2020/3/25, Wed.

 それでも、「戦争行為の野蛮化」がもっとも極端に現れたのは、東方の絶滅大戦争においてだった。そうなったのには多くの要因が結びついている。第一に、国防軍は大々的に殺人を認める犯罪的な命令を受けて戦闘に送られた。そこに東欧人は原始的で危険だという広く受け入れられていた思い込みと、ナチ政権に植えつけられたイデオロギー、そして人種主義の否定的な固定観念を裏打ちするような経験(とくに、極貧の小村に住む東欧ユダヤ人を見るなど)とが結びついた。さらに東部の戦況の厳しさが加わる。延々と続く激戦、赤軍の猛烈な抵抗、パルチザン部隊による抵抗。疲弊した部隊の多くは何百キロもの行軍を余儀なくされ(国防軍は完全に自動車化されてはいなかったため、兵たちは徒歩で移動し、荷物は通常馬で運んだ)、しばしば病気、飢え、そして冬季は厳寒に悩まされた。
 一九三九年と四〇年の電撃的な勝利とは異なり、東部戦線での戦闘は果てしなく続いた。国防軍の部隊はほとんど休息も取れないまま、莫大な数の死傷者を出している。ロシアの大草原地帯でドイツ兵の前に広がっているのは、ナチの幻想と悪夢のような現実が陰惨に結びついた、いつ終わるとも知れぬ戦闘だった。
 こういったことはすべてドイツ兵の姿勢に影響を与えている。彼らは反ユダヤの人種主義的な考えを容易に受け入れ反復するようになった。ある伍長は一九四一年七月に、「敵は本物の兵士ではなく、ゲリラや殺し屋なのだ」と断言し、ロシア人を「人間ではなく、この二〇年間にボルシェヴィズムによって繁殖した野生の群れ、野生の獣」とみなし、「それがユダヤ人政権がロシアで行ったことの結果なのだ」と理解している。また、あるドイツ人下士官は一九四二年八月に、「この災いからわれわれは世界を解放しなければいけないし、解放するだろう。そのためにドイツ兵は東部戦線を守っているのだ」と述べている。
 ドイツ兵は自分たちが「大義のために戦っている」と信じ、ある兵卒が述べているように、「このような大戦争はいまだかつて行われたことがない。人間がこれまで経験してきたなかで最大の魂の戦いであり、西欧の人間の存亡を決する戦いであり、人々が意識して守るべきもっとも価値あるもののために遂行される戦いなのだ」と信じていた。もちろん、すべてのドイツ兵がそう信じていたわけではないし、そういったことをつねに意識していたわけでもない。多くの兵は仲間による、あるいはドイツの名のもとに繰り返される残虐行為に深い懸念を抱いていた。しかしこのような供述からは、ドイツ占領地域におけるドイツ軍の指揮の記録にしてもそうだが、ナチズムがどれほど人々の心を強くとらえていたかが窺える。
 (リチャード・ベッセル/大山晶訳『ナチスの戦争 1918-1949 民族と人種の戦い』中公新書、二〇一五年、171~172)



  • 浄化的な午後の陽射しを敷かれた公営住宅前の道路で、子供たちがスケートボードを使って遊んでいた。女児が一人、足の下で板を細かく左右に傾けて、匍匐する蛇のようにくねくねとした動きを生みながら素早く滑っていく。天気は文句をつけようのない快晴――大気が肌とのあいだに何の障害要素も挟まずに肉体をあまねく紳士的に包容し、皮膚の隙間から無媒介的に吸収されて細胞へ滑らかに染み通っていく。歩きながら身体をちょっと動かし、あるいは呼吸をしていれば、それだけでもう気持ちが良くなるような安閑とした春の陽気だった。
  • 最寄り駅のホームに立って線路を前にすると、眼下に一段下がったその敷地の、レールを挟んで向こうの端を縁取るように、丈短く新鮮で柔らかそうな春草に覆われた地帯があるのだが、その上で蝶が何匹かひらひらと舞い遊んで、淡緑のなかに浮かぶ翅のささやかな白さが、まるで結晶化した光の微細片のそよ風に戯れる姿のようだった。
  • 二コマの労働だったはずだが、詳細はもはや覚えていない。
  • 帰路は電車に乗らず徒歩を取った。道中、似非コンビニと言うか、ローカルな商店の脇に並ぶ自販機に立ち寄ったが、以前はそこで売られていたCANADA DRYのジンジャーエールが姿を消していた。仕方がないので代わりにコーラの缶を買って帰る。
  • 読書に対する意欲と熱情が確実に高まっている。文章を読むということ、言語を脳内に取りこむということがまったく面白く、がつがつと健啖に、大食的に読み耽っている。ここ一〇日間で既に四冊も読んだから、相当に速いペースだと言って良いだろう。今日もプリーモ・レーヴィ/竹山博英訳『周期律――元素追想』を読了し、岩波新書熊野純彦『西洋哲学史 古代から中世へ』を読みだして、新書なので読みやすいとは言え一気に一七〇頁も進めたのだから大したものだ。加えて、「記憶」記事の音読もかなり頑張っている。この調子で着実に邁進を続けたい。


・作文
 27:05 - 27:10 = 5分(8日)
 27:29 - 27:50 = 21分(15日)
 計: 26分

・読書
 11:33 - 11:49 = 16分(「英語」)
 11:49 - 12:13 = 24分(「記憶」)
 12:14 - 13:30 = 1時間16分(レーヴィ)
 13:50 - 14:04 = 14分(「記憶」)
 19:03 - 19:14 = 11分(レーヴィ)
 19:27 - 20:05 = 38分(熊野)
 20:40 - 21:05 = 25分(熊野)
 21:13 - 22:11 = 58分(「記憶」)
 23:04 - 23:34 = 30分(「記憶」)
 23:35 - 25:29 = 1時間54分(熊野)
 27:54 - 28:54 = 1時間(熊野)
 計: 7時間46分

・睡眠
 4:40 - 10:45 = 6時間5分

・音楽

  • Various Artists『Hellhound On My Trail: Songs Of Robert Johnson』
  • 中村佳穂『AINOU』
  • The Three Deuces『Keep On It』
  • Fred Hersch『Open Book』
  • Free『Free Live』