2021/5/7, Fri.

 (……)このように分析することは、「意味する」という動詞の語源を説明しているにすぎないのだろう。すなわち、ひとつの記号を作りだすこと、(だれかに)合図をすること、想像のなかで自分を自分自身の記号に還元すること、自分を記号に昇華することである。
 (石川美子訳『ロラン・バルトによるロラン・バルト』(みすず書房、二〇一八年)、252; 「意味作用には三つのものが(Dans la signification, trois choses)」)



  • 一一時前の離床に成功する。昨晩はやたら夜ふかししてしまったのだが、なぜかかえってややはやめの離床となった。瞑想はせず、水場にいってそのまま上階へ。母親は医者にいってくると。寝床のなかで事前に電話をかけているのをきいていた。(……)。こちらの食事は前夜のチキンのトマトソース煮のあまりと米。食事中に母親は出発。新聞一面から、緊急事態宣言が今月末まで延長されるみとおしで今夜正式決定とか、国民投票法改正案が今国会で成立するよう合意されたとかの記事をみた。CM規制などの問題は付則で成立後三年以内に検討し必要な処置をとる、と明記する条件で立憲民主党が今国会での成立に承諾したと。あと、社会面に、東京都の発熱相談センターへの電話がふえているとの情報も。一月ごろに第三波として感染が拡大したときにちかい水準まであがってきているとのこと。ゴールデンウィークで検査数が減っていることもあって感染者数はかならずしもそれにともなってはいないものの、これからまた拡大するおそれもあると。
  • 食器や風呂をあらうと帰室。もともと労働のつもりでいたところにとつぜん休みが降ってきたので気が抜けたのか、五時半ごろまでほぼベッド上でひたすらにだらだらしてしまった。コンピューターをもちこんでいろいろウェブをみていただけ。天気は起きた時点でよどんだ灰青色にくもっていたし、いつか雨も降ってきた。
  • 母親はでかけてからわりとすぐにかえってきて、話をききにいくと、発熱もないしその他嗅覚や味覚などのめだった症状もないし、たぶん通常の風邪だろうから、いまの時点ではPCR検査をする必要はないとおもう、もちろん不安なら受けることはできるが――仕事にかんしては、土日休んで様子をみてみて、それで体調が問題なさそうだったら来週からはたらきはじめてよいとおもう、という診断をくだされたらしい。まあ、大方そうなるだろうとはおもっていた。(……)
  • 五時半ごろ、上階へ。天麩羅を昼間にやったらしく、父親は今日も山梨に泊まってくるらしいので、あとはうどんでもあとでゆでればよかろうということだった。それでアイロンかけ。雨が降っている。窓外の色は淡い青さをはらみながらもひかりなくいろどりもなく、比較的こまかいようでしずかな雨がしとしとと宙をうめて地や草をぬらしている。シャツや母親のカットソーなどを処理しておき、食事はやることがすくないから母親にまかせることにして、うどんをゆでるとしてもあとでよかろうというわけで、室にかえった。六時。からだの感覚がぶれていたので、音楽をききつつやすむことに。Aretha Franklin『Aretha Live At Fillmore West』をなんとなくえらんだ。ヘッドフォンをつけて、ベッドであおむけに。Aretha Franklinをきちんときいたことは実はない。冒頭、"Respect"からして、ベースのいきおいがすごい。この一六ビートのはやさというか、ながれ方はすごいなとおもった。バックをやっているのはKing Curtisのバンドで、Chuck Raineyかとおもうようなベースのプレイだが、そうではなく、Jerry Jemmott。ドラムはBernard Purdie。オルガンBilly PrestonでギターCornell Dupreeとすごい連中だが、"Respect"をちょっときいたのみではやくも意識があやうくなって、そのあとしばらくおぼえていない。頭がはっきりしたのは、#7 "Dr. Feelgood"あたりだったはず。そのつぎの"Spirit In The Dark"はたぶん有名なはずで、ききおぼえがある気がする。Aretha Franklinってとにかく声がめちゃくちゃでているなという印象。もう単純にでまくっている。"Spirit In The Dark"の後半ではやいテンポになったところの演奏もすごかった。そのあとRay CharlesがくわわってReprise版というのもやっており、その途中で切りとした。おわりのほうはおきあがって柔軟も少々やっていた。
  • すでに七時ごろだったはずだが、だらだらしているあいだに昨日コンビニでかったドーナツを食っていたため腹が減っていなかったので、トイレにいってきてから音読をすることに。最近音読をそんなにやっていないのだが、やはり多少なりとも声をださないとなんだかすっきりしないというか、そんなかんじがある。昨日の労働もあまりうまくしゃべれなかったり、しゃべり以外でもうまくまわせなかったりしたし。それで音楽をバックに「英語」記事をよむ。Aretha FranklinのつぎはRichie Kotzen『Break It All Down』をながした。よみながら、手首をまげてのばしたり、ダンベルをもったりする。137から176までよんで、八時にたっしたので夕食へ。
  • うどんを鍋のスープにいれて煮込み、ほかはサラダや天麩羅を少々。夕刊には松岡和子訳のシェイクスピアが完結したとあった。ちくま文庫のやつだろう。一九九六年から二五年間、とりくんでいたらしい。もともとシェイクスピアなどむずかしいから翻訳するつもりはなかったが、舞台用に『夏の夜の夢』を訳す仕事をやったところ、蜷川幸雄がそれに目をつけて『ハムレット』を依頼し、以来、彼が一連のシェイクスピアシリーズを上演していたので、それにあわせて訳すことになったと。先行訳とちがってたとえばジュリエットがロミオに敬語をつかわず対等によびかけていたり、女優の口からはっせられたことばを女性がきいて腑に落ちるようにめざしたとのこと。ほか、朝刊の国際面を少々。香港で黄之鋒など三人か四人が実刑判決。昨年六月に無許可の天安門事件追悼集会に参加した廉。公安条例違反との由。黄之鋒は一〇か月の禁錮で、ほか二人だか三人は区議会議員だというが、四~六か月の禁錮で議員は失職することになる。黄之鋒はすでにふたつの事件で実刑をくだされて服役中で、これで刑期がさらにながくなると。イスラエルではネタニヤフが組閣を断念し、大統領が野党第一党になったなんとかいう中道政党のリーダーに組閣を要請したと。ネタニヤフ派でも反ネタニヤフ派でもない、ネがついて三文字だったとおもうが、なんとかいう右派政党の選択が焦点になりそうだとのこと。ほか、フェイスブックは一月の米連邦議会議事堂襲撃事件をうけてドナルド・トランプのアカウントを無期限停止していたらしいのだが、その判断を審理する独立審査委員会みたいな組織があるらしく、停止を支持したと。ただし、無期限というのはあいまいで根拠のないものだから、はやいところ改善する必要があると。この委員会は世界中の有識者から構成されているというのだが、設置主体はふつうに米国政府なのだろうか。ドナルド・トランプTwitter社によってもアカウントを停止されているわけだけれど、自身のホームページに「ドナルド・トランプのデスクから」とかいうコーナーをつくってそこで情報発信しているらしく、SNS企業が大統領の言論の自由をうばったのは真実をおそれているからであり、連中の会社は極左によって腐敗している、みたいなことをいっているもようで、あいかわらずである。言論の自由を楯としてクソ馬鹿がクソ馬鹿なことをおおっぴらにおおやけにいってもなんの責任もとらずにすんでしまう世になってしまったというのは、実になやましい。大統領が発信をふうじられて、その大統領自身で「言論の自由」をもちだし、大統領職にある人間の「言論の自由」が問題化されるなんていう状況も、相当に異常ではあるのだろうが。
  • 食事をおえると、ドーナツのせいであまり腹が減っていなかったために満腹だったので、風呂にはいるまでちょっと時間をおくことにした。それで母親のぶんもまとめて食器をあらうといったん室にかえる。そこで今日のことを途中まで書き、九時一五分かそのくらいで入浴へ。風呂はやはり暑く、湯のなかで静止しようとしてもなかなかながくできない。窓をもっとあければよかったかもしれない。すこしだけあけていたのだが、するとほんのりとしたすずしさが、鼻のあたまとか額のあたりに、まれにゆらいではきた。浸かりながら、単純な話、もっと心身を成熟させるというか、毅然と立つ力をもちたいなとおもった。柔軟な強靭さを。
  • 風呂を出たあと、部屋にもどると、歯をみがきながら2020/5/7, Thu.を読む。夕刊の音楽情報に、Shohei Takagi Parallela Botanica『Triptych』があったらしい。口をゆすいでくると、「記憶」もいくらかでもよんでおきたかったので、『Solo Monk』をうすくながしてまた音読。Newsweekの記事からの引用で、太平天国の乱について。449から452まで読み、たぶん二度の音読のあいだにダンベルをもっていたからだとおもうのだが、なんだか疲労感があったのでいったんベッドへ。ヴァルター・ベンヤミン/浅井健二郎編訳・久保哲司訳『ベンヤミン・コレクション 3 記憶への旅』(ちくま学芸文庫、一九九七年)をよみはじめたのだけれどどうもねむいのですぐにやめて、また音楽につつまれながらやすもうとおもった。Kendrick Scott Oracle『Conviction』。きちんときいてみると、よくこんなアンサンブルできるなとおもう。サックスとベースとギターでそれぞれリズム感というか、単位とか開始位置がずらされていて、パズルをはめあわせるみたいになっており、いちおうドラムがいちばんベースとなって統括してはいるのだとおもうが、これでふつうにこともなげにつづけていけるのだなあと。とりわけベースが、冒頭の"Between Yesterday And Tomorrow"もそうだし、ほかの曲でもおりおりよい仕事をしていた印象。といってもまただいたい意識をあいまいにしてしまっていたのだが。このベースはJoe Sandersだったはず。#6 "Cycling Through Reality"あたりで復活し、#7 "Conviction"の途中まで。
  • その後おきあがり、今日のことをここまで加筆。いまは零時四〇分。ついさきほど(……)さんからメールがきて、職場からのメールではZOOM参加とおくってしまったが、検査不要の判断がでているなら出勤して問題ないので、職場まできてくれとあった。こちらとしてはもう完全に、明日はオンライン参加で、ふたつの会議のあいだの面談同席もなくなったものとおもっていたので、油断をつかれた感じだが、まあ仕方がない。朝から晩までがんばろう。
  • そういうわけでこのあとは、六日のことを断片的にメモしたり、だらだらしたりしたあと二時すぎに就寝。八時にはおきるつもりだったので、さすがにこのくらいに寝ないときつい。