの頭のあたりにまで下りてきていた。葉を傘の天辺に擦りながら通り抜け、階段通路に入って傘を閉ざした。ホームへ。屋根の下で手帳を取り出し、電車が来るまでのあいだ知識を復習する。非常に蒸し暑く、坂を上って来たあとだと立っているだけで汗だくになり、捲った袖から伸びる腕の肌が全面水気に覆われてべたべたとする。
 じきに電車がやって来たので乗車。扉際で手帳を眺めながら到着を待ち、青梅に着くとホームを歩いて通路を渡り、改札を抜けると職場に行った。入ると、今日も前日と同じく室長の姿は見えず、(……)さんが室長代理としてデスクに就いていた。今日の相手は(……)さん(高一・英語)、(……)くん(中三・社会)、(……)くん(中三・英語)。授業準備は大方社会の予習に費やされた。そうして授業。まあ概ね問題はない。リスニングが出来なかったのだが、これは授業後に(……)さんに操作方法と言うか、表示の方法を教えてもらったので次回は多分行けると思う。(……)さんが英語が苦手で、三単現の理解すらも危ういくらいなのだが、今日は受動態を扱った。一つ一つ、事柄を丁寧に分解しながら解説し、誘導して問題を解かせたので、わりと理解は深まったのではないか。
 今日はこの一時限のみ。終わると入口付近に行って生徒の出迎え、見送りを行い、片付けたあとに久しぶりに(……)さんにチェックをしてもらった。とは言え、先にも述べたように大きな問題はない。(……)くんが教材をすべて忘れたくらいである。チェックをしてもらったあとはロッカーから荷物を取り出して退勤。職場を出て駅に向かった。改札を抜けてホームに上ると、また今日も二八〇ミリリットルのコカ・コーラを買ってしまった。ベンチに就いて手帳を取り出しながらそれを飲み、飲み干すと荷物はそのままに席を一旦立って自販機横のダストボックスに捨てる。戻ると、こちらの隣席には坊主頭の野暮ったい格好をした男性が就いていた。その人が、こちらが手帳を読んでいる横で、急に呼吸を、音を立ててやや激しく繰り返しはじめた。どうもあれはヨガの「火の呼吸」の真似事をしていたのではないか。スマートフォンを弄ったり、本を読んだりすることもなく、手を身体の前で組んで、背筋を伸ばしていたので、瞑想じみたことをやっていたのではないかと思う。
 じきに電車が来たので乗り、三人掛けに就いて引き続き手帳を繰る。発車は遅れていた。立川方面から向かいの番線にやって来る電車が一〇分ほど遅れていたので、その電車からの乗り換えを待つ奥多摩行きも必然的に発車が遅れるのだった。最近、青梅線及び中央線はどうもやたらと遅れていないだろうか? まあ別にこちらは手帳を読む時間がそれだけ増えるわけなので良いのだが。発車してしばらく揺られ、最寄り駅で降りると、植物から発されるような匂いがした。ホームを歩いていると先ほどの坊主頭の人がこちらを抜かしていく。彼の後ろに就いて階段を上り下りし、駅を出て横断歩道を渡ると、木の間の坂道に入ってもその姿が前にある。近所に住んでいる人らしい。ゆるゆる坂を下りていくと、相手はさらにもう一本、電灯もなくて暗々としている坂を下って行った。こちらは東へ折れて、帰路を辿り、帰宅。雨はもう降っていなかった。
 なかに入り、小さな声で母親にただいまと挨拶して、ワイシャツを脱いで洗面所の籠に入れる。そうして自室へ帰る。スラックスを脱ぎながらコンピューターを点け、Skypeにログインすると、Yさんから、明日寝坊しないようにねとのメッセージが届いていた。わりとマジで起きられない可能性はある。一応九時にアラームが鳴るように設定したが、果たしてベッドに戻る欲求に打ち勝てるか否か。メッセージは一旦放っておき、ハーフ・パンツ、と言うかあれはステテコ・パンツか、それを履いて上階へ。食事。先日作った天麩羅の、冷凍されていた残りと、米と、胡瓜やトマトのサラダにオクラ。そのほか、お吸い物を利用した卵や菜っ葉の味噌汁。テレビはニュースだったか。天気予報を流していた。食べ終わる頃に九時に掛かって、京都アニメーション放火事件の報が流れはじめた。こちらは薬を飲み、食器を洗うと、ソファに座ってちょっとニュースを眺めた。犯人はアパートの周辺住民とたびたびトラブルを起こしていたらしく、騒音を注意しようとした隣人が、胸ぐらを掴まれ、髪を引っ張られて、「殺すぞ」と凄まれたと語っていた。「殺すぞ」「こっちには余裕がねえんだ」「もう失うものはないんだからよ」などと一方的に捲し立て、それが一〇分くらい続いて会話にはならなかったと言う。精神的に常軌を逸したタイプの人間だったのだろうか。動機については「小説のストーリーを盗まれた」と漏らしていたらしいが、これも妄想の類なのだろうか?
 そうして下階へ。YさんとSkypeでやりとり。その後、「記憶」記事を音読しはじめたが――『古事記』の序盤のストーリーの略述――まもなく母親が風呂から出たらしく天井が鳴ったので上へ。入浴。髭とともに顔の産毛を剃った。そうして出てくると、パンツ一丁で居間に出る。母親が、ゼリーを食べようかと言うので半分ずつ分け合って食べることに。アロエの入った白いヨーグルト・ゼリーの類である。スプーンを二つと、そのゼリーを持ってソファに就いている母親に近寄り、皿に半分を取り分けてもらい、半分が残った容器を貰って立ったまま食べた。容器を洗ってゴミ箱に捨てておくと、下階へ。Nさんからもメッセージが届いていたので、楽しみにしていますと返信し、一〇時から日記を書きはじめた。ここまで書いて三〇分。BGMはBlue Note All-Stars『Our Point Of View』。
 それからインターネット記事。星浩「志半ばで逝った「外交」の小渕首相 平成政治の興亡 私が見た権力者たち(10)」(https://webronza.asahi.com/politics/articles/2019021400005.html)と、結城剛志「「最賃上げ」4つの誤解。最低賃金を上げても物価は上がらない。<ゼロから始める経済学・第5回>」(https://hbol.jp/190293)。金大中が開放するまで、韓国では日本の映画や歌謡曲が禁止されていたということを初めて知った。浅学である。五〇分ほど掛けて読んだのち、ベッドに移って書見。ヤン=ヴェルナー・ミュラー/板橋拓己訳『ポピュリズムとは何か』。時折りメモを取りながら、二時間二〇分のあいだ読み続ける。メインの論旨からは外れる傍系的な部分だが、選挙は常に貴族政的な要素を含むという学説が紹介されていて、それは確かにそうだなと思った。もし我々があらゆる市民は平等であると本当に信じているのなら、古代ギリシャと同様に公職を選ぶのに選挙ではなくて、くじ引きによる抽選を採用しているはずだと言うのだ。また、ポピュリストは、全ての個々人と繋がっているという感覚を与えなければならないという分析も。従って、彼らは「人民に近いこと」をアピールする。そのために、例えばハンガリーのヴィクトル・オルバーンは毎週金曜日にラジオのインタビューを受けているし、ベネズエラウゴ・チャベスは「こんにちは大統領」というテレビ・ショーの司会を務めていた。仲介者抜きで人民と一体化しているということを彼らは演出するわけで、ポピュリストの大方がメディア批判をするのもその観点から理解出来る。言うまでもないが、メディアとはまさしく仲介者そのものである。彼らの主張するところでは政治的現実を歪めて伝えるそうした媒介者の排除を表す概念として、ナディア・ウルビナーティという人が「直接代表」という言葉を案出しているらしい。
 二時に至る前に読書を切り上げ、洗面所に行って水を二杯飲んだあと、明かりを消して薄布団の内に潜り込んだ。上半身は裸で、パンツ一丁のままだった。暑く、寝苦しい夜で、布団の下の肌が汗を帯びるのですぐに接触面積を減らして、脚や腕を布団の下から出し、腹のあたりに掛けるのみにした。眠りはなかなかやって来なかったが、一時間ほど経った頃には一応、微睡みの世界に入れたようだった。


・作文
 12:10 - 12:54 = 44分
 16:51 - 16:59 = 8分
 21:59 - 22:31 = 32分
 計: 1時間24分

・読書
 13:10 - 13:39 = 29分
 13:44 - 15:58 = (1時間半引いて)44分
 16:30 - 16:42 = 12分
 21:19 - 21:25 = 6分
 22:32 - 23:19 = 47分
 23:33 - 25:53 = 2時間20分
 計: 4時間38分

・睡眠
 3:30 - 11:00 = 7時間30分

・音楽