2022/2/12, Sat.

 たしかに、春はお前をもとめた。幾多の星もお前に、その徴を感じ取ることを望んだ。過去から波が立って寄せる。ひらいた窓の下を通り過ぎると、弦の音がお前に寄り添う。すべて、何事かを託したのだ。しかし、お前はそれを果したか。そのつど、すべては恋人の出現を告げているかのような、期待にまだ紛らわされていたのではないか。大きな見知らぬ想いの数々が出没して、しばしば夜まで去らぬという時に、恋人をどこに匿まうと言うのか。それでも憧憬の念の止まぬものなら、愛を生きた女たちのことを歌うがよい。かの女 [おんな] たちの名高き心はひさしくなお十分の不死の誉を得てはいない。男に去られながら、渇きを癒された者よりもはるかに多く愛したあの女たちを見れば、お前は妬まんばかりになるはずだ。けっして十全な称讃とはなりきらぬ称讃を、繰り返し新たに始めよ。考えてみるがよい。英雄はおのれを保つ。滅びすら彼にとっては生きながらえるための口実にほかならず、じつは究極の誕生にひとしい。しかし愛の女たちは究め尽した宿命を、内へ(end164)納め戻す。あたかも二度と、これを為し遂げる力も尽きたかのように。かのガスパラ・スタムパの生涯をお前は十分に思ったことがあるか。恋人に去られたどこかの娘がこの愛の女の、高き手本に接して、わたしももしや、あの人のようになれるのではと感じる、そんな学びもあるということを考えたか。これら往古よりの苦悩を、われわれにとってついに稔りあるものと成すべきではないのか。愛しながらもなおかつ、愛する人のもとから身を解き放たんとして、その解放の境に震えつつ堪えるべき、その時が来たのではないか。矢が弓弦 [ゆんづる] に堪えて、放たれる際 [きわ] に力を絞り、おのれ以上のものにならんとするように。滞留は何処にもないのだ。
 (古井由吉『詩への小路 ドゥイノの悲歌』(講談社文芸文庫、二〇二〇年)、164~165; 「16 ドゥイノ・エレギー訳文 1」)



  • いちどかなりはやいうちに覚めた記憶がある。七時台とかではなかったか。しかし気づかぬうちに沈没し、一〇時二分に再覚醒。その直前、夢をみていた。地元の駅の通路で端に寄って、ひとびとが通り抜けていくよううながすか見守るかしているのだが、そのひとびとというのは塾の生徒である。(……)くんを見た記憶がある。また、(……)さんもおり、通り過ぎざまにこちらのほうを見て笑ったかのじょは、マスクをつけていないと若く見える、ということを言った。それでじぶんがマスクをつけていないことに気づき、職場のそとだからとおもい(たぶんここで服装も私服に設定されたのだとおもう)、マスクをつけていない顔をみられるのははじめてだから恥ずかしい、みたいなことを夢のじぶんは漏らしていた。
  • 天気は晴れだが、文句なしの快晴ではない。布団のなかで深呼吸したのち、一〇時半に起床。水場に行って用を足してきてから瞑想。きょうはかなり静止できた感。布団のしたにいるあいだに踵で脚をちょっとこすったり揉んだりしておいたのがよかった。さいしょの数分は深呼吸をしてからだをやわらげ、その後停止。一〇時四〇分くらいにはじめて、目をあけると一一時一五分をすぎていた。マジでほぼぴったり停まる、からだが一ミリうごいただけでもそれがわかる、という瞬間がいくらか。
  • 上階へ。窓外のようすはあかるめだが、空は全体的に雲が淡く混ざっており、瓦屋根のひかりかたもひかえめでさほど水っぽくはない。ジャージにきがえて洗面所で髪を梳かした。食事はジャガイモのソテーやきのうののこり。昨晩食べなかったアジフライをいただくことに。ソースをかけてそれをおかずに白米をつまむ。新聞、国民民主党が党大会をひらき、与党との連携も辞さない方針を打ち出したと。「対決よりも解決」と謳っており、政策本位でかんがえて共同できそうなら与野党にかかわらず協力していくと。さきの衆院選で、是々非々の路線を取ってきた(といわれている)日本維新の会が躍進したのを受けて、似たような方針をとりつつ独自性をうちだして党勢を拡大したいという思惑のようだ。ただ議員数もすくないし、支持率も低い。そこで国民民主党都民ファーストの会と連携しようとしているらしい。そのいっぽうで参院選では、政策的に協調できそうな選挙区ではできるかぎり候補一本化の努力をするとも表明しており、野党共闘への参加も捨てきっていないようすで、となるとおまえらはいったいどっちやねんと、日和見野郎が、みたいな非難を受けることにはなるだろうとおもう。いずれにしても政局的には、共産党までは行かないリベラルみたいな層が支持できる勢力の孤立化がすすんでいる。立憲民主党枝野幸男を中心に四〇人ほどが離党する見込みという噂もあるらしい。立憲民主党の現代表である泉健太はもともと国民民主党にいたひとだから、玉木代表側との親和性はたぶんそこそこあるはずで、その国民は都民ファーストと連携、ほか自公が与党で、維新の会もまあどちらかといえば与党側、というわけで、枝野らが離党して新勢力をつくるとしても四面楚歌みたいな状況になるし、共産党と連携をつよめて左派としての地盤を確保せざるをえないのではないか。
  • ロシアのうごきを受けてエストニアでも軍事訓練が活発化しているという記事が一面にあった。北部のタパという土地にNATOの基地があるらしく、代わり番で英国とかデンマークとかの兵が駐留し、エストニア兵と共同で訓練しているらしい。欧州の外縁でロシアににらみをきかせるポイントということだ。兵力は一一〇〇人とかあったか?
  • 風呂を洗って白湯を持って帰室。きょうも二時に出る必要があるので猶予はすくない。なので音読はせず、きょうのことをここまで記して一二時半。
  • 夕食時に夕刊を読んだが、米国がロシアのウクライナ侵攻の可能性がかなり高いとして、ウクライナに滞在している米国人に四八時間以内の出国をもとめたという。一二日、すなわちきょうだが、バイデンがプーチンと電話して侵攻の回避をさぐるとのこと。イギリスとオランダも同様に在ウクライナの自国民に出国をもとめた。米当局の発表によれば、プーチン大統領が最終決定をくだしたとはおもっていないとしながらも、情報をあつめるにつれてわれわれは北京オリンピックの終了までにはロシアが侵攻する可能性が高いという認識にいたったといい、同国の大部分を占領するというシナリオも否定はできず、ロシアが攻撃するとしたらおそらくは空爆とミサイル攻撃からはじまるので国籍を問わず民間人に被害が出るだろう、とのこと。アメリカは東欧戦力のうち八五〇〇人に有事にそなえて待機命令を出し、三〇〇〇人をポーランドに増派することも決定、そのほかの国もそれぞれ一定の兵を東欧に送っているものの、なにしろロシアのほうは一二万人だかいるわけである。エストニアをはじめバルト三国も警戒をつよめており、ウクライナとの連携を表明している。エストニアNATOに加盟しており、NATOは加盟国が第三国から攻撃されたばあい、ほかのすべての国もあわせて集団として対抗しなければならないという規則があるらしく、だからロシアが隣国エストニアに攻撃すればそうとうな衝突になって、常識的にかんがえればそんなことはしないはずだが、しかし今回のウクライナの件でNATOのそうした「抑止力」もうすれてきているのがみられると。ロシア軍はエストニア付近の西部にも一〇万だかそのくらいの兵を配備しているらしく、二週間あれば前線に送ることができ、エストニアの兵力は六万ほどなので見るからに劣勢で、しかも英独だったかNATO側の支援国をあわせたよりも多い戦車数の部隊をつくったとかで、だからロシアが本気になればエストニアをとることなど容易なのだろう。マジでどうなってんねん、という感じ。ロシアがほんとうにウクライナに攻め入ったら、マジでなんの大義も必然性も事情もないというか、ほんとうにたんに領土拡張と欧米への対抗という意味合いしかない、どうあがいても正当性の見いだせない愚行だとしかおもえないのだが、そんなことをしてゆるされると、その後国際社会のなかでやっていけると本気でおもっているのだろうか? おもっているのだろう。すでにクリミアでやっているわけだし、第二次大戦時のドイツなんかもたぶんそういう感じだったのだろう。ロシア国民も、これでいいとおもっているのだろうか? とおもってしまうが、たぶんわりとこれでいいとおもっているのだろう。アメリカの譲歩をひきだすために、攻めこむという動向をみせたり情報をながしたりしてギリギリのところを狙っているのではないか、という気もするが。しかしかりにそうだとしても、譲歩をひきだせなければふつうに攻めこむというながれになっても、ロシアとしてはおそらく問題ないのだろう。
  • この日も労働は二時台から。きょうは母親にたよらず電車を取ったが、道中のことはもうわすれた。勤務。(……)
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