2022/10/20, Thu.

 (……)いずれにせよ彼は書いたものに自分で手を下す決心がつかなかったか、または外的事情がそれを許さなかったので、死んだ場合、残された「日記、草稿、手紙……などすべてあまさず、読まないで焼却する」よう、不従順で忠実な友マックス・ブロートに頼んだのだ。カフカが破棄するよう頼んでも無駄だった長編の断片『審判』の初版あとがきで、マックス・ブロートがしている報告によれば、このことは、カフカの机のなかにあった「多くの他の書類にまじった」日付のない一枚の紙片に、インクで書かれていた。だからその保管の仕方は、通例遺言の表明に示される慎重さをまったく欠いていたわけだ。また、正式の遺言状は見つからなかったのだが、それを探したときにはじめて、ブロートがあの紙片を見たのではないという。カフカはすでに以前――一九二一年――あの紙片をブロートに見せて、なかに書いた頼みを打ち明けたが、ブロートはそんな遺言執行人にはならないと、はげしく明瞭に拒否したそうである。
 しかしさらにまた、鉛筆で書いたもう一枚の紙片が机のなかで見つかった。それも日付のない、遺言としての頼みであって、メノー・シュパンが説得的に述べているように(end8)(『モーナツヘフテ』、マジソン、ヴィスコンシン、一九五五年一一月)一九二二年に書いたものに相違なく、だからブロートはその反対を想定しているけれども、すでに一九二一年に存在した「インクの紙片」より後に書かれたものである。この指示は、いくつかの作品を焼却から除くことを――はっきり題名をあげてはいるが無感動に――認めている。それは六つの小説で、当時すでに印刷され公刊されていたものか、あるいは最後にあげられた物語の場合は、作者自身出版を決心したばかりで、元来だれも火中に投じる力をもたないものであった。すなわち、『判決』、『火夫』(長編『失踪者』の第一章)、『変身』、『流刑地にて』、『田舎医者』、『断食芸人』である。たしかに長編の断片、手紙、日記は、このなかでも容赦されていない。そして上にあげられた作品については、作者の言葉によると、それらが他日新しく出版され「後世に伝えられることには関心がない。」「反対に、それらの作品がまったく失われるならば、自分の本来の願いにそうのである。ただ、ぼくはそれがとにかく存在するのだから、持っていたいと望む人に、それを妨げることはしない。」 しかし作者自身――明らかにこの指示のあとまもなく――おなじような望みをいだいたのは奇妙なことだ。つまりカフカが力を注いだ最後の文学上の仕事は、『断食芸人――四つの物語』の校正で、この本は一九二二年一〇月はじめて、《ノイエ・ルントシャウ》に載ったおなじ題名の短編を「後世に伝える」ものだが、そのほかに『最初の悩み』、『小さい女』、『プリマ・ドンナ・ヨゼフィーネ、あるいは二十日鼠族』をふくみ、その一つ、つまり『最初の悩み』は『断食芸人』の前に書かれており、したがって鉛筆の紙片にしたがえば「認められず」、焼かれるべきだったであろう。にもかかわらず、カフカはその死の直前にそれを公けにした。
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、8~9; エーリヒ・ヘラー「まえがき」)




 覚めて手を伸ばし、携帯をみると七時を過ぎたころあいだった。起こしたからだをもどし、布団のしたで鼻から息をゆっくり吐く。なんだかんだながい呼吸をすれば、からだはほぐれてくる。そのうちにカーテンのうえから漏れている薄明るみのあたたかないろあいできょうも晴れらしいなとわかり、手近の端をめくってみればやはりあざやかな青空だった。保育園では門を解錠する電子音やとびらがひらくときの音が立て続けに聞こえているけれど、あいさつの声がないのでまだスタッフが順々あつまってきているところなのだろう、とおもっていたところがまもなく保護者のあいさつも聞こえだした。だいたい八時くらいから子どもらが登園してくるようだ。こちらは七時四〇分過ぎあたりで身を起こし、紺色のカーテンもレースもひらいて朝のあかるさを室内に取りこむと、まだ空気が肌寒いので布団はかぶったままでChromebookを手に取った。布団をかぶっていれば胸のうえに枕や座布団を置く必要もない。そのクッションをはさまずに直接胸に乗せると、ちょうどみぞおち付近にあたるからちょっと苦しいのだ。窓ガラスは結露がすさまじく、水滴の帯状集合によって横にとおった電線と青空の景色はいわば不規則に断裂させられるかたちで、レースのカーテンなど濡れてしまうのではないかというくらいなのだけれど、きょうはもうこれを写真に撮っておけばいいかとおもい、携帯を取ってあおむけの姿勢からいちまい切った。20221020, Thu., 081449。

20221020, Thu., 081449

 一年前の日記にとくだんのことはない。2014/3/14, Fri.もたいしたことはないが、柴崎友香『ビリジアン』の感想を書いている。

 (……)柴崎友香『ビリジアン』を読み終わった。九日の夜寝る前に「黄色の日」だけ読んだときにはぴんとこなかった。何をやっているのか、何をやろうとしているのかがわからなかった。物語もない、細部もない、取り立てた出来事もない。それから読みすすめるにつれてだんだんわかってきて、どんどんおもしろくなった。何かをやることで世界をつくるというよりは、何かをやらないことで世界をつくっている小説だと思った。淡々としているというのはきっと誰もが抱く感想だろう。一文の息が短いこと、(通常なら「~だろう」と書くところでさえ)「~だった」「~した」という過去の断定をくり返すこと、詳しい感情や思考を書いたり内面を掘り下げたりしないこと、色は散りばめられているがそのどれもが無造作に色の名前を示すだけで「~のような赤」などとは書かないこと、などの特徴を認めた。切り詰められているというのも無駄がないというのもちがう、自分がそういう形容で語る小説はどれも文章が密だが、この小説の文章には隙間があってゆるい連関でつながっていた。疎の文章だった。情報は最小限で、ほとんどすかすかみたいなもので、そうやって書かれる世界は淡い感触になる。いい意味で薄い、希薄な小説で、「わたし」の重さが全然なかった。特に「十二月」という篇がよくて、ここではほとんど何もやっていないのではないかと思った。こういう書き方ができるのだ、とうらやましくなった。これに比べると自分の文章は重すぎると感じた。書くことを通して何もやらない小説、そういうものは可能なのだろうかと疑問に思った。

 瞑想中のことだったかもしれないが、保育園では子どもたちがぞろぞろそとに出てきているようで、公園にでも行くらしい。保育士が”さんぽ”を歌いながらまだ来ていない子に呼びかけたりして、じきに声がだんだん遠ざかっていったが、そのあとも男児の叫びとかがちょっと聞こえていたので、行ったのはほとんど一分で行けるすぐそこの公園だったのだろう。それでも出発時に、アキラくん! アキラくんはサキちゃんのうしろね! ~~くんは~~くんのうしろにならんでください! とか保育士が呼びかけていたので、きちんと整列して向かったようだ。ちなみにそののち、正午ごろには、きょうは公園でよくがんばったので、特別に! 特別に、二個あげちゃいます、とかいう保育士の声も室内から聞こえて、それにつづいてやったー! いえー! みたいな男児ひとりの歓声があがっていたが、食事時だったので、なにか食べ物を褒美としてもらったのだろうか。公園でなにをがんばったのかわからないが。
 Guardianの記事もふたつみっつ読んでから起き上がったのが九時二〇分ごろ。屈伸をしたり背伸びをしたり、ちょっと足踏みしたりしてからだをほぐし、さらに椅子に座ると背もたれに首をあずけてしばらく左右にあたまをころがす。これはたしかにかなりきもちがよい。ちょっと息を吐きながらゆっくりやっていると、首すじからその左右、鎖骨のあたりがほぐれだして、そこからさらにだんだん肩、腕まで波及していくし、背面も同様で、腰のあたりもちょっとかるくなる。そうしてからあぐらをかいて瞑想をした。九時四三分にはじめて一〇時八分までだったので、二五分。からだがほぐれているから安定感があり、身がむやみにうごいたり揺らいだりせず静止できるそのしずまりが、部屋のなかのしずまりと合同するようで、朝だからとうぜんそとの空気にうごきはあるし、車が通る音や近間の工事の音があったりはするのだが、それらが止むつかの間があれば室内の物音のなさがきわだって、しずけさが狭い部屋の隅から隅まで液体のように気体のようにぴったり満ちているように感じられ、そのなかでゆいいつ立つ物音としては背後の冷蔵庫が内部でときおり吐くもののみで、海中の生き物が空気を吐いておおきな泡が水のなかを浮上していくような、ゴボッというような響きの鈍く間歇的な音だけれど、そういうしずまりのひろがって飽和したなかにそとで生まれた音たちもはいってはこれないような、聞こえはするけれど窓を越えて身近くまでは来れないような、そんな感覚だった。
 終えると左足がしびれていたのでさすって感覚を回復させ、食事へ。きのうのごった煮的味噌スープにまた豆腐とうどんを入れて煮込む。サラダもキャベツとサニーレタスとトマトでこしらえ、アイランドドレッシングをかけたうえからハムを二枚乗せる。食事中はウェブを見たはずだがなにをみたのだったかおもいだせない。食べ終えるとちょっとしてから皿を洗い、そうしてきのうまでに仕上げた日記たちを一気に投稿することに。一五日から一八日まで。ブログとnoteにそれぞれ。この食後にはまたみぞおちあたりがちょっとひっかかるような感じがあった。きょうは寝床で息を吐いたそのながれで、体操的にからだをうごかすときも弱く吐きながらやっていたが、そうするとかえってこの詰まりが生まれる気がする。からだぜんたいとしてはあたたまってなめらかなのだが。投稿を終えるとシャワーを浴びることに。天気が良いのでさっさと洗濯をしてしまいたかったのだ。といって洗うものはすくないので、着ているジャージも洗っておくことにした。あたらしい下着やタオルを椅子のうえに用意しておくと服を脱いで全裸になり、洗濯機が水を溜めるのを待って、洗剤と漂白剤を垂らしいれると蓋を閉めて浴室へ。髭も剃ることにして、やや寒々とした空気のなかで、鏡のまえに立ってまず水で顔を洗い、フォームを顎から口のまわり、もみあげや額や頬と塗りたくると、もういちど顎に追加してたしょうすりこむように毛をやわらげておき、そうして剃刀でもみあげ付近からあたっていった。済ませると洗面器に水を落としながら剃刀をゆすいで、顔はまだ洗わず、シャワーから湯を出して温度を調節したあと、浴槽内に踏み入って顔面の泡を落としていった。そのまま湯浴み。からだとあたまを洗い、出ると下着を身につけて、先日両親が来たときに持ってきてくれたもうひとつのジャージを着込む。つかったバスタオルはほぼ濡れていないからハンガーにつけてそとに出しておき、髪を乾かすと、まだ洗濯が終わるまで数分あったのでまた首をごろごろしたりしながら待ち、終えるとすぐに干していった。快晴で、ハンガーを窓のそとの物干し棒にかけるさい、その首にひかりがふれて極小の白い点が生まれるし、そのうえから留めるピンチも塗られたようなつやめきをうっすら帯びる。
 椅子にもどると一時を越えたころあいで、さくばん母親から来ていたSMSに返信をした。あと(……)からもLINEでその後体調はどうかと来ていたので、ふたりとも同様の返信で、かなりよくなってはきたのでそろそろ電車に乗れるかもしれない、今月いっぱい休みなのですこしずつ試すつもりだと言っておいた。とりあえずは徒歩ではなく電車で(……)に出る機会をつくってみてどうかというところ。というかそれよりも、もうヤクが切れるのであした医者に行かなければならないので、そこでそれなりにながく電車に乗らざるを得ないのだが。ひとのすくない午後二時くらいをねらっていこう。それをかんがえるときょう一回試しておいたほうが良いのかもしれないが。そのために、返却日はあしただが、図書館に本を返しに行ってもよい。母親が再返信で、(……)に来てるからなんか買って行こうかと言ってきたので、好きにしてくれていいが図書館に行くかもしれないとつたえておいた。
 その後日記を書きたいところだったがいったんなまけることにして、寝床にうつって足をほぐしながらだらだらと休む。着替えたジャージはプーマのものだが、もうよほど着古したこともあって生地がややごわごわしており、膝でふくらはぎをマッサージするときにすべりがわるくてやりづらい。もうひとつのジャージも古いは古いが、素材がもっとつるつるしている感じなのだ。それなので膝も露出して両脚の皮膚を直接ふれあわせてやったりする。起き上がったのは三時前くらいだろう。それからきょうの記述にかかり、ここまで記して三時半。


     *


 きょう二度目の飯を食う。煮込みうどんののこりである。弱火でじっくり加熱しているあいだにまたちょっとからだをうごかして、背伸びしつつ左右に上体を揺らしたり、左右に開脚して腰から背にかけてをひねったりする。洗濯物の具合はどうかと窓辺に寄ってみると、室内で窓のまえに立った位置だと保育園の屋上に接した太陽がとおくきらめくのが目に入り、レースのカーテンを閉めたとしてもその最上部が分離された上澄みのように横いっぱいの矩形となったあかるみを宿して、布をすり抜けたななめの照射がながしや火にかけられている鍋のあたりまでながれて白さを散らすのだけれど、ガラスをひらいて顔を出せばそれだけでもう太陽は建物の裏にかくれてしまい、洗濯物が吊るされている窓外もすでにかげって暖色をもたず、空はたしかにくだりの気配をはらむとはいえまだ水色にあかるいけれど、三時半過ぎでこれだから、陽の落ちるのがずいぶんはやくなったなとおもった。そんなところに出しておいてももう意味はなさそうだったが、あとすこしだけは干しておくかとまだ入れず、あたたまったうどんを椀によそって食事を取る。一杯食って、さらに半杯ほどあまったのもぜんぶ平らげた。ヤクを服用しておき、大根おろしも少量食って、そのあとでさらにヨーグルトも摂取した。食器類を洗ってかたづける。ものを体内に入れた直後はどうもからだが落ち着かないしやりづらいのでウェブをてきとうに見て時を待ち、ちょっとすると音楽でも聞いてみるかとAmazon Musicにアクセスして、また碧海祐人『逃避行の窓』から三曲("Tragedy (Intro)", "夕凪、慕情", "残照")ながした。二曲目にせよ三曲目にせよ、コーラスのあてかたはけっこうおもしろいかもしれない。かなり高い音もふくまれているので、こういうのライブで、R&Bやソウル方面でよくあるように、まろやかなファルセットの女性ボーカルでかさねるとなんかいい感じになりそう、とかおもった。食後のためかやはり意識があまり明晰ならず、そんなに印象深くも聞けなかったのだけれど、Bill Evans Trioの"All of You"もテイク1だけ。冒頭のMotianのシズルとLaFaroのベースの、その音だけでいいなあという感じがあり、この音源は六一年にしては録音がかなりよいとおもう。シズルがシャラシャラながれて減退していき消えるまぎわ、もしくはつぎの一打が打たれるまぎわの、キシキシした、極細の針金がねじられてこすれているような響きとかあー、とおもうし、そこにベースのほとんどビビり音にちかいような振動が横から来るのもじつに具体的だ。
 わすれていたが食後すぐに洗濯物は取りこんでたたんだ。そのさいカーテンと窓をすこしのあいだ開けっ放しにして、タオルやジャージなどをたたみながら向かいにあたる保育園の二階をちらちら見てみると、蛍光灯の白いあかりがひろがった室で子どもたちがわいわいうごきまわっている。お迎えもむろんすでにはじまっており、眼下の道には保護者の自転車がやってきている。たたんでいるときに下着がパンツしかねえぞ? となり、それで黒シャツのほうを洗濯機にのこしたまま見落としていたのだなと気がついた。見てみれば案の定そうで、しまったが、いちおういまからでもちょっとだけ風にあてておくかとハンガーにつけてそれだけそとへ。
 音楽を聞いたあとはトイレに行って小便したり(さいきんは便器を拭くのがめんどうくさくなってきたから、立ったまま尿を放つのではなく、座ってやることが多い――座ると応じてからだもなんとなくおちつく気がするし、目を閉じてちょっと息でもついておけば現在のじぶんに立ち返る瞬間にもできる)、踵だけあげる足踏みをちょっとやったりして、その後椅子についてきょうのことをここまで加筆。五時四三分。足踏み後かトイレから出たときに黒シャツをなかに入れたが、そのときにはすでに向かいの部屋に子どものすがたも大人のすがたもひとつとてなく、天井に何本かとおった蛍光灯のひかりがうごきのなくなったしずかな室内をうつしだしているばかり、太陽はもう見えないが左右のとおくに目を飛ばせばドーム状の淡青地帯のグラデーションを通過したそのあと、最下部に残照の、これも赤みのつよさをぜんぜん持たずにふっと乗せられたような浮遊の色がもれていた。眼下、保育園の塀に沿って自転車がいくつか停められてあり、いまはそこにひとがいないが、こちらが窓とカーテンを閉めて室内にもどろうとしたところにまたひとり、走ってきた母親があってそこに自転車をくわえていた。いまはお迎えが来て帰るところの子ども数人が、まさしく狂乱めいた、奇天烈な声をわめきたてて、ほとんどオルギー(英語でいえばorgyだが、もちろん性的な乱交のことを言っているわけではない)的な苛烈さと熱情と刹那を生き抜く生命の炎でもって友だちと騒ぎ回っており、ハルー、ハルー、と呼びかける母親の声もぜんぜん聞いていない。あんな刹那の焼尽のしかたは、アッパー系のヤクをキメないかぎり大人にはぜったいにできないだろう。それかライブとか戦争とか、それこそ乱交パーティーとか、そういう集団的で特殊な場のちからに取りこまれて他人との一体感を得ることで自己を捨てつつ肉体を高揚させることがなければ。子どもたち、かれらはわずか二、三人で、瞬間的にそれを実現してしまうのだ……。


     *


 夕刻いこうはだいたい前日の日記を書くのについやされたし、外出もしなかったので目立った記憶がない。前日の記事はニーチェについての感想がながくなり、けっこう時間がかかった。椅子について一時間二時間文を書いていると、やはりもう肩のあたりから首や背中がこごったりよどんだりして重く固くなり、そうすると心身の総体としても疲れてちょっといやな感じになってきて、こりゃ駄目だな、また布団に逃げて脚を揉まないと、と休息にながれる。そうして寝床ではウェブ記事を読んだりするが、そのなかにひとつ、Amy Gardner, “A majority of GOP nominees deny or question the 2020 election results”(2022/10/12)(https://www.washingtonpost.com/nation/2022/10/06/elections-deniers-midterm-elections-2022/)というものがあった。表題のとおりで、今次の米中間選挙に出馬する共和党の候補者のうち、二九一人が二〇二〇年の大統領選の結果を否定したり、すくなくとも疑問を持っているというはなしだ。もろもろの選挙の候補者はぜんぶで五六九人いるらしいのだが、そのうちの五一パーセントにあたる。そして、二九一人のうちおおくが当選する見込みだと。〈most of the election deniers nominated are likely to win: Of the nearly 300 on the ballot, 171 are running for safely Republican seats.〉とある。専門家によれば、election deniersやstolen-election narrativeをとなえるもののおおくは、その言説が誤っていることを知りながらも選挙に勝って権力を手にするための手段としてつかっているのだというが、stolen-election narrativeを本気で信じていようがいるまいが、これが現在の米共和党の現実なのだ。なんだかんだいってもいまだに世界でもっとも影響力をもっている国家であるはずの米国の、二大政党のうちのいっぽうがこんな状態になってしまっているのだ。末世の感が濃い。選挙が盗まれたなどというのは、ドナルド・トランプがおのれの敗北をみとめたくないという、たんなる権力欲と幼稚さからでっちあげたいつもながらの嘘八百であって、トランプはじぶんでもなにを言っているのかわからないようなことをそのときの気分にまかせてただでたらめにわめきちらすだけの公害ならぬ口害的存在だということは、それまでの四年間でだれもが目にしてきたではないか。じっさい、一月六日の議事堂襲撃事件の調査委員会の調べで、トランプやその周辺が、選挙結果がどうであれさきに勝利宣言をしてしまうとか、結果をくつがえす算段をしていたのがあきらかになってきているし、トランプじしんじぶんが負けたということをみとめ、知っていながら、おれはじぶんが負けたということを公衆のみんなに知ってほしくない、みたいなことをもらしていた、という証言もある。一月六日の事件が起こっているさいちゅうには、シェルターに避難したナンシー・ペロシやほかの議員たちが、冷静に、そこからでもできることをやろうと各方面に電話をかけたり、ヴァージニア州の兵隊を動員できないか知事に打診したりしているいっぽうで、ドナルド・トランプはなんの対処も取らず、暴徒たちにたいしてなにか声明を出すことすらしなかった。そのことは、Guardian staff and agencies, “‘Do you believe this?’: New video shows how Nancy Pelosi took charge in Capitol riot”(2022/10/14, Fri.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/14/do-you-believe-this-new-video-shows-how-nancy-pelosi-took-charge-in-capitol-riot)という記事に書いてある。そんなでたらめ野郎の言うことを真に受けたり、真に受けていなくともそれを信じているふりをしなければ政党が立ち行かず、政治が成り立たない、米国の共和党(Grand Old Party!)はそんな状態に成り下がってしまっているのだ。ドナルド・トランプに依存しなければ、政治ができないのだ。政治についてなんら専門的な知見をもたないこちらのようなずぶの素人であっても、これがゴミクズのような状況だということはあきらかにわかる。そのことを理解するのに知識や知見などなにもいらない。平均的な常識をもっていれば明白なはずだ。だれが見てもおかしいとおもうはずだとおもうのだけれど、ところが現実には、こういう状況がだれが見てもおかしいというものになっていない。そのことがいちばんおかしい。
 食事にはまた味噌味の野菜スープをこしらえて、今回ははじめからうどんを入れた。そのほかレトルトのハヤシライス。日記にかかずらってしまい、食べたのは一一時をもう過ぎていたとおもう。夜半あたりから詩にとりくんで、あらためて読み直したときにここはうまくつながっていないんじゃないかという連のはじめを改稿したり、終わりに向かうはずのあらたな連をちょっとだけつくったりした。その後休んでいるうちに意識をうしなっていたので、何時に寝たのかわからないが、たぶん一時すぎくらいか。


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  • 日記読み: 2021/10/20, Wed. / 2014/3/14, Fri.


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Emma Graham-Harrison and Helen Davidson, “After Hong Kong: China sets sights on solving 'the Taiwan problem’”(2020/10/2, Fri.)(https://www.theguardian.com/world/2020/oct/02/after-hong-kong-china-taiwan-invasion-armed-forces(https://www.theguardian.com/world/2020/oct/02/after-hong-kong-china-taiwan-invasion-armed-forces))

An invasion once seemed unlikely, both because China lacked the military capacity to take an island armed with advanced US weaponry, and because it could not afford the international reaction to such a move.

Neither of those restraining factors hold true now. Since 2013 the Chinese president, Xi Jinping, has presided over an extensive military overhaul, increasing investment in hi-tech weapons and shaking up an antiquated structure that sidelined the navy and airforce, both of which would be vital for a successful invasion of an island.

“Being able to sail over to Taiwan and occupy [it by force] ... is for the first time in the history of China, going to be possible,” said Dr Oriana Skylar Mastro, a fellow at Stanford University who specialises in Chinese military and security policy.

Chinese analysts have told Mastro that the People’s Liberation Army (PLA) could have the capacity to mount an invasion of Taiwan in a year or two; she and other US experts believe the real date will be towards the end of the decade, perhaps 2028.

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For decades Taiwan has been protected by the sophistication of weapons Washington has sold to the island – $23bn (£17.8bn) worth over the past decade – and by the prospect of military help from the US fleet and bases around the region in case of invasion.

The Taiwanese military is dwarfed by its Chinese counterpart – Taiwan has less than a fifth of China’s planes, a 10th of its armed forces personnel and just o1% of its missiles.

The details of the US military aid has never been spelt out. Washington has instead embraced a policy of “strategic ambiguity”, which aims to deter China from attacking Taiwan and deter Taipei from provoking military aggression from Beijing.

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“The policy of ‘strategic ambiguity’ is dead,” said James Fanell, a retired naval officer, who was director for intelligence and information operations for the US navy’s Pacific fleet.

Over a 30-year career Fanell specialised in Indo-Asia Pacific security affairs, with an emphasis on the Chinese navy. He argues that a stronger regional military presence and firmer commitment to Taiwan’s defence is necessary to protect the island.

“The US military posture in Asia has essentially remained consistent in terms of military force structure for the past two decades. While that force structure would have been adequate two decades ago, it is wholly inadequate today,” Fanell said.

Washington should shift its deployments away from the Atlantic, so 60% to 70% of US navy and air force is focused on the Indo-Pacific region, Fanell said. This would not be a disinterested policy. Taiwan is an important ally, but its location is also strategically important if the US wants to counter Chinese influence in the region.

“Like Japan understood in the second world war, Taiwan is the unsinkable aircraft carrier that can launch attacks southwards towards the South China Sea, eastward against places like Guam, and northwards towards Japan and events on the Korean peninsula. This fact is well understood in Washington,” Fanell said.

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Even if Beijing is not yet ready to risk a full-scale invasion, it may consider other military action against Taiwan, to test Taiwanese and international response to aggression while bolstering its strategic position, said Dr Mathieu Duchâtel, director of the Asia programme at the Institut Montaigne.

“Limited coercive actions to shape public opinion in Taiwan through shock and fear are a realistic scenario,” he argued in a recent analysis. “China has real options, a record of calculated risk under Xi Jinping, deep concerns regarding the future course of US-Taiwan relations, and a lack of realistic soft alternatives to ‘seduce’ [Taiwan].”

One possible target are the Pratas islands, three atolls with no permanent inhabitants and hundreds of miles south of Taipei. A large-scale cyber-attack on critical infrastructure is another potential scenario, said Duchâtel.


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Bianca Nogrady, “How will long Covid play out over the coming years? Eight experts weigh in”(2022/10/15, Sat.)(https://www.theguardian.com/society/2022/oct/15/long-covid-future-solutions-experts(https://www.theguardian.com/society/2022/oct/15/long-covid-future-solutions-experts))

Professor Ziyad Al-Aly, clinical epidemiologist, St Louis, US: ‘My worry is that we’re going to be left with waves of people with chronic disease’
Long Covid is not a simple thing. The cardinal manifestations are brain fog and fatigue, but there are clearly symptoms of long Covid that are also manifestations of chronic disease, like an increased risk of diabetes, heart disease, kidney problems and neurological disorders.

Fatigue is potentially reversible but there are a lot of conditions that are potentially non-reversible, or chronic conditions that literally will scar people for a lifetime. I know in the public consciousness, people want to talk about fatigue and malaise all the time. A lot of times it’s the stuff that is most visible to patients, which is why they talk about it so much. Diabetes is a little more silent. Kidney disease is silent.

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Dr Shamil Haroon, public health researcher, University of Birmingham, UK: ‘We need good evidence on what works’
This is going to be one of the grand challenges of our time. The Office for National Statistics from the UK estimate that there’s around 2 million people in the UK with long Covid, which is just a staggering number.


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亀井洋志「旧統一教会献金呪縛”のウラにある「韓国支配」」(2022/10/14)(https://dot.asahi.com/wa/2022100600022.html?page=1(https://dot.asahi.com/wa/2022100600022.html?page=1))

 「メディアを黙らせろ。そんな韓国の世界本部からの指示を踏まえた提訴だと思います」
 全国霊感商法対策弁護士連絡会の代表世話人を務める山口広弁護士は、そう指摘する。
 旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)は9月29日、読売テレビとTBS、2社の情報番組のコメンテーターを務めた弁護士3人に名誉を傷つけられたとして計6600万円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴した。
 山口弁護士が続ける。
 「教団は近年、信者が減り、資金収集力が減退しています。教団は5年以上前から危機感を抱いていましたが、現在のメディアの追及でいっそう体制維持が危ぶまれている。その焦りの表れでしょう」
 教団は一方で、「教会改革推進本部」を設置。勅使河原秀行本部長は9月22日の会見で「生活を圧迫するような過度な献金とならないように十分配慮する」と語った。また、韓国の世界本部を通じて海外の宣教活動に送金している額も大幅に減らすと言及した。改革の骨子は日本の教団で決定し、世界本部も了承したという。勅使河原氏は「(教会運営の)責任と権限は日本教会にある」と強調したが、改革は実行できるのか。前参院議員でジャーナリストの有田芳生氏が言う。
 「日本人に教団の方針は決められません。日本教会の田中富広会長もお飾りです。田中会長の上に韓国人幹部の方相逸(パン・サンイル)・神日本大陸会長がいて、日本の教団を牛耳っている。地方のブロック長の上にも韓国人幹部がいます。教団の韓国支配が続く限り、問題の核心は残ったままです」

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 会見では明かされなかったが、どれほどのお金が韓国に渡っているのか。『自民党統一教会汚染追跡3000日』の著者で、ジャーナリストの鈴木エイト氏がこう話す。
 「韓国の本部が献金ノルマを決め、日本の教団に指示しています。1990年代後半から2000年代初頭は、毎年、1千億円くらいだったのですが、それが10年前後には600億円くらいに減り、ここ数年は200億~300億円にまで落ち込んでいるようです。資金源の7割が日本からの献金ですから、韓国の本部としても死活問題です」
 ただ、その後、教団は信者に多額の献金を払わせる方針をとった。このため献金総額は下がったが、個々の“被害額”が大きくなっている。安倍晋三元首相銃撃事件を起こした山上徹也容疑者の母親は1億円以上献金したとみられているが、何億円も取られた例がザラにあるというのだ。
 山口弁護士が憤る。
 「手口は1987年当時の霊感商法と変わりません。先祖が地獄で苦しんでいて、地上の子孫であるあなたに救いを求めている。霊界から来る先祖の霊が悪さをするから病気になったり、交通事故に遭ったり、愛情に恵まれない人生を送ることになる──などと殊更に不安をあおって、お金を出させるのです」
 新たな“献金指令”もすでに出ている。鈴木氏が関係者から得た情報によれば、教団は来年5月までに、信者1家庭あたり183万円の「目標金額」が設定されているというのだ。韓国・清平で建設中の聖殿「天苑宮」が来年5月に完成するため、その費用に充てられるという。韓鶴子総裁は来年、80歳を迎え、創設者の文鮮明氏が生きていれば103歳。足して183歳になるから183万円なのだという。
 「結局、信者からお金を集めるしかないので、今後も自己破産や家庭崩壊はなくならないと思います。信者たちは献金すれば、日本が韓国を植民地支配した時代にひどいことをした罪滅ぼしになる、困窮すればするほど功徳が積めるなどと思い込まされています」(鈴木氏)

     *

 韓国で統一教会が創設されたのは、朝鮮戦争休戦の翌年の1954年。61年、軍事クーデターで朴正煕氏が権力を掌握すると(63年から大統領)、多くの宗教団体が抗議するなか、統一教会は「反共」を掲げ支持に回る。コリア・レポート編集長の辺真一氏が説明する。
 「韓国正教会から異端視されていた統一教会が成長を遂げたのは、朴正煕政権が全面的に庇護したからです。その後、統一教会は米国にも進出して75年にマンハッタンのニューヨーカーホテルを買収しています」
 76年には米下院フレイザー委員会で、韓国政府による米政界工作スキャンダルの「コリアゲート事件」が発覚した。
 「北朝鮮を“サタン”扱いする文鮮明氏は、ニクソン政権が在韓米軍を撤退させようとしていることに危機感を抱き、KCIA(韓国中央情報部)と結託。在米韓国人実業家のトンソン・パク(朴東宣)と連携して米国会議員にロビー活動を行い、撤退を阻みます。冷戦終結後の91年には一転して北朝鮮を訪問し、金日成主席と会談。北朝鮮と太いパイプを持つに至ります。98年に大統領に就任した金大中氏の対北融和政策を支持し、文氏は国内での政治基盤を確立していったのです」


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Amy Gardner, “A majority of GOP nominees deny or question the 2020 election results”(2022/10/12)(https://www.washingtonpost.com/nation/2022/10/06/elections-deniers-midterm-elections-2022/(https://www.washingtonpost.com/nation/2022/10/06/elections-deniers-midterm-elections-2022/))

A majority of Republican nominees on the ballot this November for the House, Senate and key statewide offices — 291 in all — have denied or questioned the outcome of the last presidential election, according to a Washington Post analysis.

Candidates who have challenged or refused to accept Joe Biden’s victory — 51 percent of the 569 analyzed by The Washington Post — are running in every region of the country and in nearly every state. Republican voters in two states nominated election deniers in all federal and statewide races The Post examined.

Although some are running in heavily Democratic areas and are expected to lose, most of the election deniers nominated are likely to win: Of the nearly 300 on the ballot, 171 are running for safely Republican seats. Another 48 will appear on the ballot in tightly contested races.

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Scholars said the predominance of election deniers in the GOP bears alarming similarities to authoritarian movements in other countries, which often begin with efforts to delegitimize elections. Many of those promoting the stolen-election narrative, they said, know that it is false and are using it to gain power.

“Election denialism is a form of corruption,” said Ruth Ben-Ghiat, the author of “Strongmen: Mussolini to the Present” and a historian at New York University. “The party has now institutionalized this form of lying, this form of rejection of results. So it’s institutionalized illegal activity. These politicians are essentially conspiring to make party dogma the idea that it’s possible to reject certified results.”

In the short term, scholars said, that party dogma is likely to produce multiple election challenges this fall from deniers who lose. It could poison the 2024 presidential race, as well.

“It’s quite possible in 2022 we’re going to have a serious set of challenges before the new Congress is seated, and then this will escalate as we move toward 2024 and another presidential election, in which the candidates, again, almost required by the Trumpians, will be challenging election outcomes,” said Larry Jacobs, a politics professor at the University of Minnesota whose areas of study include legislative politics.

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The Post has identified candidates as election deniers if they directly questioned Biden’s victory, opposed the counting of Biden’s electoral college votes, expressed support for a partisan post-election ballot review, signed on to lawsuits seeking to overturn the 2020 result, or attended or expressed support for the Jan. 6, 2021, “Stop the Steal” rally in Washington that preceded the riot at the U.S. Capitol.

Among the 291 are GOP candidates vying to take over from Republicans who, despite overall support for Trump, have refrained from embracing his false narrative of fraud.

For instance, Eric Schmitt, the Missouri attorney general on the ballot for U.S. Senate this fall, was one of 18 Republican attorneys general and 126 House members who signed on to a lawsuit seeking to overturn the popular vote in Pennsylvania. He would replace Roy Blunt, a retiring GOP senator who voted to certify the 2020 election. In a statement explaining the vote at the time, Blunt cited the “more than 90 judges — many of them Republican-appointed, including several nominated by President Trump,” who dismissed attempts by Trump and his allies to prove the 2020 vote was marred by fraud.

Also among the 2022 crop of election-denying candidates are those who actively promoted misinformation. Anna Paulina Luna, the GOP nominee in Florida’s 13th Congressional District, spread unfounded accusations on social media that Dominion Voting Systems equipment rigged the 2020 outcome and expressed support for decertifying Arizona’s result even after a partisan post-election audit found that Biden had indeed won the state.