2022/10/21, Fri.

 (……)一九一四年七月一〇日――フェリーツェとの最初の婚約を解消することになったベルリン旅行の前日――カフカは、この関係の困難をよく知ってベルリン訪問の目的をたずねたらしい妹(end10)のオットラにあてた手紙で、つぎのようにいう。「ぼくは話すのとはちがったふうに書き、考えるのとはちがったふうに話し、当然な考え方とはちがったふうに考える。そしてそれは、最も深い闇のなかへとつづくのだ。」
 (マックス・ブロート編集/城山良彦訳『決定版カフカ全集 10 フェリーツェへの手紙(Ⅰ)』(新潮社、一九九二年)、10~11; エーリヒ・ヘラー「まえがき」)




 覚めて携帯を見ると七時。さいきん早起きだ。とはいえきのうも、寝床で休んでいるうちに意識をうしなってしまったのだが。れいによって三時だか四時くらいにいちど覚めて、デスクライトを消したおぼえがある。鼻から息を吐きはじめてからだに酸素をめぐらせる。カーテン上部から天井に漏れ出しているひかりの色味は、きのうおとといよりもすこし薄い気がしたが、端をめくってみればきょうも快晴の青さが結露した窓の向こうを満たし、磨りガラスになっている下半分は白いあかるさをはらんでいる。しかしのちほど、窓辺に吊るしてあったバスタオルと肌着のシャツだけ出したときに空を見れば、水色のなかにまだらな鱗雲がやや群れなしてまさしくあいだが溶けた雪原のさま、雪降りを先取って来たる冬をおもわせるようでもあり、朝のひかりはたしょう淡かったのではないか。腰とか背中を寝床にごろごろこすりつけて、七時四〇分に起き上がった。両腕を万歳的にあたまのうしろというかうえのほうに持っていった状態で腰を左右にうごかすと肩甲骨のあたりもかんたんにやわらげることができる。水を飲み、トイレに行って小便を捨てたり顔を洗ったり。まだ寝間着のまますぐに臥位にもどると、ウェブをちょっと見たあとに過去の日記を読みかえした。一年前から再掲することはニュースくらいしかない。ちなみに今年のサハロフ賞はthe people of UkraineにあたえられたとGuardianで見た。

(……)例によって国際面を読んだ。韓国の与党「共に民主党」の大統領候補に決まった李在明 [イ・ジェミョン] についての記事がひとつ。きのうの新聞にもあって、何回かシリーズでやるらしい。あるいは上下記事だったか。もともと貧しい農家の生まれで九人きょうだいの七番目、父親が博打好きで一家に金はなく、小学校は山道を五キロあるいて通うような土地だった。その後城南市に越して、学校に行かずはたらいていたが高卒認定試験みたいなものを取って大学で法学をやり、のちに弁護士となる。大学時代くらいに政治にめざめたらしい。当時は全斗煥の強権体制にたいする抗議が盛んだったころで、光州事件についても当初は暴徒の仕業だという当局発表を信じていたものの、軍が市民を弾圧し殺したのだという真実を知って政治に関心を持ちはじめたと。その後弁護士として労働者や農民団体の支援をするようになるが、このあたりの弁護士・民主派という経歴は盧武鉉文在寅とかさなるものだと。きょう読んだ記事ではやり口の強引さが批判を呼んでもいると記されていて、李在明はいま京畿道の知事なのだけれど、コロナウイルス状況のなかで信者に感染者が出ても保健所の立ち入り調査やPCR検査を受け入れようとしないキリスト教新興団体にみずから職員を率いて乗り込み(部下たちには、これは戦争だから信者の名簿を入手するまで絶対に撤退するなと厳命したという)、六時間交渉した末に要求をみとめさせ、山奥にいた組織の創設者にもPCR検査を受けさせたらしい。政敵にたいして攻撃的にふるまうやり方から「闘鶏」というあだ名を得ており、SNSをつかって相手をボロクソに叩くやり口がドナルド・トランプを連想させる、という声もあるようだ。たとえば城南市長だった時代にはFacebookで政策を批判してきた人間について、連絡先を知っているひとはいないかと呼びかけて素性をあばこうとしたらしい。またもろもろの腐敗疑惑もあって、世論調査では候補者のなかで道徳性の点では最下位を獲得しているものの、指導力とかそういった方面で高評価されていると。

ほか、欧州議会が今年のサハロフ賞をアレクセイ・ナワリヌイに授与することに決定したと。ロシアの反発が予想される。国際面がきょうは二ページあったうちの右側では、ドイツがナミビアと植民地支配時の虐殺について和解したのだが国内に反発の声があるという記事。ナミビアというのはアフリカ最南端付近の西側にある国で、たぶん南アフリカ共和国の隣接国だとおもう。ドイツがそこに入植していった一九〇〇年代のはじめごろに、ヘレロ人とナマ人という民族が強制収容所におくられたり殺されたりした歴史があり、ドイツはさいきんそれを公式に謝罪して補償金も支払うことになり、ナミビア政府も受け入れたところ、じっさいの犠牲者だったヘレロ人やナマ人の子孫で虐殺の歴史をつたえようとしているひとびとのあいだなどには反対の動きがある。というのも、ナミビアの政府はオバンボ人というまたべつの民族が主体となっており、彼らは一次大戦後から独立にかけて中心的な存在となって功があり、それでいまも権力をにぎりつつ腐敗の横行などが問題になっているらしいのだが、このオバンボ人はほとんどドイツによる虐殺の犠牲者にはなっていなかった。それでヘレロ人やナマ人を代表する野党は、じっさいの犠牲者だった民族の声が反映されていない、この取り決めでは政府が補償金をえるだけでヘレロ人やナマ人にまでその益がとどかない、と主張している。紹介されていた専門家も、政府はヘレロ人ナマ人とドイツとのあいだにはいる調停役をつとめるべきだった、国同士の交渉というかたちにこだわったことが混乱をまねいた、と言っていた。アフリカは植民地支配のために民族区分と国境区分が合っていないから、ヘレロ人もナミビアだけではなく周囲の国にもいるようで、だから国単位での交渉にそもそも無理があるという言い分もあるわけだが、ただ民族単位で交渉するとなるとどの国のどの組織やどこの誰が集団を代表するの? という困難な問題も出てくるだろう。

夜に新聞で読んだ記事のことを先に。バングラデシュムスリムによるヒンドゥー教徒への襲撃が多発しており、双方あわせて七人が死亡、ムスリム側を中心に四七五人だかがいままで逮捕されていると。ヒンドゥーの祭りで偶像の膝のうえにコーランが置かれているのをあるムスリムが発見して通報し、それが情報拡散されて攻撃をまねいたと。ムスリム側は、ヒンドゥー教徒によってイスラーム聖典が侮辱されたと言っているらしい。記事を読んで、けっきょくどこもおなじというか、宗教じたいがどうとか人種じたいがどうとかいうことではないのだよな、とおもった。隣国のインドでは反対にモディ政権下でヒンドゥー至上主義がいきおいづいてムスリムを殺したりしているわけだし、アメリカでアフリカ系のひとびとが辛酸をなめているいっぽう、アフリカでは肌の白いひとのほうが差別を受けて、アルビノの人間が呪術の有効な素材になるという迷信によって殺されたりしているわけだ。

 2014/3/15, Sat.は職場の研修で(……)に行き、正午過ぎに終わったあと周辺を散策して、太宰治森鴎外の墓のある禅林寺に行くなどという、いかにも文学かぶれみたいな行動を取っている。その後(……)をおとずれているが、できたばかりの本屋だとあるし、これがさいしょの訪問だろう。さいきんぜんぜん行っていない。本買ってもそうどんどん読めないしな。
 その後Guardianも。Liz Trussが辞任したとトップあって、イギリス政治も混迷のきわみにあるなとおもった。なんか悶着とか混乱とか騒動を起こしているというのはなんとなく目にしていたものの、詳しい内容はぜんぜん追っておらずちっとも理解していなかったところ、Explainerというカテゴリで経緯を要約的に説明した記事(https://www.theguardian.com/politics/2022/oct/20/uk-crisis-a-beginners-guide-to-the-political-turmoil-as-liz-truss-quits(https://www.theguardian.com/politics/2022/oct/20/uk-crisis-a-beginners-guide-to-the-political-turmoil-as-liz-truss-quits))があったので、あとで読むようにひらいておいた。まださいしょのほうしか読んでいないが、Liz Trussが打ち出した経済政策、とくに高所得層の減税が反対を呼び、ぐずぐずしながらも最終的にKwasi Kwartengという財務相を辞めさせて、Jeremy Huntというひとをかわりに据えたのだが、このひとがTrussの財政計画は全面的に取り消されなければならないと発言し、“de facto prime minister”などと呼ばれるようになって、さらにはKwartengを辞めさせた件での議会質問もTrussじしんではなくて、Penny Mordauntという、つぎの首相候補のひとりでもあるらしいひとを代わりに答えさせるというありさまで、〈By now a national newspaper was running a live YouTube video stream asking what would last longer, Truss as PM, or a supermarket lettuce.〉というふうに揶揄されていたという。Liz Trussの首相職と、スーパーで売られているレタスのどちらが長持ちするか、と。
 その後こんどは、Suella Bravermanというhome secretary、すなわち内務大臣が〈sacked for sharing a secret government document on a private phone〉というわけでクビになったと。このひとはTrussともあらそった立場で、もともと政府内にいながらTruss政権を批判していたらしいのだけれど、〈On Tuesday she had launched a widely mocked rant against protesters as “tofu-eating wokerati”〉とあり、そのあとに付されている動画のキャプションを見るに、この”tofu-eating wokerati”はさらに正確には‘Guardian-reading, tofu-eating wokerati’なのだけれど、この言い方にはちょっと笑ってしまうわ。動画を見れば議会でもこのことばにさしかかったときに爆笑が起こっている。英語の聴解力がたいしてないので一部わからないのだけれど、It’s the Labour Party, it’s ~~, it’s the coalition (?) of chaos, it’s the Guardian-reading, tofu-eating wokerati, that (?) I say the anti-grow coalition, that we have to thank for the disruption that we’re (all?) seeing on our rows (?) todayという感じで言っているように聞こえる。descriptionをさがしてみたところ、It’s the Labour Party, it’s the Lib Dems, it’s the coalition of chaos, it’s the Guardian-reading, tofu-eating wokerati, dare I say the anti-growth coalition that we have to thank for the disruption we are seeing on our roads today. だった。Guardian-reading, tofu-eatingは笑ってしまうが、wokeratiってなんやねんと検索してみると、Wiktionaryが出てきて、woke + literatiで出来たことばらしく、語義は、〈(slang, derogatory) Social-justice activists or woke people as a collective.〉らしい。Guardianを読んでおり、ヘルシー志向で豆腐を食っているような、いわば「草食系」みたいな感じの、たぶん環境問題とかにもおおいに関心を持った、「意識の高い」連中、ということだろう。こういうのを見ると、伝統的な意味での、それこそConservativeな古き良きリベラリズムのおおきな源流のひとつであるはずの英国の政府中枢においても、いまや左派的なものにたいする拒否反応が浸透しているんだな、とおもう。英国だけではなくて数年前からもう世界的にわりとどこもそうだよねという感じで、きょうのGuardianのヘッドラインはほかにもいろいろあって、米国でも共和党が”Don’t say gay” billを提出したということで(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/20/republicans-national-dont-say-gaw-law-lgbtq(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/20/republicans-national-dont-say-gaw-law-lgbtq))、これは、〈“sexually-oriented material” as well as “any topic involving gender identity, gender dysphoria, transgenderism, sexual orientation, or related subjects”〉を一〇歳以下の子どもにおしえるような機関(学校や図書館や、ばあいによっては病院など)には連邦政府資金の拠出を禁止するという法案で、米共和党内にもLGBTQにたいする嫌悪が行き渡っているのだろうとうかがわせるものだ。法案提出の中心となったMike Johnsonという議員が言うには、“The Democrat party and their cultural allies are on a misguided crusade to immerse young children in sexual imagery and radical gender ideology,”、“This commonsense bill is straightforward. No federal tax dollars should go to any federal, state, or local government agencies, or private organizations that intentionally expose children under 10 years of age to sexually explicit material.”ということで、かれに言わせればLGBTQ関連の教育は”sexually explicit material”であるらしい。このexplicitがどれくらいの意味を担っているのか正確なところはわからないが、これは性的にどぎついとか、露骨なとか、ときには猥褻なくらいの意味まではらむことばだ。Amazon Musicなんかのサービスでときどき、性の面などであからさまで「不適切な」歌詞表現があるというばあいに付される単語である。だから公衆の目に触れさせるにはふさわしくないという意味合いで、米共和党の一派にとっては、gender identityについての教育はそういうものだということだ。そのほかフランスとかパレスチナとかイタリアとか、きょうわりと盛りだくさんだなという感じだった。まだウクライナの概報とうえの記事しか読んでいないが。ウクライナまわりの状況では、〈On Wednesday Vladimir Putin declared martial law in the four provinces of Ukraine where Russia controls territory. The law gives far-reaching emergency powers to the Russian-installed heads of Luhansk, Donetsk, Zaporizhzhia and Kherson provinces, which Russia recently proclaimed as annexed after sham referendums. Ukraine’s presidential adviser Mykhailo Podolyak described the announcement as the “pseudo-legalisation of looting of Ukrainians’ property”.〉という情報と、〈Putin also ordered an “economic mobilisation” in six provinces that border Ukraine, plus Crimea and Sevastopol, which Russia illegally annexed in 2014. In televised remarks he said he was granting additional authority to the regional leaders of all Russian provinces to maintain public order and increase production in support of Moscow’s war. The law also limits the freedom to move in and out of the eight provinces.〉という情報があり、マジで戦時中の日本みたいになってきているなとおもった。”economic mobilisation”というのは、たぶん国家総動員法みたいなことだろう(ロシアのばあいは国家全体に適用されるわけではないが)。


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 (……)さんのブログより。

 さて、美と崇高の違いについてまとめておこう。カントは、美を「目的なき合目的性」として定義する。美は常に合目的性というかたちで現れるが、実際そこに目的——それが一致するべき概念——はない。何らかの機能、有用性をもつ工芸品がけっして美しいと評価されないのはこのためである。美しいものは、何か目的をもつかのように見えつつ、実際それ自身の存在以外の目的をもたない。逆に言うなら、あるものは、それが偶然の産物であるかぎりにおいて、あらかじめ定められた目的をもたないかぎりにおいて、美しい。例えば、カント曰く、自然形成物などがそうである。しかし、(水晶などの)自然形成物が美しいのは、それが〈自然〉のもつ知識を想像させるからである。そのようなことはないと知りつつも、我々は、〈自然〉は自分が何をしているかを知っている、自分がしていることの意義や意味を知っている、と感じてしまう。だから、最も簡潔な美の定義は次のようになる——美とは、そのかたちが全く偶然の、意図されざるものであることを我々が知っているからこそ魅力的であるような、有-意味なかたちである。これに対し、崇高はあからさまに無意味なかたち、混沌の具現——噴火する火山、荒れ狂う大海、嵐の夜——である。それは、純然たる剰余あるいは無用物、説明不可能な「享楽」の噴出というかたちで現れる。言い換えれば、自然が知っている場所が美であるとするなら、崇高とは自然が享楽している場所である。崇高が人を魅了するのは、他でもないこの〈他者〉の享楽、何かの役に立つようには見えない、また実際に何の役にも立たない享楽のためなのである。
(『リアルの倫理——カントとラカン』アレンカ・ジュパンチッチ・著/冨樫剛・訳 p.179-180)

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 つまり、至上命令とは道徳律の範型に他ならない。しかし、ならば結局、道徳律とはいったい何なのか? それは何を命じるのか? それは何を「欲して」いるのか? 至上命令の「そのように行為しなさい」という表現は、「何をすればよいのか?」という問いに対する答えではない。むしろそれは、「どのようにそれをすればよいのか?」という問いに対する答えであり、このなされるべき「それは」は依然として謎のままである。カントの言葉を厳密に解釈するのであれば、我々はこの「それ」が行為の内に起こる、あるいは起こらないことであると、つまりこの「それ」は、(命令としてさえ)行為以前に存在する何かではないと、考えなければならない。また、(法に適っているというだけで行為が倫理的と見なされるわけではないので)厳密に至上命令にしたがった場合でさえ、この「それ」が起こるという保証をどこにもないと考えなければならない。
 それゆえ、(道徳律の)範型は法の形象ではない。それは、(「ものそれ自体」としての)法が感性の領域に「投影」されたものではない。また、表象されて「歪曲」された法でもない。範型とは法であるが、しかし(それが自然の法の形式のみをとり出したものであるから)法「全体」ではない。ちょうど至上命令が「半-命令」であるように、範型は「半-法」である。君の意志を決定する行動原理が、いつであろうと、普遍的な法を生み出す原理としても成立しうるようなかたちで行為しなさい——これは典型的な「半-命令」であり、これが法になるためには、主体による実際の行為がつけ加えられなければならない。非時間的かつ超主体的な道徳律は、時間の中で主体が行う行為に「依存」しているのである。この行為がどのようなものか、これは法(〈他者〉)によってあらかじめ決定されているわけではない。なぜなら、この行為の中で初めて法が形成されるからである。この点は特に重要だ。法とは、常にすでにそこにあり、主体がこれにしたがうのを待っているのではない。そうではなく、主体によるこの「したがう」という行為、主体の倫理的行為が、非時間的かつ超主体的なものとしての〈法〉を形成するのである。
 ラカンの有名な公式、「欲望とは(常に)〈他者〉の欲望である」を参照しつつ、以上のことを確認しよう。まず忘れてはいけないのだが、この公式は、「君の欲望に見切りをつけてはいけない」という倫理的原則に反してはいない。〈他者〉という次元は、主体自身の欲望に反するものではない。なぜか? それは、〈他者〉の欲望が、何らかの問いに対する答えや命令(「私はこれが欲しいのだ!」)としてではなく、問いかけ、あるいは謎として、スフィンクスオイディプスに投げかけたような謎として、現れるからである。これに対して主体は答え、そして答えることによって自らの欲望のたどるべき運命を決定することになる。「欲望とは〈他者〉の欲望である」という命題は、欲望の問題が初めて立ち上がる場所としての〈他者〉を要請しているのみである。つまり、〈他者〉の欲望がどこかに存在しており、主体はこれを察知し、己の欲望のモデルにすればいい、などということはないのである。カントの道徳律についても同じである——主体は、道徳律が何を望んでいるのかを知らない。ここにカントとラカンの接点がある。法とは知られざるものの法である——これこそ、その名に値するあらゆる倫理の命題である。
(『リアルの倫理——カントとラカン』アレンカ・ジュパンチッチ・著/冨樫剛・訳 p.186-187)


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 イギリス政界の混乱のことを書いているうちに現在時に追いつけないまま一時に達してしまった。三時半くらいには出たいとおもっていたので、そこで切ってからだを休めることに。寝床で脚をほぐしつつゴロゴロ過ごす。二時過ぎで起き上がり、豆腐と即席の吸い物とヨーグルトで食事を取った。ちょうど二時半ごろに歯を磨きだしたのだけれど、そのまえに窓外に出していたバスタオルと黒シャツを確認するため窓を開けて、うすびかりがあったのでそのままカーテンも窓もひらいておいて、布団を足もとにあたるほうから半分たたんであげておいたあとの床のうえに座りこみ、薄陽を浴びながら口をガシガシやっていたところ、窓下部の木でできた枠にひかりが溜まって純白のまぶしさを跳ね返すので、きょうの写真これでいいやとおもって歯ブラシをくわえたまま携帯を取った。ひかりのために携帯の画面はほとんどみえない。また、太陽は、色濃い水色にかこまれつつもさきほどよりもつながってひろくなった雲のなかにあるから、厚みにおうじてひかりの度合いを増減させるので、せっかくなら窓枠上で液体のようになっているところを撮りたいとつよまる時を待ち、画面もたいしてみえないままに撮ったけれど、そんなに発光のかんじはとらえられなかった。室内には涼しい微風がはいってきて、ひらいたすきまに接するレースのカーテンの縁が躊躇するかに、もじもじと煮え切らないようすでちょっとだけうごき、その表面には窓外の柵の、申し訳程度にもうけられた蔓型のちいさく貧相な渦巻きが影となって浮かび上がっている。

20221021, Fri., 143239

 家を出るまえにはこれから電車に乗ることがわかっているからだろう、やや緊張があった。肩が重い感じがしたので、椅子の背もたれに首をあずけて左右にゴロゴロやっていると、これがやはりきもちよく、背から腕までほぐれて、それだけでなく風呂にはいっているときのように、脳内でなにか分泌されているふうにリラックスしてくるのですごい。マジで心身がリラックスしているなというのがあきらかにわかる。なんかたぶん、首と後頭部がつながるあたりの窪み、あのへんが椅子の背にあたってさすられるのがそういう効果を生む気がするのだが。頭蓋がほぐれるきもちよさなのかもしれない。基本的にあたまの肉とかすじというのは、なにもしなければかなり凝り固まっているとおもうので。


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 医者に向けて外出。三時半くらいだったとおもう。最寄りで乗らず、あるいて(……)駅まで向かう。アパートを出るとまず南下して路地を抜け、車道沿いを西へ。空には雲がひろく場を占めて、朝にもそうだったが雪原をおもわせるさまであり、面積がよりひろまったぶんその印象もつよまるが、原とはいっても無数にさしこまれたひび割れのなかにみずみずとした青さがのぞきつつ、頭上ちかくの右側には雲の消えたほそい切れ目もひらいていて、風がすーっと切り裂いていった跡のようだった。低み、西のさきでは砕かれた積雪の様相が消え、あいまいな白と青とのうねりになっている。南側で太陽が雲にひっかかっているものの、ものともしないふうであたりはあかるさを帯びていた。
 草に埋め尽くされた空き地や病院のあたりまで来れば空がいっそうひろく、病院の建物も広大さを背後にきわだって、ここで巨獣のようにえがかれた雲はしかしあるさかいまでしか存在できず、そのしたはすっきりと、かんぜんになにもふくまない澄んだ青さのみがあって、ほんとうはこういうのを写真に撮るべきだよなとおもった。空き地の草のなかには先端が黄色くなっているものがままみられる。花なのかなんなのか、視力と距離の問題でよくわからないが。
 病院と空き地のあいだには通りがいっぽんはさまっており、そこを曲がって裏に向かう。あるきながら接している空き地をながめると、箒の毛を撚りあわせたような、ややするどい印象の、地味な薄色の穂草が緑のなかに多くあり、風とふれあってちょっとびよんびよんというような感じでちいさくなびいている。さきほどの黄色い草もまた見えつつ、そのほかひときわ背の高い、より穂らしい穂を伸ばしてふさふさとした草が、そこここでみじろぎしている同志らを越えたやや遠くで、こちらは左右にはばひろくゆったりとゆらいでいた。
 裏道のキンモクセイはマスクをしていても距離のあるうちから鼻に来て、ある種の茶のような、飲み物の風味をおもわせるにおいだ。(……)通りにいたると横断歩道を待った。道路上には対岸ななめ前のビルの影がかかっており、目のまえを通り過ぎていく車がそのなかから出てくるときには、車もまたみずからの影をしたがえているから、寸時の間はふたつの影がさかいなくつながって母体からにゅっと進展するおもむきだけれど、刹那ののちには分かたれてあいまに日なたが差しひらくので、スライムがつぎつぎと分離していくかのようだった。太陽は西南、左前方で変わらず雲の内にあるものの、自己をかこむ白さを内破させんばかりのつやである。じきに通りが停滞してすぐまえに一台止まったが、ナンバープレートを囲うように配された銀色のなかに、太陽のおもいきり縮小された分身がとらわれている。
 信号が青になったので通りをわたると、わたったところに高校生か大学生か若い男が四人くらいたまっていて、なかのひとりが、路上喫煙はたぶんふつうに条例で禁止されているとおもうのだが、煙草を吸ってわざわざ粋がっているような雰囲気で、だからたぶん高校生だったのではないかという気がするが、仏頂面で粋がっているかれにむけてほか三人くらいまとまったなかのひとり、自転車をともなっているものが、とりあえず渡ろうぜ、と声を向けると、おう、と受けた喫煙野郎は信号を待たず即座に車道に出てすたすた渡ってしまい(かれが渡ったのはこちらが来た方向ではなく、こちらがはいった通りの進行線と垂直になるかたちで向かいに移ったということなのだが、いまこちらが渡ってきたしたがって横断歩道が青だったので、もういっぽうは赤だったのだ)、その粋がりをみたチャリの男子やほかのなかまが笑い声を立てていた。
 駅に向けて通りをすすむ。ちかくなると、なんとなく曲がってみるかと右折して、そうすると駅ビルである(……)の側面に沿っていくかたちになるけれど、そこまで来るとビルの側壁にひかりが射しながれていて、氷が貼りついたようでもあり、太い稲妻の軌跡が色を剝がされた幻影体としてのこってしまったようでもあるが、みなもとである太陽は前方対岸のビルにかかってみえないものの、側壁を走っている濾過されたような白さは、そこだけ壁の、タイルをならべてつくったような微細な格子模様のすじをまったくうつらないように隠してしまっていた。あるいてきたので家を出るまえよりも心身はそこそこおちつきを得ている。絶えず無数に到来してくる外界の知覚というのは、からだのバランスがよくなってさえいれば、ある種心身のマッサージのようなものだ。
 そとの公衆トイレに寄ってから駅舎内へ。左右にエスカレーターが用意されているあいだで、こちらひとりのみがひろい階段をのぼっていく。コンコースの人波にはいれば緊張がまったくないわけではないが、まあこの分なら電車に乗ってもどうにかなるなという程度ではあった。そうしてホームに移動して乗車。いちばん端の角に立つ。FISHMANSの”Walkin’”を聞きたかったので、『Neo Yankees Holiday』をながして聞く。さいしょのうちはやはり緊張があって、ちょっと息を吐いておちつかせようとかやっているのだけれど、じきにもう面倒くせえとおもって身をまかせると、そのほうがやはりかえって楽になり、音楽が耳にはいるようにもなって、ちょうど三曲目の”Smilin’ Days, Summer Holiday”の間奏にあるリズムをちょっとぶれさせたようなサックスの反復フレーズのところだったのだけれど、しぜんとからだが音楽につられてうごくような感じになった。そのあたりからわりと良い調子になって、まあだいじょうぶだなと確信もされて、空いてきていたし(……)あたりで席に座った。
 "Walkin'"は好きで、よくあんなほぼなにも言ってないのにほがらかで、なにかを喚起させ、こちらを持ち上げてくれる曲つくれるなとおもう。Aパートの歌詞は、「ぼくらはあるく ただそんだけ/なんにも食べないで ただそんだけだよ/だれかがゆってるよ なに、それ/だけども あるくよ それだけよ」で、このなにも言ってなさ、情報量のすくなさ、スカスカさ。すごい。あるくよ、ってことしか言ってない。その後いちおうBパートでは、周ごとにそれぞれ時間がしめされて一日のながれが生まれて、構成と物語性がまるでないではないのだけれど、それは至極たんじゅんな、シンプルなもので、そのくせやはりよい。冒頭曲 "RUNNING MAN"もおなじで、この曲も晴れた日には君をさそってそとに遊びに出るということしか言っていないし、うしろのほうにある一節、「西陽の射してたあの日 西陽の射してたあの日/いつもの調子のふたり いつもの感じのふたり/西陽の射してたあの日 西陽の射してたあの日/世界はぼくのものなのさ」というところがとくに好きで、「西陽」と「いつもの感じ」がそのまま直接、「世界はぼくのもの」であるかのような万能的多幸感に転じてしまっているのが、曲調や音楽性ともぴったり調和してなにしろすごい。しかもこの「世界はぼくのものなのさ」には、まったく雄々しさが付与されていない。じっさいにそんなちからはまったく持っていない骨抜きにされたヘロヘロの万能感という感じで、こういうスカスカの、ほぼなにも言わないことばたちのひろびろとしたあいまに、ある種麻痺的なというか催眠的みたいな多幸感をただよわせるというやりかたがすごいなとおもうもので、これはやっぱりドラッグをキメたときのような音楽ということなのか? 過去、ロラゼパムを服用して春の陽のしたをゆっくりあるいているときに感じた恍惚とかとちかいような気はするが。
 (……)着。駅を抜けると南の空に浮かんだ雲は、ここでは雪原からたしょうのがれて蒸発の相をふくんでおり、靄っぽくくずれだしているその雲をともなった午後四時半は、西陽のいろが駅舎や背後、駅の反対側にある図書館のビルにうっすらかかってほの明るかった。医者に向かっているととちゅうの民家の木に柿らしき実がたくさん生っていて、もうそんな時期かとおもった。二軒あった。そのうちの一軒では老人ふたりが庭に出て小卓に寄ってなんとかはなしており、テーブル上にはパソコンがあるようだったがよく見えなかった。それで医者は、ビルにはいって階段をあがっていくと、待合室の扉にきょうは四時までで終了するという紙が貼られていて、マジかよとはおもったものの、そういう可能性をかんがえていなかったわけではない。とくに根拠はなかったのだが、もしかすると臨時休診とかになっている可能性もあるにはあるなと。まあそれでも電車に乗ってどうかの確認にはなるしいいやとおもって来たわけだけれど、ほんとうにそうだったとはおもわなかった。まああとすこしはやく家を出ていれば間に合っていたのだが。いちおう扉のノブをひねってみたけれど、あくはずもない。それでどうしたもんかなと、ヤクはあと二錠しかないのだが土日一錠ずつ飲んで月曜日まで待つか、しかしそうしたとしても月曜に出るまえに飲めないとなかなかよくないだろうとおもって、診察券をみてみると、土曜日は午前中だけやっているようだったので、ならあしたの午前に来ようと決めた。午前中から外出するのはじぶんにはなかなかたいへんなことだが、さいきんはなぜか早起きになっているし、ヤクがなくなるとさすがにまずいから、アラームかけてがんばって、来れるときにもうさっさと来てしまおうと。そのように決断してとんぼ返り。
 帰りの電車内は問題なかったしよくおぼえていない。(……)で降りると図書館へ。本を返すためである。北口からみえる空はどの方角も雲を払われて完璧な晴れにひらいていたが、モノレールの線路が宙にかかり、電気屋のはいった高層ビルが抜きん出て天を目指している西側には暮れゆく時のグラデーションが生まれており、空の下端にむかうにつれて色がだんだん微粒子形式で剝がれていって、最下端はもはや西陽のいろともいえないが淡く地味な口紅色のくゆり、色の減退というよりは減褪と書きたいなとおもった。そうした空のまったきひろがりを背後にすると、その平面性を伝染されたように、どの建物もたためるような面に見えてくる。高架歩廊をすすむと(……)の側面にあたる場所に宝くじ売り場がある。過ぎていくと、背後で会話している男女が、宝くじなんて買ったことない、伊勢神宮で一回だけ、などと言っているのが聞こえてくる。どちらも中年の声音だが、そう言った男性のほうは関西弁の響きがちょっと混じった口調だった。歩道橋に出ると右手のさきに大交差点があらわれて、周辺の建物のネオンのあかりや、顔をこちらに見せている車のライトがきわだちはじめる薄暮れであり、左車線にテールランプの赤い灯しがたくさんあつまり待機しているなじみの光景だが、ずいぶんひさびさにみたような感があった。渡り終えると背後の男女が抜かしていく。スーツすがたの男性はあるきながら両腕とも肘から下のみがふれており、肩がかんぜんに固まっているかのようにぎこちない硬さの動きをしていて、まるでロボットをおもわせるようですらあるのだが、四角く無骨で真っ黒いリュックサックを背負っていたので、それが重くて肩口が固定されているのだろうか。脚のほうはやや左右にぱたぱたひらく可動性があったが。女性はチェック柄のワンピースをまとっており、やや太り気味だった。とちゅうにあるおおきなホテルにはいっていったので、なにか同窓会とか、パーティーでもあるのかもしれない。
 図書館は新着図書をちょっと見て、持ってきた本を返したくらいで、ほかはほぼなにも見なかったはず。いや、あれだ、ドイツ史とかフランス史とか、中世ヨーロッパ史のあたりだけちょっと見たのだ。なぜか数年前に地元の図書館の新着でみかけたパリ住民の日記のことをおもいだしていて、あるかどうか確認しようと行ったのだが、ふつうにあった。ちょっと読んでみたい。一四〇〇年代とかそのころのものだが。あとまあジャック・ル・ゴフとかそのへんも読みたいし、中世ヨーロッパもおもしろそうなんだよなあ。ギリシャローマや中東も。
 図書館を出ると黄昏を越えてもうほぼ宵の暗さだった。またあるいて家に帰ったが、その道中のことはたいした印象もないしだいたい割愛したい。ルートはいままでにないところを一部通って、立体交差から帰ろうとおもったのだけれど、いつもは下を抜けているそのてまえで左に分かれてうえを行く道があったので、ここ行ってみるかとのぼり、そのまままっすぐ行けば陸橋を渡って向かいに行ったり、ふつうにすすむ裏道が見つかったのかもしれないのだが、なんかつづく道が見えなかったので、ちょっと横にはいろうとおもって折れていくうちに、よくかんがえたらここはまだ線路を渡っていない地点だと気づき、踏切りとかないのかとおもいながらあるいているうちにどんどん横にずれていってしまって、まだ高架まで行かないがちょっとだけ高くなった線路沿いの、画一的な集合住宅がひたすらながくつづく一帯に出てしまい、ここあのへんだな、高校の行き帰りに、あんまり通りはしなかったけれど、ここからちょっとなかに入ると通学路にしていた路地があるあのへんだなと見分けられ、ってことはこれは先日いちどとおった高架下のあそこまで行かないと南に渡れる場所がないなとわかって、面倒くせえなとおもいながら人の通りも車の通りもない、左にマンション、右の道路の向こうには線路やそれをもちあげる壁や、そのうえの電線や対岸の建物、そして夜空とはやい星ひとつが味気ない景観となっている、そういう道をただまっすぐにてくてくあるいた。しずかだった。しかしなぜか、そんなに居心地よくおちつくしずけさという感じでもない。
 いぜんと同様自動車教習所の脇をとおりぬけて表道に、つまり(……)の実家があるあの通りに出て、いつも行くスーパーがある(……)通りにはいったが、いつも行く(……)ではなく(……)のまえを行っているあたりで、老人がひとりこちらを抜かしていき、れいによってそのうしろすがたをながめてみると、両腕をからだのそばで前後に運ぶのではなく、左右にちょっとひらいた位置で三角形の辺をつくるようにとどめてわずかに揺らすようなあるきかたで、脚のほうもちょこちょこと歩幅せまく、あまりおおきく踏めないようなようす、ぜんたいとしてヤジロベエをおもわせる動き方で、歳を取るとやはり関節が固まってくるのだろうかとおもった。
 その後の夜は忘却。


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  • 「ことば」: 6 - 10
  • 「読みかえし2」: 236 - 242, 243 - 250
  • 日記読み: 2021/10/21, Thu. / 2014/3/15, Sat.


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Samantha Lock and Martin Belam, “Russia-Ukraine war latest: what we know on day 239 of the invasion”(2022/10/20, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/russia-ukraine-war-latest-what-we-know-on-day-239-of-the-invasion(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/russia-ukraine-war-latest-what-we-know-on-day-239-of-the-invasion))

Moscow-backed self-appointed officials in Ukraine’s southern Kherson region have begun moving civilians into Russian territory, citing fears of a Ukrainian counteroffensive. The Russian-installed head of the key southern city Vladimir Saldo spoke of plans to move up to 60,000 people across the Dnipro River. Images of people using boats to flee the city were broadcast by Russian state TV.

Ukrainian officials described Russia’s announcements as “a propaganda show” and told people not to comply with the evacuation request. A number have reported receiving mass text messages warning the city would be shelled and informing them that buses would be leaving from the port from 7am on Thursday. Andriy Yermak, chief of staff to the Ukrainian president, described Russian announcements as “a propaganda show” as Kyiv said the population transfers amounted to “deportations”.

Russia’s recent admission that a “difficult situation has emerged” in the Kherson region is highly unusual and likely indicates that authorities are considering a major withdrawal of their forces from the area west of the Dnipro river, British intelligence has said.

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Nato allies will act if Sweden or Finland come under pressure from Russia or another adversary before they become full members of the alliance, Nato secretary general Jens Stoltenberg said on Thursday.

On Wednesday Vladimir Putin declared martial law in the four provinces of Ukraine where Russia controls territory. The law gives far-reaching emergency powers to the Russian-installed heads of Luhansk, Donetsk, Zaporizhzhia and Kherson provinces, which Russia recently proclaimed as annexed after sham referendums. Ukraine’s presidential adviser Mykhailo Podolyak described the announcement as the “pseudo-legalisation of looting of Ukrainians’ property”.

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Putin also ordered an “economic mobilisation” in six provinces that border Ukraine, plus Crimea and Sevastopol, which Russia illegally annexed in 2014. In televised remarks he said he was granting additional authority to the regional leaders of all Russian provinces to maintain public order and increase production in support of Moscow’s war. The law also limits the freedom to move in and out of the eight provinces.

Russia’s strikes on critical energy infrastructure are “acts of pure terror” that amount to war crimes, the head of the European Commission has said. Ursula von der Leyen’s remarks to the European parliament on Wednesday came after hundreds of thousands of Ukrainians were left without power or water as a result of Russian strikes.

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The cost to Ukraine of downing “kamikaze” drones vastly exceeds the sums paid by Russia in sourcing and launching the cheap Iranian-made technology, analysis suggests. The total cost to Russia of the failed drone attacks unleashed on Ukraine in recent weeks is estimated by military analysts to be between $11.66m (£10.36m) and $17.9m (£15.9m). The estimated cost to Ukraine to bring down the drones stands at more than $28.14m (£25m).

The EU plans to impose sanctions on three senior Iranian military commanders and the company that develops drones believed to have been used in Russia’s attacks on Ukraine. The draft sanctions list, seen by the Guardian, is expected to be agreed within days, indicating EU ministers do not believe Iran’s denials that it has supplied Russia with the low-flying lethal weapons.

The European parliament awarded the people of Ukraine its annual Sakharov prize for freedom of thought to honour their fight against Russia’s invasion. “They are standing up for what they believe in. Fighting for our values. Protecting democracy, freedom and rule of law. Risking their lives for us,” the European parliament president, Roberta Metsola, said.


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Sam Levine in New York, “Republicans aim to pass national ‘don’t say gay’ law”(2022/10/20, Thu.)(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/20/republicans-national-dont-say-gaw-law-lgbtq(https://www.theguardian.com/us-news/2022/oct/20/republicans-national-dont-say-gaw-law-lgbtq))

Congressional Republicans introduced a measure Tuesday that would prohibit federal money from being used to teach children under 10 about LGBTQ issues.

The bill would prohibit the use of federal funds to teach children about “sexually-oriented material” as well as “any topic involving gender identity, gender dysphoria, transgenderism, sexual orientation, or related subjects”. The effects of such a law, if enacted, would be far-reaching since a range of institutions – schools, libraries, among them – receive public money.

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The bill also gives parents the ability to sue in federal court if their child is exposed to the barred material that is funded “in whole or in part” by federal funds.

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The bill was introduced by Mike Johnson, a Louisiana Republican, and 32 other GOP members of Congress.

“The Democrat party and their cultural allies are on a misguided crusade to immerse young children in sexual imagery and radical gender ideology,” he said in a statement. “This commonsense bill is straightforward. No federal tax dollars should go to any federal, state, or local government agencies, or private organizations that intentionally expose children under 10 years of age to sexually explicit material.”

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Earlier this year Florida’s governor, Ron DeSantis, signed a law that barred schools from teaching about sexual orientation or gender identity until third grade, “or in a manner that is not age-appropriate or developmentally appropriate for students in accordance with state standards”.

More than a dozen states introduced so-called “don’t say gay” bills this year.

Republicans have also targeted drag shows as part of this anti-LGBTQ effort. Idaho lawmakers will reportedly consider a measure to ban drag shows in public.


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Martin Belam, “UK crisis: a beginner’s guide to the political turmoil as Liz Truss quits”(2022/10/20, Thu.)(https://www.theguardian.com/politics/2022/oct/20/uk-crisis-a-beginners-guide-to-the-political-turmoil-as-liz-truss-quits(https://www.theguardian.com/politics/2022/oct/20/uk-crisis-a-beginners-guide-to-the-political-turmoil-as-liz-truss-quits))

Why did Liz Truss resign after only 45 days?
Truss became prime minister on 6 September after a summer campaigning to win the leadership of her Conservative party on a low-tax, high-growth policy platform. Within a couple of days of Truss taking office, the Queen died and politics paused for nearly two weeks of official mourning.

When it resumed, Truss’s then chancellor, Kwasi Kwarteng, announced a package of tax changes including abolishing the highest rate of income tax for the rich. Unusually for the UK, it did not come with a corresponding analysis from the independent Office for Budget Responsibility. That, along with the tax cuts being funded by a huge rise in borrowing, spooked the markets. The pound crashed, the UK’s cost of borrowing rose, and mortgage interest rates rose amid already soaring inflation. The Bank of England had to spend billions to stabilise the pensions market.

After days of Truss insisting her budget was the right course, she made a U-turn on business taxes, and Kwarteng flew back early from an International Monetary Fund meeting in Washington to find himself sacked on arrival. Truss called a press conference to explain her decisions and … didn’t. The televised appearance lasted barely eight minutes, and she took only four questions before abruptly departing. She essentially said: I still agree with my policies, but I’ve sacked my finance minister because he announced them, and the market didn’t like them.

Truss then appointed Jeremy Hunt, who had previously endured heavy criticism for a stint as health secretary (with oversight of the NHS), as the new finance minister. On Monday he announced that almost every single aspect of Truss’s financial programme was to be ripped up, while she sat mutely in parliament beside him, leading people to call him the “de facto prime minister”, and say that she was “in office, but not in power”.

Before his announcement, the opposition Labour party had tabled a question for Truss to explain sacking Kwarteng. Bizarrely, she sent a deputy, Penny Mordaunt – a leadership rival and a possibility for the new PM – to answer on her behalf. Mordaunt said there were very good reasons why Truss could not be there to answer in person – only for Truss to then arrive, but let Mordaunt carry on speaking on her behalf. By now a national newspaper was running a live YouTube video stream asking what would last longer, Truss as PM, or a supermarket lettuce.

Truss tried to rectify this with a TV interview in which she admitted there had been mistakes, but she had fixed them. This was news to everybody facing the prospect of higher mortgages.

With her authority draining away, Truss put up a better than expected performance in the weekly prime minister’s questions in parliament on Wednesday, but then in a bombshell development her home secretary, Suella Braverman, the equivalent of an interior minister, was sacked for sharing a secret government document on a private phone.

Braverman had run for leader against Truss, and had already been publicly criticising the government she was part of. On Tuesday she had launched a widely mocked rant against protesters as “tofu-eating wokerati”. Her Wednesday letter of departure was explosive, admitting she made a mistake, but laying down a gauntlet to Truss to resign over her own mistakes.

Then on Wednesday night there was a vote in parliament with the opposition party trying to ban fracking. The Conservatives had themselves promised not to reintroduce fracking in their last election manifesto, but Truss had wanted to relax the restriction. So her MPs were effectively instructed to vote in favour of fracking, as a matter of confidence in the government, partially just to stop the opposition claiming a victory in parliamentary procedure. That led to ugly scenes in parliament as some witnesses claimed MPs were seen being bullied into voting. Party discipline had almost entirely collapsed, with MPs giving emotional and angry interviews on TV about the state the party was in and calling on Truss to quit.

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So now there will be a general election, right?
Not so fast. Their poll numbers are so bad that Conservatives know if they called an election now they would be facing a Canada-style Conservative wipeout. Instead they will just pick a new leader.

This process normally takes weeks but the party is trying to condense it into the space of a few days. Those running to be leader need to get the backing of at least 100 MPs, meaning there can be three candidates at most. Once that is whittled down to two, party members will get an online vote and a new PM should be in place by 28 October. If only one candidate reaches the 100 threshold they will automatically become the new leader and prime minister.

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How did the Conservatives get to this point?
Although they have been in power since 2010, their government has been characterised by instability since the 2015 election. After winning it, the then prime minister, David Cameron, held a referendum on the UK leaving the EU in 2016, mostly to try to silence the Eurosceptic wing of his party. However, leave won, Cameron resigned, and the party turned to Theresa May as a boring but “strong and stable” pair of hands to steer the UK through Brexit. Her government ended up paralysed by party infighting about what type of Brexit to pursue, and she did not have enough of a majority in parliament to force through her vision. Her solution? Call a “back me or sack me election” in 2017, which delivered her even less of a mandate, and she ultimately stepped down in favour of Boris Johnson.

Johnson got his Brexit deal over the line – even though the party has subsequently tried to disavow elements of it, such as how the trade border with Ireland works. Johnson was then beset by the Covid pandemic, and his well-known laissez-faire attitude to following rules led to a series of scandals, including being fined for breaking his own Covid rules, before eventually two senior ministers resigned in short succession and triggered the collapse of Johnson’s authority and the leadership contest that delivered … Truss.


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Angelique Chrisafis in Paris, “French right votes down move to make abortion constitutional right”(2022/10/20, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/french-right-votes-down-move-to-make-abortion-constitutional-right(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/french-right-votes-down-move-to-make-abortion-constitutional-right))

The French government has said it supports making the country the first in the world to enshrine abortion as a constitutional right, after the right-dominated senate voted down the left’s first attempt at a proposal.

Several political parties in France, from the left to the centrist lawmakers of Emmanuel Macron’s Renaissance party, began pushing for abortion rights to be written into the constitution after the US supreme court’s decision in June to overturn the landmark Roe v Wade ruling, which recognised a woman’s constitutional right to an abortion and legalised it nationwide.

Two proposals for France to give unprecedented constitutional protection for the right to abortion are scheduled to be put before the national assembly, the parliament’s lower house, next month.

But on Wednesday night, rightwing senators from the Républicains party voted against the first attempt at a proposal in the the senate. At times, the debate was heated. Stéphane Ravier, who left Marine Le Pen’s far-right Rassemblement National to join the Reconquête party led by the former TV pundit Éric Zemmour, said the proposal was an attack on life, “a waste of time”, “dangerous, useless”, and a piece of “agitprop”.

The justice minister, Éric Dupond-Moretti, present in the senate, told Ravier: “Imagine you reach power one day, I think the right to abortion would be seriously threatened in this country”. He said the government would support all the parliamentary proposals to make abortion a constitutional right.

Mélanie Vogel, a senator for the French green party, Europe Écologie-Les Verts (EELV), who authored the senate proposal, said that the need to protect abortion was not just a reaction to the threat to abortion rights in the US: “This is also about Europe – abortion rights have been pushed back in Poland and Hungary and could be at risk in Italy. If France enshrines abortion as a constitutional right, that would send a very strong message to all the feminist movements across the world who are either fighting for this right or to stop it being pushed back. It would show that a path of progress is possible, not just regression.”

An Ifop poll for the Fondation Jean Jaurès thinktank this summer found that 81% of people from across the French political spectrum wanted abortion rights to be better protected under the constitution.


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Bethan McKernan in Jerusalem, “West Bank visitors ordered to register romances as Israel brings in strict rules”(2022/10/20, Thu.)(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/israel-imposes-strict-rules-on-travel-to-west-bank(https://www.theguardian.com/world/2022/oct/20/israel-imposes-strict-rules-on-travel-to-west-bank))

Israel has implemented strict rules limiting the ability of foreigners to enter and stay in the occupied West Bank despite international criticism of the measures, which include the compulsory declaration of romantic relationships.

A 90-page ordinance replacing the previous four-page document came into effect on Thursday for a two-year pilot period. It is expected to stifle the Palestinian economy and academia and the work of aid agencies, and create complications for hundreds of thousands of Palestinian families with dual nationality, who are already struggling to navigate a convoluted permit system.

Nearly all foreign nationals coming to volunteer, work or study in the West Bank will be granted only single-entry visas, some valid for just three months, and will have to leave between visas and wait – in some cases for more than a year – before reapplying for entry. In most cases, residency is limited to a 12- to 27-month period, making family life and long-term employment almost impossible.

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People born in Jordan, Egypt, Morocco, Bahrain and South Sudan – even if they have citizenship of a second country – are now barred from the West Bank except under exceptional circumstances. About 60% of the Jordanian population is of Palestinian origin.

Cogat, the Israeli military civil body responsible for government policy in the occupied Palestinian territories, first outlined the new rules in February. Implementation has been delayed and the text revised several times after legal challenges from rights groups citing the formalisation of discriminatory practices.

The proposals made headlines in July when international media picked up on a clause stating that foreigners must inform Israeli authorities within 30 days if they fall in love with a Palestinian.

The one-month period for declaring a romantic relationship and visa cooling-off period for newly married couples has been dropped from the final wording of the document, but Palestinians and human rights organisations say it still requires foreign nationals to declare love interests, as well as non-security-related information such as property or inheritance, at the discretion of Israeli officials.